美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

誤訳と意訳

2015-07-27 14:42:15 | Weblog

先月、日本の某テレビ局が韓国関連の特集番組で、韓国人へのインタビュー内容について実際の発言と異なる字幕を流したことが話題になりました。日本の印象に関するインタビューで一人の女子高生が韓国語で「文化がとても多いです。そして外国人が本当に多く訪問しているようですね」と話す場面で、字幕は「嫌いですよ。だって韓国を苦しめたじゃないですか」と流れたものです。また、別の男性も「過去の歴史を反省せず、そういう部分が私はちょっと…」と答えているのに対し、字幕は「日本人にはいい人もいますが、国として嫌いです」と表示されました。最終的にはテレビ局は、字幕の発言は実際にあったものの、編集作業の間違いであったとして謝罪しましたが、大手テレビ局の報道特番としてはあまりにも稚拙なミスでありしっくりしないところです。

一方2ヶ月程前でしたが、韓国の大手新聞の日本語サイトに「外国人観光客数、嫌いな日本に抜かれた韓国」という題名のコラムを目にしました。円安の影響と観光政策やインフラの不十分さから観光面で日本に後れをとったという内容ですが、あえて‘嫌いな日本’と付けた理由がわからず、韓国語サイトの原文記事をみると案の定「日本に追い越された観光」というごく自然な原題でした。日本語訳では刺激的に意訳?することで読者の目を引こうとしたのか、私にはその意図が理解しかねますが、果たしてコラムの執筆者は納得しているのか聞いてみたいところです。同じ事象であってもとらえ方は、個人個人の価値観や立場により異なります。まして外国人が外国語を通して相手に思うところを伝えようとするならば、できるだけ正確に言葉を選ぶ必要があります。誤訳にまつわるエピソードと言えば、鳥飼玖美子 立教大学教授の著書「歴史を変えた誤訳」の中に、1945年当時のアメリカ、中国、英国の首脳により日本軍の無条件降伏を迫ったポツダム宣言に関するものがあります。受諾しなければ「迅速且つ完全なる壊滅あるのみ」と迫られた日本は当初、交渉の余地を残す意味も含めノー・コメントの立場をとる方針でしたが、軍部の強硬な要求もあり会見で「政府としては重大な価値あるものとは認めず黙殺」と述べられ、この黙殺(ignore it entirely)が海外通信社でreject(拒絶する)と訳され報道されました。著書ではその後の原爆投下にもこの誤訳が影響を与えた可能性を指摘しています。勿論、あくまでも仮説の一つですが、当時の日本国内の世論の調節や条件交渉のための時間稼ぎを考えた‘黙殺’というニュアンスは‘拒絶’では伝わらないのは確かです。

得てして直訳では全く意味が通じないのが外国語の難しさですが、意訳に走りすぎると翻訳者の言葉になってしまう恐れがあります。しかし、もっと怖いのは意訳や誤訳に第三者の意図が隠れている場合かも知れません。

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