チェルノブイリの祈り―未来の物語(岩波現代文庫)~スベトラーナ・アレクシエービッチ著・松本妙子訳
作者のスベトラーナ・アレクシエービッチは今年のノーベル文学賞受賞者です。
時々利用させてもらっている近くの大学図書館の書棚に、「ノーベル文学賞受賞」のポップが添えてなかったら、手にしなかったかもしれない地味な表紙の文庫本です。
チェルノブイリの原発事故は1986年、作者はベラルーシに住み、ロシア語で書かれた原作の出版は1997年、日本語訳版は1998年、文庫版は2011年の刊行です。
取材は事故後間もなくから、こつこつ進めながらも、出版にこぎつけるまでは長い時間がかかったようです。
文庫版の解説をフォトジャーナリストの広河隆一さんが書いています。
同じ取材対象に面会しているのに、自分は事実の羅列しかできなかった。アレクシエービッチだからこそ語る人と書き留める人の間に、大きな思いのやりとりができて、奇跡の仕事が生み出されたのだと。
この本はは原発作業員、消防士、科学者、医師、兵士、放射能汚染地域から脱出した人々、住み続ける人、子どもたち・・・約300人の、チェルノブイリに係わってしまった人々の声を集めた記録です。
死んだ人が腐敗していくのは自然なことですが、大量の放射線を浴びた人間は生きながらくずれていきます。
そんな悲惨な日々の記憶を最初の章で消防士の妻が、最後の章で事故処理作業者の妻がアレクシエービッチに語ります。
そして、中ほどには子どもたちの声の合唱。
東電の事故のあと、福島はチェルノブイリとは違うと、叫ぶ政治家や科学者がいましたが、どこが違うんでしょう。
亡くなった人の数ですか?
事故を起こして、まだ収束しない、できない原因は同じ原子力ですよ。
チェルノブイリは過去で、現在で、そして本の副題でもある未来まで続きます。
思いがけず出会えて、読めたことがうれしい本でした。