◎徴兵検査合格者に対する抽籤は廃止すべし
話題を、松下芳男の『軍政改革論』(「民衆政治講座」第二二巻、青雲閣書房、一九二八)に戻す。今月二六日に、同書の第五章「兵役法の改正」、第四節「兵役法改正の要旨」の(イ)「特権兵役の廃止」を紹介した。本日は、それに続く(ロ)を紹介する。
(ロ) 選兵方法の改正
今日の選兵方法は体格本位である。即ち甲種乙種の合格者中抽籤に依つて現役入営の如何が決定されるのである。即ち今日の徴兵制度は要するに体格優秀者のみに課せられる義務である。是れ果して適当であらうか。
此結果、先きにもいふやうに無産者がどうしても、より多く徴集される形になるが、必ずしもそれ故といふのではなく、今日の軍隊そのものの性質が、此体格優秀者のみを適任者としてゐるのではないことに、注意しなければならぬ。改めて説くまでもなく、今日の戦闘は肉体戦ではなくて機械戦である。体力戦ではなくて智力戦である。概括すれば智力を主として働く兵科と、体力を主として働く兵科とがある。又同一の兵科の中にも、智力を主として働かす職務と、体力を主として働かす職務とがある。それが機械の進歩と、戦闘技術の向上とに正比例して、その傾向が顕著になるのである。
斯く考へれば、体格本位の選兵方法は、不適当以上に大【だい】なる誤謬である。体格は智力と同一の地位に評価されねばならぬと信ずる。軍隊の素質を向上するためには、単に体格本位ではいけない。どうしても体格と智力との複本位制でなければならぬ。此点に於いて、私は尚ほ多くを説く必要を見ないであらう。
更に抽籤方法は頗る不良なほうほうである。年々の徴兵検査を受ける壮丁約五十五六万中、合格者は約二十二三万人であつて、此中から抽籤して実際入営するもの僅かに十二三万人である。師団整理の結果もつと減ちた筈である。即ち合格者中の約半数が、抽籤といふ偶然事に依つて、入営を免【まぬが】れることになつて、此不合理なことは先きにいつた通りである。私は此抽籤方法を廃止すべきであると信ずる。そして合格者中より更に入営者を決定するには、その家の生活内情に依るべきだと思ふ。即ちその家の生活程度の高いものより採用するのである。是れ社会政策上合理的な方法なりと信ずる。