少し前、地方からわざわざ肌の相談で男性が来院しました。受付の職員の話によると予約電話では、私のクリニックでシミの治療を受けた知り合いから話しを聞き、自分も肌を白くきれいにしたいと言う内容でした。予約当日に診察室に入ってきたのは、30代の東南アジア出身と思われる男性です。比較的流暢な日本語で「肌を白く綺麗にしたい。」と言うその男性の肌は、私からは張りもあり特にシミや色素沈着も認められない明るい褐色の肌でした。私がその男性が同年齢の男性と比べても、きめの細かい健康な肌であることを伝えると彼は少し躊躇した表情をした後、実は自分には娘がいて今度幼稚園に入学するのだが、父親の肌の色が違うことで他の子供からいじめられるのが心配で、もし可能であれば肌を白くしたくて相談に来たと話してくれました。
人種による肌の色の違いを決めるのは、表皮内にあるメラニン量です。メラニンは、表皮最下層の色素細胞(メラノサイト)にあるメラニン小体(メラノソーム)で産生されます。メラニン顆粒が一定量充満すると、メラニン小体は周囲の表皮細胞に運ばれ、最終的には分解されながら角質と共に排出されます。色素細胞の数自体は、人種の中で差はありません。ただ白人のメラニン小体は小さく皮膚の表面に近づくほど分解されなくなっていきますが、黒人はメラニン小体が大きく黒色メラニンであるユーメラニンの量も多く、また表面に近づいても分解されずに残っています。日本、韓国、中国人など黄色人種の場合は、この中間ですが同じ人種でも僅かなメラニン小体の大きさの差で、人によって肌の色は異なります。結論的には、生まれつきの肌の色を変えることはできません。医学的可能なのは、部分的に行う先天的な痣の治療や後天的な加齢や肌トラブルによって生じたしみ、くすみの治療だけです。もし、生まれつきの肌の色を変える白くするという薬や治療が可能である様に謳った広告や宣伝があれば嘘だと思って構いません。
先の患者さんにも、そのことを説明し、むしろ如何わしい治療に気をつけて欲しいこと伝えました。また祖先が紫外線の多い地域で肌を保護する為に進化し、子孫に伝わったもので、その結果白人よりはるかに皮膚がんの発生率が低いことも話しました。そして何より、その娘さんにとって、その優しい父親の肌は誰よりも美しく綺麗に映るだろうことも・・・