◎ほうきの柄で生徒13名をなぐり、1名に頭部裂傷を与える
昨日に続いて、たまたま、海野普吉・森川金寿『人権の法律相談』(日本評論新社、一九五三)に出てくる人権侵害事件を紹介する。
本日は、学校の「体罰」について論評しているところを紹介してみよう。
教師のビンタ事件 愛知県某高等学校では運動会の予行練習中生徒が思うような動作ができないので、体操教官がいらいらしていた際、奇声を発した者があったため「奇声を発した者は出てこい」といったが一人も出てこないので、約七〇名を二列に向かい合わせ「ビンタ」と称する懲戒を与えた。その際生徒の態度が悪いとて二人の生徒を平手で二回宛〈ずつ〉なぐり、奇声をあげた生徒をもなぐった(『局報』三号)。
島根県の中学校では人形劇の担当教官が、劇の舞台装置をこわした生徒を追求するに際し、一六名の生徒を尋問したが、生徒が否認したため怒って、手にしていたほうきの柄で一三名をなぐりこぶができたほか、一名に頭部裂傷を与えた(『局報』四号)。
鳥取県の市立中学校では二年四組の体操教官が不在のため社会科の補欠授業をしようとしたところ、生徒たちが社会科の時間でないからいやだといって騒いだため、社会科の教官が怒って学級委員(一三歳)を呼びよせ平手で二つ三つ頬を叩いた上後〈ウシロ〉から足をかけ三回転倒させたため全治一ヵ月の傷を与えた(『局報』五号)。
こんな例はいわばカッとなってやったのであろうが、中には学校当局が時代おくれの考え方を おしつけようとするのもある。
栃木県の私立某学院高等部では二七年〔一九五二〕四月末日より新たに制服制帽を励行することとし、五月六日その実施状況を調べるため全校生徒を校庭に集め検査を行った際、三年三組の全生徒がはだしであったので、学校側では一部生徒の策動によるものとし、一〇名の生徒を呼出し訓戒を加えたが、その際四名の教諭は七名の生徒に対し殴る蹴るの暴行を加え、一人の顔面に治療一〇日の傷害を与え、その他五名にも皆傷害を与えた(『局報』五号)。全生徒がはだしになったのは、同組の生徒四八名中二五名が靴がないため下駄ばきであったので、他の生徒が同情したためであるとのことで、普通ならむしろ人情美談とされてもよさそうな事情であるのに、学校の体裁だけに目をうばわれた学校当局の無理解からきたものと思われる。
学校教育法第一一条では「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることはできない。」として、懲戒の権限は認めているが、実力行使は禁止している。これに対する直接の罰則はないので、前記の例などでは暴行罪、傷害罪等で処罰されるわけである。これは常識でもすぐ判断がつくが、例えばいたずらをした学童を放課後居残りさせることや、遅刻児童を教室内に入らせなかったり立たせておくことはどうか、となるといささか疑問となる。-
文中、『局報』とあるのは、『人権擁護局報』のことである。
半世紀前の事例ではあるが、今日でも十分に起きうる事例である。しかし、生徒の「下駄ばき」登校は、さすがに時代を感じさせる。