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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

座談会「憲法は二週間で出来たか?」(1952)を読む

2025-05-03 00:49:27 | コラムと名言
◎座談会「憲法は二週間で出来たか?」(1952)を読む

 連休前に書棚を整理していたところ、『改造』の第33巻第6号(1952年4月増刊号)が出てきた。興味深い記事が満載されているが、本日からしばらく、「憲法は二週間で出来たか?」と題された座談会記録を紹介してみたい。

《座 談 会》 憲法は二週間で出来たか?

芦田 均(当時憲法発布調査会長)
岩淵辰雄(当時憲法研究会員)
鈴木安蔵(当時憲法研究会員)
三宅清秀(当時憲法研究会員)
《司会》阿部真之助(政治評論家)

  近衛・マ元帥会見
 阿部 新憲法の起源についていろいろと云われていて、アメリカ側から出したものだといわれているんだけれども、また日本側の方でも、向うの要請以前から、新しい憲法を拵え〈コシラエ〉なければならんという機運があつたというんだが、まずそのことについて口火を切つてもらつたらどうだろう。岩淵君、君はその元祖だといつているんだけれど。
 岩淵 そうだな。戟争がすんだ時に、僕は三つのことをやろうと思つた。早急に日本建 直しの基本的な問題としてだね。
 一つは憲法を改正すること。そのポイントは大権事項を削る。日本で天皇が大権を行使した歴史というものはない。むしろその大権というものは、側近の茶坊主的な重臣や軍人によつて私〈ワタクシ〉された。その結果がこういう戦争になつた。そうして日本を亡ぼしたんだな。天皇というものを、政治の実際から切り離すことが必要だ。これが僕の憲法を改正しようというポイントだつた。それから戦争裁判は日本人の手でやろう。戦争責任というものを、国際裁判というものが、後にできたけれども、それを日本人の手でやつてみる。そうでないと、ほんとに戦争の責任を明かにすることはできんと思つた。もう一つは長い間、日本の官僚機構の中に、行政機構の中に入りこんでいるこの官僚の勢力を全部こわすには、民主主義といつたつて、とてもできやしない。
 この三つをやろうと思つたんだ。これが宮様内閣〔東久邇宮内閣〕の重光〔葵〕に代つて、吉田〔茂〕を外務大臣にしたもとなんだ。その時に憲法改正には、誰も賛成者はなかつたよ。たゞ一人近衛〔文麿〕が賛成した。近衛は戦争中から、皇室を維持することができるなら、どんな条件でも受人れたい。そうして戦争を一日も早く片付けたいというのが近衛の意見なんだな。そうして近衛のたつた一つの条件というのは、皇室を維持するということだけだ。僕が近衛を説いたのは、皇室を維持するには、天皇というものは、実際には戦争にたいして直接の責任はない。実際はあるんだけれども、しかしこの戦争を始めたものは天皇でなく、東条〔英機〕やなんか一部の軍人と官僚なんだ。この事実を明かにすることが必要だ。そこで近衛は賛成した。ところがその当時枢密院、内大臣というものがあつて、これは非常に反対なんだ。憲法改正なんていつたら、戦争が負けた後になつても、非常に不忠の臣のようなことを考えているわけだ。そして近衛に上奏させようというのだが、木戸〔木戸幸一内大臣〕がどうしても拝謁させないんだ。その時、これは別の意味で近衛に薦めたんだけれども、これは僕と小畑敏四郎〈オバタ・トシロウ〉と二人で薦めたんだけれども、近衛にマッカーサーに会え、というのは、マッカーサーが占領軍の司令官として日本に乗込んで来たけれども、日本の事情を知らずに占領政策をやると、非常な食い違いが出て来る危険がある。その結果は日本のためにも、またアメリカのためにもならん。アメリカとしても、向うは向うの方針をもつて来るだろうが、一応日本の事情というものを、日本側からマッカーサーに説明する必要がある。そういうことで、近衛にそれは近衛が一番最適だから、近衛にマッカーサーに会つて、戦争中からの日本の国内事情を説明しろ。そういうことで会見を申し込ませた。そうして何時〈イツ〉だつたか日は忘れたが、マッカーサーは会うと言つたんだ。その時通訳を二人くらい連れて行けといつて薦めた。近衛の側には牛場〔友彦〕君などという英語の達者なものがいるし、それで連れて行くつもりだつた。そして司令部へ問い合せたところ、こつちに通訳があるから、連れて来なくてもいゝということで、玄関までは牛場君を連れて行つて、マッカーサーには一人で会つた。そうしたら向うの通訳というのは二世で、英語は達者なんだけれど、日本語はわからない。それで話にはならなかつた。たゞその時マッカーサーが、日本の民主化のために努力することが、日本のためでもあり、プリンス近衛のためでもあるということをいつたんだ。その時の会見録は、今でも近衛家にあるだろうと思うんだけれども、そこで近衛は帰つて来て、民主化のためだといつたんだがどういうことだろうと言つた。通訳が不十分だつたからだな。その時分に近衛をめぐつての新党運動というものがあつた。金光庸夫〈カネミツ・ツネオ〉、前田米蔵〈ヨネゾウ〉などがやつていて、近衛はそれで、マッカーサーのいう民主化というものは、僕に新党をやれということだろうかというんだ、僕は近衛の新党には反対だつた。むしろ国家の基本法、憲法を改正することが先決問題だ。新党の総裁になつて、近衛が政界に乗出すことは、むしろ末節的な仕事だ――こういつていた。それじやあもう一度マッカーサーに会つて、日本の民主化、マッカーサーのいう民主化は何をいうのか聞いたらよかろう。それで近衛がまたマッカーサーに会見を申込んだ。それで中二日か三日おいて、マッカーサーに会つたら、今度はマッカーサーは出て来ずに、アチソンが出て来たんだな。それでこの間マッカーサーが、民主化のためだといつたが、一体どういうことか。〈13~14ページ〉【以下、次回】 

 最後に出てくる「アチソン」というのは、マッカーサーの政治顧問ジョージ・アチソン(George Atcheson Jr. 1896~1947)のこと。アメリカ合衆国第51代国務長官のディーン・アチソン(Dean Gooderham Acheson、1893~1971)とは別人。

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本邦の主なる寄生虫学研究者

2025-05-02 05:16:38 | コラムと名言
◎本邦の主なる寄生虫学研究者

 吉田貞雄『大東亜熱帯圏の寄生虫病』(1944)から、第五章第六節「本邦に於ける寄生虫病学の進歩」を紹介している。本日は、その六回目(最後)。

   本邦の主なる研究者
 本邦寄生虫学研究の先達として初期以来活躍された前記少数の人々の外、明治三十年代までは本邦に寄生虫を専攻する人は殆どなかつたと言つてよろしい。斯学創設の際であるから先達の方々でも、他に専攻の学科を控へながら寄生虫学に力を尽くされたのである。動物学の方面で飯島〔魁〕先生は大学教授として、五島〔清太郎〕先生は高等学校教授として寄生虫学以外に多くの研究題目を持ち、学界に大きな業練を残されてゐる。又医学方面で桂田〔富士郎〕、藤浪〔鑑〕両氏は共に病理学の専攻で、他に重要な研究に従事され、ベルツ氏は内科医学者として、ヤンソン氏は内科医学者として務めてゐた。
 明治四十年〔1907〕前後筆者等が大学を卒業する以前に寄生虫学を専攻した人は只宮島〔幹之助〕氏のみで、或は一時寄生虫の研究に手を染めた人でも、直に〈スグニ〉他に転じたやうである。当時飯島先生の下に小泉丹、小林晴治郎及び筆者が相前後して寄生虫学専攻者として卒業し、今尚之を継続してゐる。その後飯島、五島両先生の下に福井玉夫、森下薫、山田信一郎、尾崎佳正が相次いで同学を専攻し、尚之を継続してゐる。以上数氏は何れも大学又は研究所に在職し、各〻その道に精進し後進を誘導してゐる。従つて多数の寄生虫学研究者がその門下から輩出し、現今我が寄生虫学界活動の一大原動力となつてゐる。慶應の田宮貞仁〈テイジン〉、城大〔京城帝大〕の田邊操、阪大の岩田正俊の如きは知名の士である。
 医学方面では藤浪氏が京都帝大の教授であるためその教室から中村八郎(金沢医大)、田部浩(岡山医大)、林直助(愛知医大)及び楢林兵三郎等続出し、桂田氏は岡山医専後神戸船員病並びに熱帯病研究所〔ママ〕を主宰した関係上、多くの研究家を出し、橫川定(台北帝大)、浅田順一(満洲技術厰)等の如き斯界の権威者の外、高亀〔良彦〕、長谷川〔逸郎〕、越智〔シゲル〕等知名の士が少くない。更に林〔直助〕氏門下には武藤昌知、安藤亮、江口季雄〈スエオ〉(大阪高医〔大阪高等医学専門学校〕)等があり、横川氏門下には、小林、磯部、錦織、大場等の諸士がある。台湾には中川幸庵、大井司、近藤喜一の如き卓越した研究家もある。
 長与又郎、宮川米次〈ヨネジ〉両氏の配下にある東大医学部及び伝染病研究所〔東京帝国大学附置伝染病研究所〕関係では両氏の指導により多くの研究者が輩出し、就中専門の士として石井信太郎(伝研)、赤木勝雄(日医大)等がある。尚川村麟也氏門下にも多くの研究者を出してゐる。
 九州帝大の宮入慶之助氏門下には大平得三(九大)を初め、鈴木稔(岡山医大)、西尾恒敬、岡部浩洋〈コウヨウ〉及び宮崎一郎(鹿児島医専)等斯学に貢献したものが少くない。更に満洲医大の稗田憲太郞は九大と関係ある熱心なる寄生虫学者でその門下に久保道夫の如き知名の士がある。
 最後に畜産・獣医方面につきては由来その人に乏しいが、最近東大の板垣四郎、台北の杉本正篤の如き斯界の研究に最も重要の貢献をなしてゐるものがある。〈288~291ページ〉

