アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

奈良美智 for better or worse

2017-09-17 | 展覧会

頭がゴチャゴチャして寝付きが悪い夜、心を落ち着かせようと思い浮かべるのは、奈良さんの「絵」だ。美しい色彩が塗り込められた、深い思いを湛えている眼を持つ女の子の肖像画が、もし手元にあったなら、飽きず眺めることだろう…。

横浜の個展から5年ぶり、奈良さんの作品たちに豊田市美術館まで会いに行ってきた。前回の展覧会は、ほぼ新作で構成されていたが、今回は奈良さんの30年の制作を辿る回顧展となっていて、作品の変遷を見ることができるのが、とても興味深い。

初期の作品は、今の奈良さんらしくはない。でも、私は好きだ。少しけぶったような色味と筆跡、象徴的な場面、何か深い世界が繰り広げられているようで、じっと見てしまう。そして留学したドイツで、今につながる奈良さんのスタイルが生まれる。その初期作品からの変貌ぶりは、それぞれ画風は全く違うのだけど、私には藤田嗣治を思わせる。

その変換点とされる作品「The Girl with the Knife in Her Hand」(1991)は、勢いと迫力があってすごく良かった。実物には画像ではわからない、筆跡の主張がある。奈良さんってペインターなんだな、と今回の展覧会でしみじみと感じ入った。特に初期の作品には、ペインティングの様子がうかがえる筆跡、少し絵の具が飛び散ってたり、髪の毛の消した跡が見えたり、そういうのがあるからこそ、すごくいいのだ。

展示の後半は、今描き続けている単身の女の子像の近作をたくさん見ることができた。画面全体の色彩の美しさには、本当に惚れ惚れする。初めの頃、反抗的な眼を持って鑑賞者を見返していた女の子は、じっと深い思いを湛えた素直な眼になっている。その瞳の表現も、近くで見るとたまげるほどに繊細で美しい。どこを見ているのだろう?少し離れた二つの眼は、近くと遠く、現実と非現実、その両方を見通しているようだ。

この女の子たち、奈良さんの作品世界に住む現実ではない女の子と思ったら、それは大間違い!奈良さんが撮影した女の子の写真を見ると、びっくりするほど奈良さんの絵にそっくり。そう、奈良さんはある意味、写実画家でもあるのだ!奈良さんにしか描けない絵、撮れない写真。

今回、奈良さんの展覧会に行くのを楽しみに待つ間、予習したのはコレ。

 ユリイカ 2017年8月臨時増刊号 総特集◎奈良美智の世界

展覧会をまず入ったところに、奈良さんという人をつくってきたモノたち…聴いてきた音楽、眺めてきたレコードジャケット、読んできた本、集めてきた人形の数々が展示されている。ユリイカを読んでいると、奈良さんが長い学生時代やその後に出会ったいろいろな人との関係がもたらしたものが、作品を生み出す上でとても重要なのに、なぜか、この展示物を見ていると、とても孤独感を感じる。いったい何故なんだろう?でもそこが、多くの人を惹きつけるところなんだとも思う。

今回の展覧会では、奈良さんが東日本大震災以降取り組んでいる陶芸作品はほとんどなかった。また、今後は写真展が企画されるなど、新たな表現にも取り組んでおられる。回顧展といってもごく一部、今回はド直球の「ペインティング」だったんだな、と思った。

twitterでもよくつぶやいてくださる奈良さんは、とても親近感を感じる。同じ時代に生きるアーティストが活躍し、また変遷していく様を目撃できるのは、本当に興奮することだ。また、たくさんの作品を見ることのできる機会を心待ちにしている。

豊田での展覧会は、9月24日(日)まで。終了間近ではあるけど、ぜひ足を運んでほしい!


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