ベイエリア独身日本式サラリーマン生活

駐在で米国ベイエリアへやってきた独身日本式サラリーマンによる独身日本式サラリーマンのための日々の記録

Burrell's Hair Cutting Place

2023-10-29 09:45:20 | 生活
Burrell's Hair Cutting Placeとは、サウスサンフランシスコ市にある理髪店だ。ニンゲンは古くから髪型の整い具合で人を判断する社会を築いてきた。そのため理容業界は現代社会でも大切な産業となっている。とはいえこの業界は他業種と比べて統合化が進まず、廃れた商店街や貧民層の居住区で小さな理容室が潰れずにやっている(のをよく見る)。それはたとえ頭髪と言えども、自分の体の一部を刃物でもって切断する行為は “心許せる相手に任せたい” という思いがあるためだろう。さて、米国の理髪店のサービスはコスパが非常に悪く、筆者は日本の床屋へ行くのが帰国休暇中の楽しみのひとつなのだが、このBurrell's Hair Cutting Placeは少し違ったので、今回は紹介したい。2023年10月の日本では、ついには元忍者までもがジャニーからの性被害を告白し始めている。



この理髪店の特長は以下の通りだ。参考にしてもらいたい。



①サウス・サンフランシスコの商店街
Burrell's Hair Cutting Placeはサウス・サンフランシスコ市の商店街にある。この商店街は、グランドアヴェニュー東端から300mほどのエリアにあって、かつてのイタリア人移民居住区の名残を見せつつも、南米や中華やフィリピン系といった新たな移民の店の勢いが盛んとなり、さらには富裕層向けの小じゃれた店も増えつつつある多国籍な雰囲気がある。古くから残る小さな店舗の外装には、カラフルなタイル張りが施され、アーチ型の扉があったりと、少しだけ向島の “鳩の街” を思い起こさせる。




②Burrell's Hair Cutting Place外観
その中でもBurrell's Hair Cutting Placeの外観は特に可愛い。入口のドアの左側の出窓部分は水色と黒のタイル張りで、窓ガラスにはレトロなトリコロールサインポールのイラストが描かれている。出窓のガラスの向こうにはアンティークショップのように雑貨が並んでいて、理髪店には見えない。コミュ障似非30代独身日本式サラリーマンの筆者は、初めての理髪店の扉をたたくのがひどく億劫なのだが、この店は何だかついつい引き込まれそうな魅力があった。実はこのBurrell's Hair Cutting Placeのすぐ隣もジェームス・ディーンのポスターが貼られた理髪店なのだが、そっちには全然入りたくない。



③床屋のおやじ
扉を開けるとそこもまたアンティークショップのような雰囲気だ。3台並ぶ水色と黒で塗られたバーバーチェアには年季が入っており、金属製の足置き台には古いメーカー名が刻印されている。そしてここの床屋のおやじが、お洒落な山高帽とシャツとスラックスで決めた背の低い白髪が混じりの黒人で、まるでジャズバンドメンバーのような風貌なのだ。そして筆者のその予想は当たっていた。よく見ると店内のレトロな置物に混じって、ルイ・アームストロング(サッチモ)やコルトレーンの写真が飾られ、そしてこのおやじ本人と思われる男が路上でサクソフォーンを持つ写真もある。




このおやじは可愛くてとても明るいし、それに散髪中には大きなスピーカーでジャズを聞かせてくれるので、とても心地がいい。散髪中にたまに目を開けると、アンティークに囲まれたおもちゃ箱のような空間に居る自分の姿が鏡に映るのもとても楽しい。仕事も悪くない(帰ってから少しだけ“すく”必要があるが・・)。普段はアジアスーパー近くの床屋等で15ドルで散髪を済ませて、15ドルでもコスパの悪さに気分が暗くなるのだが、このBurrell's Hair Cutting Placeは35ドルでも大満足である。おやじ(Mr. B)は毎週木曜日には向かいのベジタリアン・バーでサックスを吹いているのだという。散髪中にもMr.Bの友達という老人が入れ代わり立ち代わりやってくる。暖かいニンゲン同士の直のコミュニティがある。サウス・シティに住む間は、床屋代が嵩みそうだ。

カタナ屋ラーメン

2023-10-17 09:04:14 | 食事
カタナ屋ラーメンとは、バークレー市にある日本料理屋である。“ベイエリアで古本を寄付する”の回で記したように、筆者は古本の処分を目的に“ひまわり会”の古本市開催場であるバークレーを訪ねた。そこは“八百屋さん”なる日本スーパーの前だったのだが、八百屋さんは生憎開店前で、その日は入店せぬまま帰路に着いた。そして最近の孤独で暇な週末に八百屋さんのウェブサイトを見れば、弁当が美味いのだという。『孤独で暇だし、行ってみるか』と、似非30代独身日本式サラリーマンは最近すっかり重くなった腰を上げた。2023年の夏が終われば、ウクライナに続き今度はイスラエルで戦争が始まった。しかし今のところ筆者の周囲は平和である。



