判例セレクト民事訴訟法1事件の千葉補足意見について

2014-03-20 17:26:51 | 司法試験関連

裁判官千葉勝美の補足意見

1 将来発生すべき債権に基づく将来の給付請求については,その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されるとともに,債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ,しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても,当事者間の衡平を害することがなく,格別不当とはいえない場合に,例外的に可能となるものと解されている(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。これを前提にした上で,前掲最高裁昭和63年3月31日第一小法廷判決は,共有物件である土地を第三者に専用駐車場として賃貸することによって得た賃料収入に関し,相手方の持分割合を超える部分の不当利得返還を求める請求については,賃貸借契約が解除等で終了したり,賃借人が賃料の支払を怠っているようなときには,将来請求はその基礎を欠くところ,これらは専ら賃借人側の意思等に基づきされることでもあり,必ず約定どおりに支払われるとは限られない等の点から,将来の給付請求を可能とする適格を欠くとしている。


2 この昭和63年第一小法廷判決は,裁判集に登載され,判示事項としては,「将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものとされた事例」となっており,文字どおり事例判断であることが明示されている。もっとも,その裁判要旨としては,持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る部分は,将来の給付請求の適格を欠くとされ,法理に近い表現が用いられてはいるが,当該事案を前提とした判示であり,事例判断であることは争いがないところであろう。そうすると,事例判断としてのこの判決の射程距離が問題になるが,この判決の理解としては,①持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める将来請求の場合を述べたものとする理解(このような捉え方をしていると思われる他の最高裁判例として,最高裁平成7年(オ)第1203号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号1頁がある。)と,②①の場合に加え,当該賃料が駐車場の賃料であるという賃料の内容・性質をも含んだ事例についての判断であるとする理解とがあり得るところであるこのうち,①の理解によると,この裁判要旨については,将来得るべき賃料はそれが現実に受領されて初めて不当利得返還請求権が発生することから,その発生は第三者の意思によるところ,そのような構造を有する将来請求全てに射程距離が及ぶ判断であると捉えることにもなろう。しかし,昭和56年大法廷判決の理によって将来請求の適否を判断するためには,当該不当利得返還請求権の内容・性質,すなわち,その発生の基礎となる事実関係・法律関係が将来も継続するものかどうかといった事情が最重要であり,それを個別に見て判断すべきであるとすれば,昭和63年第一小法廷判決の射程距離については②の理解を採ることになろう


3 私としては,上記①の理解はいささか射程が広すぎるように思う。すなわち,居住用家屋の賃料や建物の敷地の地代などで,将来にわたり発生する蓋然性が高いものについては将来の給付請求を認めるべきであるし,他方,本件における駐車場の賃料については,50台程度の駐車スペースがあり,これが常時全部埋まる可能性は一般には高くなく,また,性質上,短期間で更新のないまま期間が終了したり,期間途中でも解約となり,あるいは,より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移る等の事態も当然に予想されるところであって,将来においても駐車場収入が現状のまま継続するという蓋然性は低いと思われ,その点で将来の給付請求を認める適格があるとはいえないいずれにしろ,将来の給付請求を認める適格の有無は,このようにその基礎となる債権の内容・性質等の具体的事情を踏まえた判断を行うべきであり,その意味でも昭和63年第一小法廷判決の射程距離については,上記②の理解に立つべきである。


4 ところで,本件の法廷意見は,昭和63年第一小法廷判決を引用して,共有者の1人が共有物である本件の駐車場を第三者に賃貸して得る駐車場収入につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しない旨を説示している。これは,本件が昭和63年第一小法廷判決と事案が類似していること,特に駐車場の賃料が不当利得返還請求権の対象となっていることから,事案の内容を詳細に判示する必要がないため,簡潔な表現で判断を示したものと解することができる。しかしながら,将来的には,将来の給付請求を認める適格について,昭和63年第一小法廷判決が上記①を射程としているという理解を前提にして適格を肯定する範囲が不当に狭くなるということがないように,それにふさわしい事案が係属し,その処理がされる際には,上記②を射程としていることが明らかとなるように当審の判断を示す必要があるものと考える。

<参考判例> 継続的不法行為事例(最大判昭和56年12月16日),継続的不当利得事例(最判昭和63年3月31日)

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差止め訴訟のポイント確認

2014-03-20 16:47:03 | 司法試験関連

差止訴訟の事例が出た場合の注意点について。

まず,要件論としては,

①「一定の処分又は裁決がされ」そうなのかどうか

 = 「処分の蓋然性」要件。

  * 「処分」が具体的な内容を持つ「一定の」ものかどうかの検討が問題になることもある。

 ②「重大な損害を生ずるおそれがある」のかどうか

 = 「損害の重大性」要件

  * 「取消訴訟の提起+執行停止」という事後的救済では十分ではないのかどうか,が問われる。

③「その損害を避けるため他に適当な方法がある」のかどうか

 = 「補充性」要件

が重要である。それぞれ解釈論を踏まえた当てはめをできる様にしておく必要がある。

次に,差止めの対象が複数ありうることを忘れない,という点である(免職処分,減給処分,降格処分,戒告処分など)。A処分の差止め,B処分の差止めなど複数の差止めが想定される事案では,各要件の当てはめの結果,「A処分の差止めは認められるが,B処分の差止めは認められない」,等ということは十分ありうるから注意しよう(執行停止でも似たような問題がありますね)。

更に,以前もご紹介した「確認訴訟(当事者訴訟)との住み分け論」である。当事者訴訟の振りして実際には無名抗告訴訟になっていないか,当事者訴訟の対象設定には細心の注意が必要である。

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