帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの三十六人撰 人丸(四)・再掲

2014-05-18 00:07:05 | 古典

    



                帯とけの三十六人撰



 柿本人丸 十首 ()


 あすか川もみぢ葉ながる かつらぎの山の秋風ふきぞしぬらし

 (飛鳥川、紅葉葉流れる、葛城の山の秋風、きっと吹いたのだろう……京過ぎたかは、飽色の端、流れる、且つら気の山ばの飽きの心風、きっと吹いてしまったのだろう)


 言の戯れと言の心

 「あすかかは…飛鳥川…明日香川…とりとめのない川…流れの変わりやすい川…きょう過ぎたかは」「明日か…今日過ぎた…京過ぎた…絶頂過ぎた」「京…山場に頂上」「鳥・川…女」「もみぢ…紅葉…秋色…飽き色…厭き色」「かつらぎ…葛城…且つら気…なおも又という気」「山…山ば」「秋…飽き…厭き」「風…心に吹く風…山ばで吹く心風」「ぞ…強く指示する意を表す」「しぬ…吹いてしまった…完了した意を表す」「らし…確信を持って推量する意を表す」



  飛鳥川の秋の景色は歌の「清げな姿」。且つらの山ばで厭きの心風が吹いてしまった性(さが)は、「心におかしきところ」。


PC修復中に誤って消してしまった人丸(四)を復活しました。この歌は人丸(五)の次に位置します)



 『群書類従』和歌部、三十六人撰 四条大納言公任卿 を底本とした。ただし、歌の漢字表記と仮名表記は適宜換えてあり同じではない。

 


 四条大納言公任卿の選んだ三十六人と、それぞれの歌数は次の通りです。


柿本人丸
十首 紀貫之十首 凡河内躬恒 十首 伊勢十首 大伴家持三首 山邊赤人三首 在原業平三首 遍照僧正三首 素性法師三首 紀友則三首 猿丸大夫三首 小野小町三首 兼輔卿三首 朝忠卿三首 敦忠卿三首 高光少将三首 源公忠三首 壬生忠峯三首 斎宮女御三首 大中臣頼基三首 藤原敏行三首 源重之三首 源宗于三首 源信明三首 藤原清正三首 源順三首 藤原興風三首 清原元輔三首 坂上是則三首 藤原元眞三首 小大君三首 藤原仲文三首 大中臣能宣三首 壬生忠見三首 平兼盛三首 中務三首

 

平安時代の歌論と言語観に帰り、改めて貫之、公任の歌論に学びながら、続けて、これらの優れた和歌を一首づつ聞き直してゆきます。公任が「およそ、歌は、心深く、姿清よげに、心におかしきところあるを、優れたりというべし」ということの重要さを認識することになるでしょう。