このお店の特長は以下の通りだ。参考にしてもらいたい。


①八百屋さんの隣の隣のラーメン屋
カタナ屋ラーメンは八百屋さんと同じ建屋にあり、インド料理屋を挟んで隣の隣の関係にある。八百屋さんの思いの外充実した品揃え(特にうどん・そうめん類)から、周辺地域の日本文化の浸透ぶりを意識した筆者は、この辺りの日本料理屋にも期待ができそうだと判断した。そこで八百屋さんでの弁当購入計画を中断し、久しぶりにレストランへ入ってみることにした。そして手っ取り早く、隣の隣のカタナ屋ラーメンの扉を開けたのだった。表からは中が見えにくい造りだが、古めかしい暖簾に『恐怖新聞』のような力強い書体で『刀屋ラーメン』と書かれている。



②中の様子
しかし扉を開けてすぐに懐かしい気分になった。それはコネチカット州マンチェスター市のハナ・スシの雰囲気を思い出させたのだ。提灯やなかなか立派な鯉の木彫りをぶら下げたり、丸額縁に掛けられた日本画などで雰囲気を出してはいるが、どことなく米国式ジャパニーズの香りがある。しかもこの店はラーメン屋ではなく日本料理屋のようだ。扉を開けた正面のカウンターに居る白人女子二人組はロール寿司を食べているし、案内されたテーブルの近くの中国人と思しきグループは所謂BENTO‐BOXを食べている。期待した日本料理レストランとは違うことは明らかだったが、なかなか面白い雰囲気で、残念な気持ちはなかった。



③メニュー・店員
ホールのリーダー格と思われる痩せた中年女性店員は、一見強面だが気さくだ。そしてよく見ると新垣結衣そっくりで笑える。一見“琉球らしさ”が薄い新垣結衣さんが、やはり南国顔であることが彼女を見ると認識できる。メニューはBENTOモノから丼物、スシと比較的豊富で選び甲斐がある。隣のテーブルにいる母娘が食べるBENTOは、から揚げと豚照り焼きがボリューミーに盛られていた。また、正面にはカツ丼をパクつく中年アジア女性がいた。カツ丼は調理された人参やシイタケが丁寧に添えられていて美味そうだし、小さな丸いコロッケのようなものも添えられている。だが筆者の胃袋はラーメンの準備万端だった。ラーメンのメニューも豊富だが、最近北米で人気のこだわりラーメンの様子は感じない。それに“から揚げラーメンや餃子ラーメン、照り焼きラーメン”などといったやや珍妙なメニューが多い。せっかくなので最も珍妙な、『エッグ・フラワー・ラーメン』を注文してみた。




エッグ・フラワー・ラーメンは蟹肉の入った卵とじ焼きが載った天津麺だ。塩味あっさりスープは、フワフワとは言い難いが確かに柔らかい卵とじと相性がよく、なかなかいい味のラーメンでした。麺は卵麺が固めに茹でてあってコシがある。日本のことをよく知る人により調理されているように思われる。筆者がラーメンを食べている間にもお客は増え続ける。日系移民っぽいグループのお客は、新垣結衣とは馴染みのようで親しげに話していた。近所に愛される老舗なのかもしれない。帰りのベイブリッジは、何でも空軍による航空ショーがあるとかで交通が混雑していた。関ケ原の戦いのおりにも、農民たちは弁当を持参して見物に行ったという嘘か本当かわからない話もある、やはり人は争いが好きなようだ。

がつ刺し

2023-10-09 07:42:58 | 食事
がつ刺しとは、豚の胃袋を茹でて調味料と和えた料理のことを言う。牛の胃袋はミノ、ハチノス、センマイ、ギアラと4種もあるのに対して、豚のそれはニンゲンと一緒で一つである。それは食性の違いに起因する。牛は彼らの主たる食物の“草”をタンパク質に変換するために多くの消化器官を必要とするが、もともと猪だった豚の主食はどんぐりなどの木の実やイモなどのため、それをタンパク質に変換するのに牛ほどの消化器官を必要としないのだ。といった雑学の披露はさておき今回は、フィリピン系アジアスーパーで、豚ガツ細切れパック詰めを見つけたので、がつ刺しを試してみたお話をする。日本ではついにジャニーズ事務所が、なんでも『スマイル・アップ』という名前に変わるという話だ。


この食材の特徴は以下の通りだ、参考にしてもらいたい。


①豚ガツ(細切れ)を見つけたのはパシフィック・スーパー
豚ガツの細切れがパック詰めされたものを見つけたのは、最近(筆者の中で)話題のパシフィックスーパーである。フィリピン系であることが判明したこのパシフィック・スーパーでは、万引き防止のためにリュックはレジ前の酒や米を扱うコーナーで預けなくてはならない。仕事帰りの空腹時に立ち寄った時などは、ついつい預けたリュックの引き取りを忘れて長屋まで戻ってしまったりして、大変イライラする。豚ガツは前々回の記事で紹介したピナパイタン・ミックスの上部に置かれている。隣には豚ミミの細切れがあるので、ついつい『なんだ、豚ミミか』と見逃すとことろであった。



②豚ガツ(細切れ)
筆者の北米暮らしはかれこれ10年近くになり、様々な国のスーパーでモツ肉探索をしてきたが、このような豚ガツ細切れパックを見たことがなかった。“フィリピン人は豚ガツを何に使うだろう”とネットで調べてみれば、そこには古来の土着文化に、スペインや中国文化が加わった独特の食文化が見つかり、俄然フィリピンへの親近感が湧いてくる。値段はパウンド4ドル程度と格安なので、30代独身日本式サラリーマンの財布にも優しい。



③豚ガツ刺し
パックから取り出さした豚ガツは、一口大よりはやや大きいサイズで切られている。ガツ刺しを楽しむには大きすぎるので、これをまた細切れにして、そして沸騰した水が入った鍋に放り込むのだ。このとき生姜や野菜の切れ端なども(あれば)放り込む。10~15分ほどグラグラと茹でればできあがりだ。ざるに揚げて輪切りのネギと混ぜてタッパーに取っておく。食べる直前にごま油と醤油やポン酢などを好みでかければよい。これがさっぱりしたおつまみで、ビールと合う。コリコリとした食感と豚の香り、それにごま油の風味が合わさって食欲をそそる味だ。他の部位に比べて傷みにくいようで、冷蔵庫に何日か置いておいても大丈夫そうな点も、30代代独身日本式サラリーマンの生活に優しい。



豚ガツは、脂質少なめで高たんぱく、且つビタミン類の栄養価がたっぷりでかなりの健康食のようだ。免疫力アップや高血圧の予防に加え、“精神の安定”にもよいのだという。似非30代独身日本式サラリーマンにも男性更年期障害の傾向が見られてきた。何でも独身男性の平均寿命は60歳代といい、弱者男性のネット世界では『年金を払う意味がない』とのコメントすら出てきている。酒や煙草などの昭和男性の間違った嗜みや、独身生活からくる不安定な食生活なども影響があるだろうが、何よりも根本の原因には、『誰にも必要とされていない』と思う状態だと思う。ニンゲンは誰かに必要とされていないと、急に弱るのだ。しかし身近な人が全てではない。豚ガツ業者は今日も筆者を必要としているだろう、さぁ今日もパシフィック・スーパーへ出かけよう。

洗濯機を運ぶ

2023-10-02 08:45:58 | 生活
洗濯機を運ぶとは、筆者が大学院を卒業して長屋を出る際に、洗濯機をタカハシに譲った時の思い出話である。“ランドロマット”の記事を書いている時にふとこの出来事を思い出したのだ。大した経験ではない。だが米国の駐在員用アパートメントでは洗濯機は乾燥機と共に部屋に備付になっていることが多く、自分用の洗濯機を購入することはほぼない。よって洗濯機を自力で持ち運ぶことなど滅多にないだろうから、まぁ貴重な経験ともいえる。それに人の優しさや社会の厳しさをも味わった思い出深い一日の話なので、ここに記録しておこうと思う。2023年9月の日本は円安が進み、ついには1ドル150円に到達しそうな状況にある。


この思い出の詳細は以下の通りだ。参考にしてもらいたい。


①洗濯機を運ぼう。
筆者は大学院を卒業し、就職のために上京することになり、長く暮らしたコスモビルを出ていく段取をしていた。一方タカハシは地元の企業への就職を決めたのを機に、ついに実家を出て一人暮らしを始めることにしていた。『女子を連れ込むのだ』と意気込んでいたが、いかんせんタカハシには金がない。そこで筆者の使い古した電子レンジと洗濯機を、タカハシの新居へ運んでしまう計画を立てたのだった。タカハシの新居はコスモビルからは30㎞ほどある。苦学生だった我々には『軽トラを借りる』などという発想はなく、バスと地下鉄を乗り継いで向かうことにした。“駅員や運転手に驚かれて怒られるかも知れないが、苦学生の引越しだと説明すれば分かってもらえるはずだ“ ”断られたら断られたときよ“と楽観的な気分でいた。



