不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

刻苦九年いま最初の一巻を捧ぐ(高群逸枝)

2019-12-01 08:01:51 | コラムと名言

◎刻苦九年いま最初の一巻を捧ぐ(高群逸枝)

 高群逸枝の『大日本女性史 母系制の研究』(厚生閣、一九四一年再版)の「例言」を紹介している。本日は、その後半。

一、私の研究硏究は、古文献に埋蔵されたる母系的遺産を発掘組織化し、これを系譜と婚姻の両面より観察したものである。本書に用ゐた主たる材料は、嵯峨天皇の勅撰にして当時における京師及び畿内五国の貴族一千一百八十余氏の系譜書たる新撰姓氏録三十巻と、並に中古以前の諸種の文献より、右姓氏録登載の氏族に関する一切の系譜的記録を採集したものとである。私の取つた方法は、これを㈠多祖の研究、㈡複氏の研究、㈢諸姓の研究、㈣賜氏姓の研究に大別し得るが、一言に要約すれば、そのすべてを多祖説とすることもできる。この多祖説こそ、私が学界に問はんとするものである。私は我国の古代に母系制存在の有無を暴に〈ニワカニ〉断じ得ないけれども、その遺習とも稽へ〈カンガエ〉られる諸事実を抽象した。それと共にこの研究は、次の三つの意義を含んでゐる。其一は、上代における家族制の問題であり、他の一は、母系的遺習が、国家の中央統制をして、之を比較的平和裡に進捗せしめた隠れたる要因をなしてゐる事実である。本文に詳説する国作り、氏作り、部作り等の諸業は、実に当時における母系的婚姻及び相続を利して達成せられた場合が多いのであり、それと共に、異種或はの解消等これに伴随して行はれてゐる事実をも認めざるを得ない。このことは第三に、わが国民の血の帰一を物語るものである。女性史の第一歩において、すでに母系の犠牲と支持による国家の統制乃至一家族化といふ必然の結論に達した私は、以後の発展においても恐くは女性の秘められた犠牲と奉仕との絶大なる貢献を顕彰することが出来るであらう。
一、文章は努めて平易を旨となした。文中に諸家の氏名を掲ぐる場合、一般に敬称を省略したのも一に簡明を期する為めである。大方の宥恕を乞ふ。
一、既に述べたる如く、本書の研究は処女地を開拓するものであつて、概ね著者の独創を余儀なくしてゐるものではあるが、帰するところ先人の余沢を出づるものではない。特に系譜においては、本居宣長、細井貞雄、栗田寛、太田亮〈アキラ〉一列の恩恵に負ふところが多い。されば所説の負ふとこる、立論の根拠等は、できるだけ厳密に挙示するに努め、これを本文中に果し得ざりし部分は、特に各章末に纏めて註記した。かゝる著作にあつて誤謬を避くるといふことは全く不可能である。私は読者に大体においてこの研究に取るべきものがあるならば、個々の誤謬については深く咎めざらんことを希望し、本書の根本的なるものについての批判を期待せんとする。
一、女性史は著者畢生〈ヒッセイ〉の事業、女性と祖国への愛の書である。刻苦九年いま最初の一巻を捧ぐ。なほ巻末の跋文をも一読せられんことを望む。
  昭 和 戊 寅〔一九三八〕        著 者 謹 識

*このブログの人気記事 2019・12・1(8位のセイキ術は久しぶり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする