読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

映画「愛を読むひと」の源流ミステリ、「ゼルプの殺人」(ベルンハルト・シュリンク著/2001)

2009-07-04 06:15:52 | 本;小説一般
<主な登場人物>
ゲーアハルト(ゲアト)・ゼルプ・・・私立探偵
ベルトラム・ヴェルガー・・・ヴェラー&ヴェルカー銀行 頭取
シュテファニー。ヴェルガー・・・ヴェルカーの妻
ヴェラー老人・・・シュテファニーの父、ヴェラー&ヴェルカー銀行 元頭取
グレーゴア・ザマリン・・・ヴェルカーの部下
アードルフ・シューラー・・・退職教師
ヴェーラ・ゾボタ・・・ソルビア協同組合銀行 頭取
ルードルフ(ルーディ)・ネーゲルスバッハ・・・ハイデルベルク警察 警視正

現在公開中の映画、「愛を読むひと」はまだ観ていませんが、その原作「朗読者」(1995)は、数年前に読んで思わず涙してしまった作品でした。以来、このベルンハルト・シュリンクの作品に興味を持ち、2003年に「ゼルプの裁き」(1987)、2005年に「ゼルプの欺瞞」(1992)を読みました。そしてミステリ三部作の最後が本書「ゼルプの殺人」でした。

主人公は、ナチ時代の検事という経歴を持つ私立探偵ゲーアハルト・ゼルプ。旧東ドイツ領域で1923年に生まれた彼は、戦後、ナチとしての過去のために法曹界に登用されず、その後、復帰が認められても、自分たちの過去などなかったように振舞って復帰した同僚連中と同じだと見なされるのに抵抗し、私立探偵の道を歩んでいました。本作のゼルプは、2001年が時代設定だとすれば、既に78歳。

ひと口にドイツといってもその歴史がかなり複雑です。とくに近代以降だけを概略しても次のような変遷を辿ります。

・ドイツ帝国(1871年 – 1918年)
・ヴァイマル共和国(1918年 - 1933年)
・「ナチス・ドイツ」(1933年 - 1945年)
・連合軍軍政期(1945年 - 1949年)
・1949年、ボンを暫定的な首都とするドイツ連邦共和国(西ドイツ)とベルリンの東部地区(東ベルリン)を首都とするドイツ民主共和国(東ドイツ)に分裂。
・1989年、ベルリンの壁崩壊。1990年のドイツ再統一によって、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)を構成していた15県および東ベルリンが6州としてドイツ連邦共和国に編入されて、現在の16州となった。

ゼルプはヴァイマル共和国下に生まれたわけですが、青年期は東西ドイツ分裂下のドイツで生きることになります。旧東ドイツ人を「ホッシー」、旧西ドイツ人を「エッシー」と呼ぶそうですが、現在の北朝鮮半島の人々の境遇のように、分裂された国家はイデオロゴギーの違いの中で両国民間に大きなしこりをつくっているんですね。そういう意味では、日本は大変恵まれたのであり、北朝鮮半島はその犠牲となったのだと言えます。

本作のストーリーにはこうした背景があるということを理解しておくと、単なるミステリの妙を追うことに加えて、それぞれの登場人物のキャラが際立ってくるのではないでしょうか。

本作で、数少ない実在上の人物として、名前が登場する人物にヒルデガルド・クネフという女性がいましたので、チェックしておきます。

ヒルデガルド・クネフ(1925/12/28-2002/2/1);気性の激しさを演技にフィードバックする国際派女優、歌手。高校卒業後、俳優学校で演技を学ぶ。戦後再び演劇を志し、「題名のない映画」「罪ある女」の主演で脚光を浴び、「暁前の決断」でアメリカ映画デビュー。55年にブロードウェイで「絹の靴下」で成功し、戦後のドイツ国際派スターとなるも、第二次大戦末期のベルリンで男装してソビエト軍と戦ったという前歴からハリウッドで妨害や嫌がらせを受け、ドイツに戻った。2002年、肺感染症のためベルリンの病院で死去。

<ヒルデガルト・クネフ - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%8D%E3%83%95


冒頭で紹介した三部作の前二作、私はその内容をすっかり忘れていましたので、ここで簡単に触れておきます。

「ゼルプの裁き」:

~環境破壊の進む八〇年代の西ドイツで、義兄の経営する化学工業会社のハッカー追跡を依頼された私立探偵ゼルプは、調査を進めるうちに義兄と自分の過去に関わる重大な事実をつかむ。戦前ナチの政権下で検事だった彼は、過去の罪の意識を頑なに持ち続け、自ら歴史の暗闇に入り込んでいくが…。『朗読者』の作家が知人と共作した初の長編ミステリ。~

<『ゼルプの裁き』 ベルンハルト・シュリンク>
http://homepage2.nifty.com/crimewave/crime/shrink/selps%20justis.html


「ゼルプの欺瞞」:

~行方不明の娘を探してほしいという依頼を受けた私立探偵ゼルプは、女子大生の彼女の生活から手がかりを掴もうとするが、関係者は非協力的、さらに“父”だと名乗った依頼者の男も正体不明だった。そして彼女の知人である医者が殺されたとき、闇に葬られた過去の基地爆発事件が浮上してきた…。ベルンハルト・シュリンクがあの『朗読者』に先だって一九九二年に発表し、翌年ドイツ・ミステリ大賞を受賞した話題の長編小説。~」

<『ゼルプの欺瞞』 ベルンハルト・シュリンク>
http://homepage2.nifty.com/crimewave/crime/shrink/selbs%20betrug.html


ベルンハルト・シュリンクについては、「朗読者」について書いた下記の記事で取り上げましたので割愛します。

<15歳の少年と36歳の女性の切ない恋と忌わしい秘密が迫る、「朗読者」(ベルンハルト・シュリンク)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/8d26222ee6a392c0962413473a05e979


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