ご機嫌よう読者諸賢。ハウリンメガネである。
今回は火曜の予告通り、ファズの話をしよう。
私もファズは好きなので長い話になるが最後まで何卒お付き合い願いたい。
そもそもファズとはなんぞや。
今でこそ歪み系エフェクターの1ジャンルという扱いになっているが、ファズというエフェクターが内包するその要素は多岐に渡る。
オーバードライブ的なもの、ディストーション的なもの、はたまた無理やり波形を弄り、シンセ的な音が出るものまで様々である。
唯一共通しているのは『歪ませる為のアタッチメント』という点のみ。
だが、それも当然のこと。
ファズが誕生した当時はオーバードライブという名のペダルも、ディストーションという名のペダルもまだ生まれていなかった。
つまり、ペダル単体で歪みを生み出すエフェクターはこれ全てファズだったのである。
故にファズと呼ばれる幾多のペダルはどこか荒々しさのある歪みという点こそ共通しているが、各々の音の違いはファズという一つの名称で括るのは困難を極める。
ディストーションライクなのか、オーバードライブライクなのか。
トレブリーなのかブーミーなのか。
ゲート感が強くブチブチとサスティンが途切れ途切れになるものなのか、スムーズにサスティンが伸びるものなのか。
ノイジーでドンシャリのジャージャーした歪みなのか、ローやミドルの強いファットな歪みなのか。
上記全ての要素を"ファズ"の一言で括れるか。否である(まあ、そんなことをいうとオーバードライブならTS系とかCentaur系があり、ディストーションならRAT系やガヴァナー系というようにそれぞれ違いがあるのだからオーバードライブやらディストーションやらの一言で括ってくれるな、という話になるのだけどファズの振れ幅と比べればまだましなのではなかろうか)。
さらに恐ろしいことにビンテージになると同じメーカー、同じ名前、同じ見た目のペダルなのに回路のバージョン違いで音が違うし、その逆に違うメーカー、違う名前、違う見た目なのに実際は他社OEMによる同一回路のペダルだったりと、まさに沼としか言いようのない深淵が広がっているのである。
ここにパーツによる個体差まで絡むのだから、そこまでくるとファズマニアの人々のいう、
Q.なんで同じエフェクターを何台も持ってるの?
A.だって全部音が違うんだもん!
という結論に落ち着くのだろうが、これでは「オーバードライブやディストーションは持ってるから次はファズが欲しいなぁ」というファズ初心者の方にはちと、とっつきづらかろう。
というわけで前置きが長くなったが今回は私の手持ちのファズを例に、世の中にどのようなファズがあるのかをざっくりと説明してみよう(今回の説明に出てこないファズも世の中には山ほどあるのでその辺りはご寛恕の程よろしくお願い申し上げる)。
私も多くのギタリストのご多分に漏れず、歪み系ペダルは昔からオーバードライブやディストーションも含めて買っちゃ売りを繰り返してきているが、そんな繰り返しの中でいま手元にキープしているのがこの4台。
左から右へ向かって
①Wren&Cuff Garbage Face
②Maxon Fuzz Elements Air
③MXR Super Baddas Variac Fuzz
④Dunlop FFM3 Fuzz Face Mini Hendrix
である。
順番は前後するが、まずは④Dunlop FFM3 Fuzz Face Mini Hendrixからいこう。
これはいわゆるファズフェイスというファズ(ジミヘンが使っていたことで有名)。
よく「ファズは手元のボリュームで激歪からクリーンまで変えられる」という話が出るが、そういうことがしたいなら使うべきは間違いなくこの手のファズフェイス系のペダルだ。
ファズフェイス自体のコントロールはファズ(ゲイン)もボリュームもほぼマックスにしておいて、手元をフルにすればローの強いムワッとした暑苦しいファズトーン。そこから手元を1目盛りほど絞るとファットなドライヴトーン、そこからさらにもう1目盛り絞るといなたいクランチ、さらに絞れば枯れたクリーンへ、グラデーションのように歪みが変化してくれる。
もちろんアンプの歪みでも同じことはできるのだが、ファズフェイスを挟むとアンプのクリーン〜歪みの範囲が拡張されるというか、歪みはより激しい領域まで、クリーンはより枯れた領域まで使えるようになる、というのが私の印象。
ただ問題がいくつかあり、ファズフェイス系のペダルは前段にワウを置くとワウの効きが悪くなる(というかほぼ効かなくなるうえにピーピー発振までする)。
これを解消するにはワウとファズフェイスの間にバッファ(ないしオンでインピーダンスが下がるペダル、オーバードライブとか)を挟んでやればいいのだが、ファズフェイスは前段にバッファが入ると(つまりファズフェイスに入る信号がローインピーダンスになると)全体のゲインが上がり、ローが出すぎたり、手元のボリュームを4〜3辺りまで下げてもゲインが落ちきらず、直で差したときのようなクリーンは出なくなってしまう(これはこの手のボリュームによく反応するファズ全般にいえる)。
もちろん前段にワウがあっても問題なく使えるファズフェイスもあるのだが、これは個体差もあるので、私はこれについてはワウをファズフェイスの後ろに持ってくることで対応している(なのでファズの後ろに持ってきてもピーキーにならないワウが必要になり、その為にアイバニーズのWH10v3を買った訳です。ファズとの相性を考えると他のペダルまで変える必要に迫られるからファズは業が深い……)。
とまあ、多少の問題はあるが、ブルースロックやジミヘンごっこがしたいなら間違いなく選択肢に入れるべきファズがファズフェイスである。
