読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

愛にだけは躊躇わない10人の女たち、「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」(江國香織著)

2009-08-19 12:07:35 | 本;小説一般
~愛を通して人生を切りとる傑作短篇集。安全でも適切でもない人生の中で、愛にだけは躊躇わない、あるいは躊躇わなかった10人の女たち。愛することの喜び、苦悩、不毛……。~

<収録作品>
「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」
「うんとお腹をすかせてきてね」
「サマーブランケット」
「りんご追分」
「うしなう」
「ジェーン」
「動物園」
「犬小屋」
「十日間の死」
「愛しいひとが、もうすぐここにやってくる」

本書は2002年に第1刷が発行された短編集。著者の江國さんはこの著作に対し、あとがきで次のように述べています。

~短編小説を書きたい、と思い立ちました。いろいろな生活、いろんな人生、いろんな人々。とりどりで、不可解で。愛にだけは躊躇(ためら)わない—あるいは躊躇わなかった—女たちの物語になりました。人生は勿論泳ぐのに安全でも適切でもないわけですが、彼女たちが蜜のような一瞬をたしかに生きたということを、それは他の誰の人生にも起こらなかったことだということを、そのことの強烈さと、それから続いていく生活の果てしなさと共に、小説のうしろにひそませることができたら嬉しいです。~

~瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。SAFEでもSUITABLEでもない人生で、長期展望にどんな意味があるのでしょうか。私もまた、考えるまでもなく彼女たちの一人なのでした。~

It’s not safe or suitable for swim
この英文と「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」という邦題は、私がかつてどこかで聞いたことのあるものでした。それでそれがどんな内容だったか思い出そうとしましたが、結局わからず仕舞い。きっと誰かが本書を読んで引用したものを私が見たのだったのでしょうが、見事な表現の好例として、次の言葉を思い出しました。

それは、アイルランド 生まれの探検家 アーネスト・シャクルトン(Sir Ernest Henry Shackleton,1874 -1922 )が、1902年 にロバート・スコット の第一回南極探検隊に参加する際、事前の1900年 に同志を募るために出した次の募集広告です。

~求む男子.至難の旅.僅かな報酬.厳寒.暗黒の長い日々.絶えざる危険.生還の保証なし.成功の暁には名誉と賞賛を得る――アーネスト・シャクルトン~

<広告の金字塔と呼ばれる1900年の求人広告~求人広告を利用した適材採用(1)~>
http://ameblo.jp/asongotoh/entry-10151669266.html


閑話休題。江國さんが、「蜜のような一瞬をたしかに生きたということを、それは他の誰の人生にも起こらなかったことだということを、そのことの強烈さと、それから続いていく生活の果てしなさと共に」描いたというその短編は、次のような内容です。


「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」・・・It’s not safe or suitable for swim
93歳になる祖母の入院を巡ってしばらくぶりに会する葉月、妹の薫、母の人間模様。葉月の「ろくでもない男」と母が今も愛する、亡くなった「いい男」である父への想いが交錯する。

「うんとお腹をすかせてきてね」・・・We must be famished
ディレクターを務める美代と「国さん」こと、広告写真のカメラマン国崎裕也と食事とセックスを通じた愛の証し。

「サマーブランケット」・・・Summer blanket
40代半ばの「お嬢さん」道子と大学生のカップル、まゆきと大森の海辺の家でのひととき。

「りんご追分」・・・Ringo oiwake
「若くない男性客」ばかりのカウンターパブ「ねじ」でバイトをする31歳のさちこと倦怠期にある恋人の智也と「保険のおばちゃん」こと、友人の美樹。店長はローリング・ストーンズ好きでサーファー歴30年の勲。店が引けた朝方の帰り道で、いきなりトランペットで吹かれた「おそろしくゆっくりの、暴力的なまでに巧みな」その「りんご追分に」にむせび泣くさちこ。

「うしなう」・・・Missing
「私」持田、玄関マットのリース会社で営業をする夫、ボーリング仲間の山岸静子、新村由起子、堤文枝のそれぞれの「喪失の過程」。

「ジェーン」・・・Jane
1987年のアメリカ。紘子とルームメイトのジェーンとその恋人チャップ。妻子ある40代の向坂さんのアメリカ転勤と一緒に渡米した紘子のその生活。

「動物園」・・・Zoo
陽子、樹(いつき)、「途方もなくやさしい男」で」外車を売っている夫・聖(さとし)。聖は樹の誕生を前に「赤ん坊になじむことができない」と家を出る。そんな親子が上野動物園で再会する。

「犬小屋」・・・Kennel
私と何でも聞いてくれる夫・奈津彦。貧乏なのに「ワインだけはいいものじゃないとね」という兄の涼一の妻だった郁子、同居人の文代。犬を飼うことになって夫は犬小屋を作ったまま、そこに住み込んでしまう。

「十日間の死」・・・Death for 10 days
舞台はフランス。17歳の逃亡者・加藤めぐみ、ハーレーダビットソンに乗る35歳のアメリカ人・マークとその妻でワインシャトーを持つセレブ・ナディア。めぐみは自ら起こした事件のため10日間の逃亡生活を送る。

「愛しいひとが、もうすぐここにやってくる」・・・He is on the way
毎週月曜日の夕方に逢引をする、50過ぎのアートディレクターの妻帯者の男・久紀(ひさき)と40を過ぎた私。私は新宿の雑居ビルに帽子製作のオフィスを構えている。二人は「恋愛がすべてではない」と認め合い、「どうあがいても愛している」と思っている。二人にとって「大切なのは快適に暮らすことと、習慣を守ること」。


江國 香織 (えくに かおり、1964年3月21日-) は、「日本の小説家、児童文学作家、翻訳家、詩人。 1987年の『草之丞の話』で童話作家として出発、『きらきらひかる』『落下する夕方』『神様のボート』などの小説作品で、女性のみずみずしい感覚を描く作家として人気を得る。2004年、『号泣する準備はできていた』で直木賞受賞。詩作のほか、海外の絵本の翻訳も多数。父はエッセイストの江國滋」。

<江國香織 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E5%9C%8B%E9%A6%99%E7%B9%94

「映画『スイートリトルライズ』特集 | 撮影現場フォトアルバム」
http://www.cinemacafe.net/special/sweetlittlelies/


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