先日 紀尾井ホールで開演された千恵Lee Sadayamaさんのソプラノリサイタルに行ってきました。2004年よりイタリア・ミラノに留学、5年間研鑚され、さらにイギリス・ロンドンで研修を重ね、昨年より日本を中心に活躍されている才能豊かなソプラノ歌手です。以前、ご招待をいただきながら診療の都合でうかがえなく残念に感じていただけに、今回のリサイタルは、期待以上に堪能させていただきました。ヴェルディ作曲のオペラ「オッテロ」からのアヴェ・マリア、オペラ「椿姫」からアリア「さようなら、過ぎ去った日々よ」、プッチーニ作曲のオペラ「ラ・ボエーム」から「私の名はミミ」「愛らしい乙女よ」、「蝶々夫人」から「ある晴れた日に」等々、比較的私でも知っている曲々を心に染み入るように表現され、最も優れた音楽は人間の声ではないかと感じる時間でした。本当にどの曲も素晴らしいものでしたが、ただ最後に聴衆のアンコールに応えて歌われた「アリラン」が不思議に少し異なる感覚として今でも心に残っています。
「アリラン」は桔梗の花に寄せて恋の心を唄った「トラジ」と共に、韓国を代表する二大民謡の一つですが、昨年12月にユネスコの世界無形文化遺産に登録されたことで世界的に広める取り組みが活発におこなわれています。京畿道地方の労働歌謡を発祥とされ、現在に至るまで民族に愛され謳われ続けた「アリラン」ですが、その本当の起源やアリランという言葉の意味に関しては、‘アリラン百説’といわれるように未だ学術的定説はありません。また旋律は地方により異なり、歌詞もその時代時代、地域によって様々です。アリラン博士として知られる朴敏一河原大学教授の調査によって、民謡‘アリラン’は186種、2277連が確認されていますが、「密陽アリラン」、「珍島アリラン」、「旌善アリラン」などが特に有名です。今一般的に謡われる正調アリランと呼ばれるものは、1926年植民地時代の映画「アリラン」の主題歌がもとになっています。
アリランは単なる歌ではなく「朝鮮の庶民社会を如実に反映した鏡であり、海外に住む僑胞も含む朝鮮人の心の故郷である」と著書「アリランの誕生」の中で宮塚利雄氏が述べているように、謡うものの魂の叫びであり、アリラン峠は目には見えない心の痛みのようです。「アリラン アリラン アラリヨ アリラン峠を越えて行く、私を捨てて行く愛しの君は 十里も行かずに足が痛む」
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