神鳴り(アメジストネックレス)

難聴ゆえに家居の好きな主婦です。過去、心臓弁膜症、大腸がんの手術を受けました。趣味は短歌です

ダリア買う

2013年12月16日 17時32分33秒 | 短歌
安川美子さんの第一歌集『ダリア買う』を贈っていただいた。

安川さんは、「塔」誌の校正のときにご一緒する。塔に入会されたのは、私とほぼ同時期である。

塔誌上では、特に注目されることもないが、こうしてまとまったものを読ませていただくと歌材の豊富さで、なかなか楽しい歌集に仕上がっていると思う。

シビアな歌もある。

  八十歳を過ぎたる母がひとり看る父は両手を縛られており

  帰りたい帰りたいとぞ父は泣く家方(いえざま)指して車椅子に泣く

  喉頭へ垂直に管さしこまれ言葉奪われし父が生きおり

淡々と詠われているがゆえに余計痛々しさが伝わってくる。

自然詠にも魅力的なものがたくさんあった。

  曇り日の御所は静けし紅葉も緑も深く黙していたり

  疏水辺の夜目にましろき桜花ありやなしの風に散りいる

お母様のなくなられたときの歌にも心打たれた。

  本当は誰も臨終におらざりき心電図のみ動いていたり

  さよならもありがとうとも言わぬまま母を逝かせしその子五人

お一人暮らしの寂しさが伝わってきた歌 

 帽子ぬぎイヤリングとり素にもどるマンションの部屋はだあれもいない

比喩が優れていると思った歌

  竹箒で掃きたるように雲が飛び球技楽しむ子らの声高し

  疏水辺のカフェのテラスの桜葉が柿より赤く風に光れる

  ゆるやかな日差しのなかに家々は影やわらかに午睡している

怒っている歌も迫力がある。

  アメリカの若きら声をあげ笑いいる原爆資料館になにがおかしい

日短かの晩秋の観察のゆきとどいた歌

  陽だまりのぬくきベンチより占めらるる昏れ早き日の午後のキャンパス

おもしろい歌

  「よしこさん」と呼べと言えども幼子は「どっから見てもおばあちゃんだよ」

なるほどと思った歌。

  老木の傍えに生うる若もみじ細き枝にも紅もゆる

  目覚むれば高層階にも雪積もる音なく色なくただ降りしきる