 最初のほうにある「ヤンソン氏」は、お雇い外国人として、日本に獣医学を導入したヨハネス・ルードヴィヒ・ヤンソン(Johannes Ludwig Janson、1849~1914)のことである。
「神戸船員病並びに熱帯病研究所」は、原文のまま。この研究所の名称については、文献によっては、「船員病竝熱帯病研究所」、「船員病及熱帯病研究所」、「船員病及び熱帯病研究所」と表記しており、いま、その正式名を判断することができない。
 今回、この本を読んだことで、寄生虫および寄生虫学者に関する知識が一挙に増えた。著者の吉田貞雄についての紹介、この本が国立国会図書館に架蔵されていない理由についての考察などについては、機会を改める。

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島村虎猪、藤井一両氏によるアスカロンの発見

2025-05-01 03:54:06 | コラムと名言
◎島村虎猪、藤井一両氏によるアスカロンの発見

 吉田貞雄『大東亜熱帯圏の寄生虫病』(1944)から、第五章第六節「本邦に於ける寄生虫病学の進歩」を紹介している。本日は、その五回目。

   第三期―その他の方面の研究
 発育感染径路の研究に続き学者の注意を引いたのは感染予防である。之がためには寄生虫体又は卵子の如き感染元となるものゝ抵抗力研究、撲滅法の考案、中間宿主の撲滅等疫学的衛生的事項の研究、屎尿の処置、便所の改良等研究は広汎の範囲に及ぶに至つた。更に駆虫法として駆虫剤の研究、製剤等が盛に行はれた。
 一方病理学的研究の進むにつれ諸種の寄生虫病に現るゝ症状から毒素説が起り、毒素の研究が盛に行はるゝに至つた。島村虎猪〈トライ〉、藤井一両氏のアスカロン〔Askaron〕発見の如きその著名なものである。この外虫体液の毒素研究を試むるものが少くない。就中最も秩序的に之が研究を進めてゐるのは慶應大学の小泉〔丹〕教室である。
 毒素研究に関連してゐるものは血清学的研究で、或は補体結合作用と云ひ或は沈降反応と云ひ、或は凝集反応と云ひ、各種の研究が行はるゝと共に、寄生虫の免疫問題迄攻究されてゐるが、寄生蠕虫〈ゼンチュウ〉に対する血清学並びに免疫学的研究は世界のそれと同じく、日本に於ても極めて幼稚なものであると言はねばならぬ。
 最後に、以上述べた寄生虫病学的方面の外一般寄生虫の研究として忘れてならぬことは、山口左仲〈サチュウ〉、福井玉夫、尾形藤治〈トウジ〉の如き分類学的研究に於て学界に貢献してゐる重要なものあることである。〈287~288ページ〉【以下、次回】

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