②バスに乗る。
タカハシがどこからともなく台車を用意してきたので、それに洗濯機を載せてタカハシがゴロゴロと押し、筆者は電子レンジを抱えて市役所前のバス停でバスを待った。やがて目的地行きのバスが来て扉が開くと、『えぇえーっと?! それ運ぶんですか!!??』と予想どおり運転手に驚かれた。筆者らは真面目な貧乏学生気取りで、しかし敢えてハキハキ口調で、『はい。引っ越ししなくてはならず、でもお金がなくて、それでどうしても載せたいのです』と答えると、『・・・一応荷物の制限はあるんですが・・ いいでしょう・・』と受け入れてくれた。実は筆者とタカハシの、“昭和ハンサム笑顔”と“純朴メガネ浪人生風貌”のコンビは、どこからどう見ても安全で、第一印象が良いのである。ちょうど車いす用のスペースが空いており、そこに洗濯機の載った台車を置かせてもらい、洗濯機の上に電子レンジを置いて、バスは走りだした。『もしも車いすの方が乗車された場合はそこで降りてもらいます』と言われた。そりゃあそうだ。



③ロープを持った男たち
町の中心部へ向かうバスは降りる客より乗る客の方が多く、だんだんと社内が混雑してきて周囲の目が気になり始める。そしてとあるバス停に止まると、ニ、三人のバス会社の係員がドカドカと乗り込んできて、周りをきょろきょろした後に筆者らを見つけて近づいてきた。『何や、洗濯機かー』と呆れたようにぼやき、『固定させてもらいます』とロープを取り出して手摺に洗濯機を縛り付け始めた。どうやらバスが混雑してきたために、安全のために運転手がバス会社に一報入れたようだ。筆者とタカハシは、とにかく『すみません、すみません』を繰り返す“低姿勢作戦”で難を乗り切った。当時のバス会社の人々は、ルールを盾にして貧民苦学生の思いを簡単に無下にするような冷たい人々は少なかったようだ。ビル群立ち並ぶ町の中心部でバスを降りたった筆者とタカハシは、ニンゲンの優しさに触れたような心地で不思議な高揚感があり、このまま地下鉄もすんなり行けるに違いないと強気になっていた。




④地下鉄の改札にて
バリアフリー化の進んだ地下鉄駅では、エレベーターを使えば洗濯機をコンコースまで運ぶことは簡単だ。切符を買って、自動改札までゴロゴロ台車を押し進める。そこには明らかに“不審者”を見咎めるような顔つきの駅員が待ち構えており、筆者は咄嗟に『まずい』と思い、電子レンジを抱えてタカハシより先に改札を突破してみた。その閻魔様のような駅員をちらりと見れば、彼の眼は、明らかに後方で洗濯機を押すタカハシに注がれていた。タカハシは駅員に捕まり、5分ほどの押し問答の末にぷりぷりと憤慨しながら洗濯機と共に改札を通過してきた。タカハシの談によれば、その駅員からは“ふざけとんのか”“えぇ訳ないやろ”などとおよそ非論理的な口撃に遭い、それに対して“ふざけてはいません”“荷物を運んでいるだけです”と毅然と対応したところ、“次は許されんからな”という意味不明な悪態の後に通過を許されたのだという。『結局ゆるすんかーい!』という突っ込みを入れずにはおれなかった。



ホームで駅員の悪口を言いながら地下鉄を待っていたらば、ふいにさっきの閻魔駅員とは別の若い駅員が、車いす利用者用の段差スロープを抱えて階段を降りてきた。3月の昼下がりのホームは閑散としていて乗客は筆者らしかおらず、車いす客は見当たらない。『タカハシ、世の中は捨てたもんじゃぁないぜ。さっきの閻魔駅員たぶん悪い人じゃない。きっとあの若い駅員に“おい、あの兄ちゃんらの乗車手伝ってやったれ”って言ったんだと思うな』とタカハシに伝え、ウキウキと彼の応対を待った。そしてついに電車がやってきて、若駅員は一番前の車両から降りてくる車いす客をいそいそとサポートしはじめ、筆者とタカハシはその隣のドアから『よっこらっしょ!』と台車を自力で車両に運び込んだ。タカハシの新居の窓からは青空と古城が見えた。世界は今ほどにはオープンではなく、SNSで何でもかんでも拡散されることのなかった時代の話だ。