礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

優生手術は「断種」であって「去勢」ではない

2019-12-21 00:54:22 | コラムと名言

◎優生手術は「断種」であって「去勢」ではない

『週報』第二四四号(一九四一年六月一一日)から、「国民優生法解説」という記事を紹介している。本日は、その二回目。

  国民優生法の内容
 国民優生法は大別して二つの事柄から成り立つてゐる。第一は不健全素質者に対する優性手術の規定であり、第二は健全者の産児制限防遏【ぼうあつ】の規定である。まづ優生手術から説明する。
  =手術の方法=
 一、優生手術として採用される方法は、いはゆる断種手術であつて去勢ではない。去勢は生殖腺、即ち睾丸または卵巣を除去【ぢよきよ】するために内分泌障害を起すが、優生手術は全然生殖腺に触れないで、唯、精子または卵子が精管や卵管を通過しないやうに、管の一部を結紮〈ケッサツ〉したり離断したりする簡単な手術である。従つて手術による障害は起らず、性生活にも影響なく、たゞ精子や卵子が排出【はいしゆつ】されないだけである。手術は極めて簡単であつて、男女共に約十五分位で済み、少しの危険もない。手術の術式は最も安全、確実なものを数種類選定【せんてい】して行ふことになつてゐるから、手術の結果については安心していゝ。なほ、当分の間は以上の外科的手術のみを採用し、X線等の照射【せうしや】による方法は行はないことになつてゐる。それは安全性と確実性が現在ではなほ外科的手術に及ばないためであるが、X線照射にもなかなか勝れた長所が認【みと】められるから、学問の進歩を待つて将来は採用される筈である。
  =手術の対象=
 如何なる遺伝性疾患【しつくわん】を手術の対象とするかは最も大切な点であるが、本法では症状が強度であつて、反社会性・社会不適応性のあるものに限つてゐる。従つて遺伝病であるからといつて直ぐ〈スグ〉対象【たいしやう】となるわけではない。対象とされる疾患は大体次のやうなものである。
 イ 遺伝性精神病 精神分裂病、躁鬱病、真正癲癇【てんかん】等の遺伝性精神病の中、その遺伝が確実であつて経過不良のものが該当する。遺伝が不確実であつたり、経過の良好のものは対象とならない。黴毒、アルコール、急性伝染病、動脈硬化【かうくわ】、老衰等による精神病は後天性のものであるから、対象とされないことは勿論である。
 ロ 遺伝性精神薄弱 白痴・痴愚・魯鈍【ろどん】等のいはゆる低能であつて遺伝の確実なものが該当する。但し、軽度の低能では更に反社会性があるものだけを対象とする。出産時の障害や幼少時の脳膜炎、頭部外傷、または黴毒【ばいどく】その他の後天性の原因によるものはこれに入らない。
 ハ 強度・悪質の遺伝性病的性格 分裂病質、循環【じゆんくわん】病質、意志薄弱者、病的性慾者、病的虚言【きよげん】者等の病的性格者の遺伝が確実であつて、その症状が強くて反社会性や社会不適応性のあるものが該当する。遺伝が不確実なものは勿論、反社会性や社会不適応性のないものは対象とならないことは言ふまでもない。
 ニ 強度・悪質の遺伝性身体疾患 神経、眼、耳、皮膚【ひふ】、骨等の疾患で、遺伝が確実であつて、症状が強度で社会不適応性をもつものが該当する。例へば、遺伝性の盲、聾、白児、結節性硬化症、進行性筋萎縮【きんゐしゆく】等の悲惨な病気であつて、社会生活をすることも出来ないと云つたやうなものである。
 ホ 強度の遺伝性畸形 裂手、裂足、顔面披裂等の強度の畸形【きけい】であつて、遺伝が確実であって、社会生活に著るしく不適応なものが該当する。社会生活に格別の支障を来さぬ〈キタサヌ〉位の軽度【けいど】の不具、例へば六本指とか兎唇【みつくち】のやうなものは勿論対象とならない。【以下、次回】

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