次。
①Wren&Cuff Garbage Face
これはダイナソーjr.のJ・マスシスが所有するビッグマフ(ラムズヘッド期)のクローンペダル(私、J・マスシスのファンなんです……)。
私は昔からビッグマフが好きで、初めて買ったエフェクターはビッグマフのロシアン(黒)だったほどなのだが、ビッグマフもまたバージョンが大変多い。
ざっくり分けると
・トライアングル(1stバージョン)
・ラムズヘッド(2ndバージョン)
・3rdバージョン
・ロシアン(アーミーグリーン)
・ロシアン(黒)
と、色々あるのだが、全体的に言えるのはディストーション寄りのファズ、ということ。
先程のファズフェイスのようにボリュームを絞ったらクリーンが〜というような応答性はほぼなく、手元を下げていようが、ソフトにピッキングしようがこいつをオンすれば「私がファズディストーションでございますがなにか?」と言わんばかりの歪みが溢れてくる。
ゲート感のない伸びやかなサスティンもビッグマフの魅力の一つで(ゲインノブの名前がサスティンとなっているだけある)、デヴィッド・ボウイのヒーローズでフリップ先生が披露している超ロングサスティンのディストーションギターもトライアングルビッグマフ(正確にはエレハモがギルドにOEMで卸していたフォクシーレディ)を使って、フィードバックさせながら弾いたものだそう。
私の使っているこのペダルはどこかブラウンサウンドにも似たサウンドで、フルゲインでコードを弾いてもコード感が崩れず、m7や9thを弾いてもコードとして聴き取れるのが大変良い(ただし、これはラムズヘッド期の特徴なので、3rdやロシアンだとコード感はあまり出ないので注意されたし)。
そしてビッグマフの問題は音量。
まず、アンプ自体が歪んでいるとファズの歪みとアンプの歪みでアンプが飽和するため音量が頭打ちしてしまい、オンした瞬間に音量が下がったように聴こえてしまう。
が、これは極力クリーンなアンプを使えばOK。
で、問題はそのあと。
こいつをオンした状態でリードが弾きたい、と思って後段にブースターを置いても何故か音量が上がらない。
これも先述の歪みによる飽和とそれに伴う音量の頭打ちが原因。
これを回避するにはマフの後段にボリュームペダルなどを置いて、バッキングとリードで音量を調整する(これはフリップ先生方式)か、もしくはマフの前段にオーバードライブなどのボリューム調整ができるペダルを置いて、バッキングの時はそちらをオンし、音量を下げる(これはJ・マスシス方式)、というのが有効。
グランジ・オルタナティブロックで聴けるディストーションサウンドが欲しい人なら間違いなくビッグマフは気に入るだろうし、フリップ先生のディストーションサウンドが好きな人にもマッチするのは間違いない。
(なお余談になるが、実はこのペダル、レンジマスター(トレブルブースター)クローンとビッグマフの2in1ペダルで、このレンジマスター部がとても良い。レンジマスターはある意味ファズの親戚といえるところがあるので気になる人は調べてみてほしい)
さあ次は②Maxon Fuzz Elements Air
これはユニヴァイブでおなじみ、shin-ei(もしくはそのOEM先であるunivox)のsuperfuzzのクローンペダル(公式にはアナウンスされていないが、音とコントローラの名前からいくとsuperfuzz以外ないはず。MaxonのFuzz Elementsシリーズは過去のFuzzの名器の再発がテーマらしく、良さげなペダルがラインナップされている。店頭で全く見ないのがネックだけど)
superfuzzといえばピート・タウンゼントも使っていた名器(ただ彼は歪みというよりフィードバックさせる為だけに使っていた模様)だが、意外なことに日本製ファズなのである。
日本製ファズというと他にはローランドのBeebaaや、ELKのビッグマフサスティナーなどが有名だが、面白いことにどれも鬼のようにドジャー!と歪むペダルで、当時のエンジニアの方々がどういう感性でこれらを開発していたのか……永遠の謎である。
それはさておき、このsuperfuzz、実はオクターブファズである。
オクターブファズといえばジミヘンが使っていたオクタヴィアが有名どころだが、このsuperfuzzもかなり面白い。
オクターブファズというのは電子回路で無理やり実音に対するオクターブ下、もしくは上の周波数を作り出すのだが、その回路構成上、コードを弾くと音がグシャグシャになり、カオティックな音になる。
メジャートライアドやマイナートライアド程度ならなんとか聴き取れるが、7thコードやテンションコードを弾こうものならルート音すら分からなくなるカオス。
だが、その破壊力は抜群で、こいつを踏んでリフやパワーコードを弾けば、全てが吹っ飛ぶようなロックサウンドを展開できる(実を言えば『太陽と戦慄part.1』で聴ける破壊的なディストーションサウンドが欲しくて、ファズを探し回っている時に見つけたのがこれだったのだ)
上下のオクターブの混じったドジャー!とバケツを引っくり返したような雨にも似たディストーショナルな歪みの洪水はこれにしか出せない魅力に満ち溢れている。
欠点はこれまた歪み過ぎによる音抜けの悪さなのだが、こいつについては「音量を上げて使え!以上!」と言い切りたい。そんなディストーショナルなファズである(意外なことにボリュームへの反応はすこぶる良く、手元の操作でクリーンまで下げられる。ただし、手元を下げてもオクターブが混ざるためコードの分離はよろしくない)。
さあ、これで最後。③MXR Super Baddas Variac Fuzz!
