帰ってきた吉野の独り言 (出題趣旨 刑法編)

2010-09-20 13:59:59 | 司法試験関連
どうも全国的に敬老の日の体である。ということで,本日俺は敬われる側に立つのである。刑法編すたーと。

【刑法編】
非常に詳細でいいですね。読むだけで刑法の勉強になります。

「事案の解決に必要な限度で簡潔に自らの考え方を明らかにした上」,「共同正犯を認める実益は何かという問題意識も必要となろう」,「事案の解決に必要な範囲で論点に関する自らの見解とその論拠を簡潔に示すことが求められる」,という記述は要注目です。以前から私が指摘していたことですね。論点の抽出後の作業,論点の選別のお話です。何度も言っていることですが,何故それを書くのかといえば,本件事案の解決に必要だから書く,よって立つ立場によっては結論が異なりうるから書く,という例の話。「重要な論点だから書く」のではないのである。この点激しく注意である。

作為義務や過失犯における注意義務の内容については,「課せられる具体的な注意義務の内容を特定する必要がある」という指摘が重要です。今年の刑法は,商法での作法が使える問題だと以前ブログに書いたような気がしますが,注意義務系の問題の処理の作法は同じですね。「本件事案において」何を根拠に義務が発生し,その義務の内容を「本件事案において」はどのような義務なのか具体的に指摘し,その義務に対し「本件事案において」具体的にどのような行為形態で違反したと評価できるのか,という書き方です。

成績が返ってきて,予想外に刑事系が悪かった人もいると思うのですが,今年は書き方一つで大きく差の出る問題です。保障人的地位や作為義務について検討してい無い人はいないと思うのですが,「本件における」甲についての作為義務の発生根拠等につき,出題趣旨に指摘されているような具体的なファクターを拾って厚く書いたかどうか思い出してみてください。間違いなくここで差がついています。

本件は「病院内事例」である,という点が極めて大きな意味を持っています。正に本件事案の特殊性です。看護士や薬剤師の義務内容は何なのか。基本的に保護義務があるのは第1次的には病院サイドである,という点も無視できません。甲がやらなくていいです,と言ったから免除されるような義務ではないと言うことです。

また,甲の心情が揺れ動いているのもポイントです。救命可能性も含め,本問題は,どう考えても時的要素を無視できません。

作為と不作為いずれの事例か検討せよ,という部分には驚いた方も多いかもしれません。確かに細かいなと言う気はしますが,学ぶべきことがあります。それは刑法では,まずは個別にアプローチをしろ,という以前から注意している点です。

細分化しすぎるのは拙いですが(過去のヒアリングでもこの点の指摘はあり),どんぶり過ぎるのも駄目です。論点落としをしてしまいます。第3回,第4回本試験の解説でこの点はかなり強調しました。今年の問題を見て,いきなり「不真正不作為犯だ!」と決め打ちした人,いませんか?「結論は」それでも良いのですが,まずは甲の行為を分析的に拾ったかどうか思い出してください。まずは行為を分析的に拾って検討する。その後,一連の行為と評価するかどうか,複数の行為と見た場合には罪数処理で考える,などの段取りを踏んだかどうかです。これ刑法の作法の一つです。

本問で,甲の行為を順に拾っていくと,確かにちょいちょい何かしています。これらの「作為」要素をどう見るか試験場で考えたかどうかです。「妨害工作」は完全に作為です。作為的要素があれば,原則作為犯で検討するのが刑法のセオリーですから,作為事例と見るか,不作事例と見るか検討しろ,ということなのでしょう。
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