黄金町は神奈川県横浜市中区にある町である。筆者は横浜とは縁の少ない人生を送ってきたように思う。うんと頑張って横浜との思い出をひり出したところ、就活面接で鶴見にやってきた際に初めてサンマーメンなるものを食べたこと、そのとき見たみなとみらいビル群の近未来感に圧倒されたことなどぐらいしか思い出せない。しかし今回の一時帰国中に、横浜に家族を持つ郷里の友人に会うことになったのだ。そこで筆者は静かで、でもいい飲み屋があるに違いないと思われる黄金町での会合を所望したのだった。そしてその会合に宇都宮からももう一人旧友が駆けつけてくれることになったので、筆者の心は久方ぶりにウキウキしていた。
以下が黄金町での会合の詳細だ。参考にしてもらいたい。
①一件目 和泉屋
大岡川の川辺のホテル前で旧友と落ち合う。宇都宮からの旧友は相変わらず間抜けなところがあり、『財布を忘れた』という理由で遅れるとのことだったので、2人で和泉屋に入って待ち、必要であれば河岸を変えることにした。京急黄金町駅のすぐ近くにある和泉屋は老舗らしい作りで筆者の好みに合う門構えだ。扉を開けると1階の席はほぼ満室だったので不安になったが、“二階が空いている”と案内され、祖父母の宅のような急な階段を上り、座敷の席に着いた。赤貝、いか、いわしの刺身をつついているとほどなくして宇都宮もやって来たので、本格的な飲み会のはじまりだ。
②一件目 和泉屋のつづき
米国帰りの30代独身日本式サラリーマンにとって刺身や白子鍋やタコ唐揚げなどが美味なのは至極当然の話だ。それに加えてこの和泉屋は接客店員が素晴らしい。もう随分年増の女性店員が幾人か居るのだが、黄金町の元小料理屋の女将たちなのだろうか、“待って待って、ここはまだ昭和だから、注文はメモなの”“瓶ビールの方が生ビールよりお好きなの?”“白子鍋、何人前にする? 二人前くらいがいいかしらね”“待ってね、今お鍋持ってくるからね”“じゃ、今日は私アガリだから、またいらしてね”などやけに親し気な口ぶりで対応してくれるのがやけに心地よく、微かな色気を感じる。近年の接客教育などでは決して培われない温かみが、30代独身日本式サラリーマン(旧友2人は既婚子持ち・・)の心を癒やしたのだ。
③二件目 上州
和泉屋に閉店まで居座ったズッコケ三人組はすぐに二件目を探した。大岡川を渡り小路をふらついていると見つけたのが上州だ。扉を開けて閉店時間を尋ねると0時とのことだったので、閉店まで少しだけお邪魔することにした。店内の一階はカウンター数席と小上がりが一卓あるだけの小さな酒場で、我々の両親よりも少し若いくらいの夫婦が経営している。ここではかわはぎ丸々一尾のお刺身とウドぬたを頂きながら、たぶん冷酒を飲んだと思う。閉店間際で主人と女将もリラックス状態で話しかけてきてくれ、5人で楽しく語らいながら飲み続けた。ここもまた人情味あふれる素敵な酒場だ。
二日酔いの朝、黄金町周辺を少しだけ歩いてみたら、ふと何だかとっても懐かしい、でも何だか痛い気持ちに襲われた。そう、ここには一度来たことがあった。あれは毎日がとても辛かった渡米前の初夏、休日にウディ・アレンの映画が上映される唯一の映画館といういことで、一人でここの映画館へ行ったのだった。あのスラム・元娼窟街から新しいサブカル町へと変貌しようとする独特な雰囲気が、とても印象的だったことをすっかり忘れていた。2019年11月の黄金町はまだ温かく、二日酔いと食べすぎと時差ぼけで胃が重く、頭が重く、身体が重かったが、心は軽やかであった。
以下が黄金町での会合の詳細だ。参考にしてもらいたい。
①一件目 和泉屋
大岡川の川辺のホテル前で旧友と落ち合う。宇都宮からの旧友は相変わらず間抜けなところがあり、『財布を忘れた』という理由で遅れるとのことだったので、2人で和泉屋に入って待ち、必要であれば河岸を変えることにした。京急黄金町駅のすぐ近くにある和泉屋は老舗らしい作りで筆者の好みに合う門構えだ。扉を開けると1階の席はほぼ満室だったので不安になったが、“二階が空いている”と案内され、祖父母の宅のような急な階段を上り、座敷の席に着いた。赤貝、いか、いわしの刺身をつついているとほどなくして宇都宮もやって来たので、本格的な飲み会のはじまりだ。
②一件目 和泉屋のつづき
米国帰りの30代独身日本式サラリーマンにとって刺身や白子鍋やタコ唐揚げなどが美味なのは至極当然の話だ。それに加えてこの和泉屋は接客店員が素晴らしい。もう随分年増の女性店員が幾人か居るのだが、黄金町の元小料理屋の女将たちなのだろうか、“待って待って、ここはまだ昭和だから、注文はメモなの”“瓶ビールの方が生ビールよりお好きなの?”“白子鍋、何人前にする? 二人前くらいがいいかしらね”“待ってね、今お鍋持ってくるからね”“じゃ、今日は私アガリだから、またいらしてね”などやけに親し気な口ぶりで対応してくれるのがやけに心地よく、微かな色気を感じる。近年の接客教育などでは決して培われない温かみが、30代独身日本式サラリーマン(旧友2人は既婚子持ち・・)の心を癒やしたのだ。
③二件目 上州
和泉屋に閉店まで居座ったズッコケ三人組はすぐに二件目を探した。大岡川を渡り小路をふらついていると見つけたのが上州だ。扉を開けて閉店時間を尋ねると0時とのことだったので、閉店まで少しだけお邪魔することにした。店内の一階はカウンター数席と小上がりが一卓あるだけの小さな酒場で、我々の両親よりも少し若いくらいの夫婦が経営している。ここではかわはぎ丸々一尾のお刺身とウドぬたを頂きながら、たぶん冷酒を飲んだと思う。閉店間際で主人と女将もリラックス状態で話しかけてきてくれ、5人で楽しく語らいながら飲み続けた。ここもまた人情味あふれる素敵な酒場だ。
二日酔いの朝、黄金町周辺を少しだけ歩いてみたら、ふと何だかとっても懐かしい、でも何だか痛い気持ちに襲われた。そう、ここには一度来たことがあった。あれは毎日がとても辛かった渡米前の初夏、休日にウディ・アレンの映画が上映される唯一の映画館といういことで、一人でここの映画館へ行ったのだった。あのスラム・元娼窟街から新しいサブカル町へと変貌しようとする独特な雰囲気が、とても印象的だったことをすっかり忘れていた。2019年11月の黄金町はまだ温かく、二日酔いと食べすぎと時差ぼけで胃が重く、頭が重く、身体が重かったが、心は軽やかであった。