これが手持ちのファズでは一番の新参者。
買った理由は……ジョン・フルシアンテが導入しているからである!
もともとジェフ・ベックのペダルボードにこいつが入っていたのを見ていた私は、レッチリ復帰後の彼のペダルボードにこれが乗っているのを見つけ、(うーん、ジェフもジョンも使ってるならいいファズっぽいなぁ、試してみたいなぁ)と急ぎ楽器屋を歩き回ったのだが、そこはジョン効果、私と同じような人が沢山いたのであろう。それまで楽器屋で何度か見たことがあったはずなのにどこに行っても在庫がない!(私も人のことはいえないが、人気のあるギタリストが使ってるエフェクターの記事が出ると市場から在庫が消える現象、どうにかならんかね)
そんなこんなで暫く入手を諦めていたのだが、ある日ふらふら楽器屋を廻っていた際に、現品特価で売られていたのを見つけ、無事入手したのであります。
試した第一印象は「便利なファズ」の一言。
ファズとしてはオーソドックスな歪み方だし、手元のボリュームを下げればそれなりにクリーンまで持っていける(ただファズフェイスのようないなたさはない)。
ゲインをゼロにすればファジーなブースターとしても使えるし、電圧可変ノブがついているので、そこでファズらしさを強調することもできる。
手前にワウを持ってきてもちゃんと掛かるし、手元を下げた時のクリーンに色気がないことを除けばかなりバーサタイルなファズ、という印象であった。
で、このペダル、製品紹介にシリコンファズをベースに電圧可変回路を追加と紹介されているのでファズフェイス系かと思っていたのだけど、先日の「ファズで歪ませた〜い!」気分の際に取っ替え引っ替えファズを繋ぎ替えていた時のこと。
ファズフェイスの後ろにこいつを繋ぎ、両者をオンしたところ、Variac Fuzz単独では聴いたことのない音が出てきたのである。
ジャミジャミとでも表現したらいいだろうか、いつもより明らかに上の帯域の倍音が聴こえるのである。
(なにかで聴いたことがある音なんだが……)
とそのまま弾き続けていたのだが、ふと気付いた。
「これジミヘンのオクタヴィアっぽくねぇか?」
そう、調べてわかったのだが、このファズ、オクタヴィアからオクターブ回路を抜いてトーンと電圧可変回路を足したものらしいのである。
単独だと気づかなかったが、前段にファズフェイスを挿して使うと確かにオクターブ抜きのオクタヴィア、といった風情の音なのである(オクターブ抜きのオクタヴィアってなんだ、って話だが、まあ蕎麦でいう天抜き、うどんでいう肉吸いみたいなもんだと思えばまあまあ……納得できるか!)。
先述のファズフェイスのインプットインピーダンスもそうだが、ペダルにせよアンプにせよ、美味しいところが出やすいインプットレベル(インピーダンス含む)、というのはあるようで、このVariac Fuzzはインプットレベルを結構突っ込んでやるとオクタヴィア的な上の倍音がとても気持ちよく、今まで「便利なファズだなぁ」としか思っていなかった己を束の間恥じつつ、ひたすらジミ的フレーズを弾き倒した私であった。
斯様にファズというのは幅広く、他との組み合わせでその音色が変化するものなのである。
何故我々はファズに心惹かれるのか。
ファズというペダル自体の面白さもある。
だがそれ以上にロックの創成期、ギタリストの傍らには常にファズがあったという浪漫が我々を惹きつけて離さない。
ジミヘンのファズフェイスとオクタヴィア。
ジミー・ペイジやジェフ・ベック、ミック・ロンソンのトーンベンダー。
フリップ先生のバズアラウンド、トライアングルビッグマフ。
デヴィッド・ギルモアが使っていたファズフェイスとビッグマフ……等々、ファズの歴史はロックギターの歴史とイコールなのである。
さあ、ここまで読み進めてくれたギタリスト諸君、浪漫に触れたくなったんじゃないかね?
ファズを踏もう!そして浪漫に触れてみようではないか!
……ついでに大勢がファズの沼に足を突っ込んでくれることを願いつつ……ハウリンメガネでした!
<ハウリンメガネ筆>
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