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生誕130年記念「藤田嗣治展」@兵庫県立美術館

2016-09-13 | 展覧会

ここ8年のあいだに、藤田嗣治の展覧会を見るのは4回目。戦後すぐに日本を去ってしまったこの画家のいろいろな側面にようやく光が当たり始め、素晴らしい作品たちを鑑賞できる昨今を、改めて幸せに感じます。

「東と西を結ぶ絵画」と題された今回の展覧会は、藤田の生涯を辿る構成になっており、絵を描き始めた初期の作品から、パリ時代の「乳白色の肌の女性」の作品、そして中南米に旅したときの作品、帰国後の日本や中国を題材にした作品と「戦争画」、そしてフランスへ去った後のキリスト教をテーマとした晩年の作品まで、約120点を見ることができます。

今回、特に興味深かったのは、メキシコやボリビアの人々を描いた中南米を訪ねたときの作品群が充実していたこと。パリで描いた美しい女性たちの作品は、確かにワンアンドオンリーの藤田の代表作ではあるのだけれど、描き続けるには何か飽き足らなかったのかもしれません。中南米で描いた作品は、人物が骨太で色彩も鮮やか、醸し出す生活感も含めて強烈な存在感が感じられます。油彩画よりもササッと描いた感のある水彩画やパステル画が多いのですが、その画力の高いこと!改めて藤田ってめちゃめちゃうまい!と感心してしまいます。

以前紹介した記事で取り上げた藤田の随筆集「地を泳ぐ」を読んでみると、南米からメキシコを向けて、どの土地でも盛大な歓迎を受けたことがわかります。ヨーロッパとは全く異なる異文化の体験だったと思いきや、ブエノスアイレスなどは、ほとんどパリそっくりの都市であったという記述も興味深いことです。メキシコでオロスコの巨大な壁画に出会ったことも、巡り合わせですね…。

そして今回出品されていた戦争画は3点、代表作ともいえる「アッツ島の玉砕」に昨年の秋に続き再会することとなりました。会場が違うと、ずいぶん見え方も違います。東京で見たときは、本当に茶色く描き込まれた画面に人物が折り重なり、絵の奥に向かって熱が充満しているような印象を受けたのですが、今回は照明の具合もあってか、茶色ばかりと思っていた画面には、ところどころにハイライトが入れられており、白く光る部分が際立って、逆に兵士の身体が前へ向かって立体的に飛び出してくるように見えました。

何度見ても恐ろしい絵画です。日本における「戦争画」の位置づけから、この絵を素晴らしいと手放しの賞賛はできないのですが、画家・藤田をつくり上げた生い立ちや環境や時代背景、何よりも彼の画家としての類稀な力、それらが奇跡的に生み出した「稀有」な作品であることはまちがいありません。

展覧会場では、これら「戦争画」に続き、戦後のフランスで描いた作品へと続くのですが、向かい合って展示されている白色をベースにした繊細な少女を描いた作品が、同じ画家の手によるものとは到底思えず、ものすごい対比だなあ…と思いました。

それぞれの時代をなべて概観している分、それぞれの充実度はやや少ないですが、そこはこれまで見てきた展覧会での印象で脳内補完。見れば見るほど、どの時代の作品も素晴らしいし、まさに時代の波にのまれたひとりの画家の人生にも興味が尽きません。次は、秋田で描かれた壁画をぜひ見てみたいな!

展覧会は、9月22日(木祝)まで。あと10日ほどですが、未見の方はぜひ!


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