まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

酒田はおくりびと旋風

2009-04-27 23:56:08 | 建築・都市・あれこれ  Essay

Okuribito Minatoza

早稲田大学では酒田を対象として学部横断型の短期集中設計演習を行います。参加学生は真夏の5日間現地で合宿しながら町の活性化提案を作成し市民への発表を行います。担当の卯月先生とは長い付き合いということでお隣の鶴岡から駆けつけ酒田市役所のTさん、ティーチングアシスタントのITさん、IRさんとともに、市内を見て回りました。

酒田のまちなかは「おくりびと」旋風が吹いています。まず料亭おばた(上左写真)。ここは何回か来ましたが、数年前に閉鎖になって以来さびしい姿をさらしていました。今回は大勢の人たちでにぎわっており、市民ボランティアが生き生きと働いています。また同じく数年前に閉館となったみなと座(上右写真)も納棺師のプロモーション映画の撮影セットとして使用されたことでふたたび脚光を浴びています。映画をきっかけとして何とか町を盛り上げていこうという市民の熱い思いが伝わってきます。

Kasahuku Bousai_kennchiku

映画のロケ地とはなりませんでしたが、上の写真(左)の山王クラブ(古い料亭を市が買い取り展示施設として活用。運営はボランティア。)や大火の復興でできたと思われる集合住宅(上右写真)など、酒田には見所がたくさんあります。山王クラブには庄内ならではの傘福が所狭しと並んでいましたが、これだけ集まると一種不思議な幻想性を帯びた空間を作り出します。

酒田は鶴岡とはまた違った意味で懐の深い町です。歩いていて飽きることがありません。しかし残念ながら町の中心部はシャッター通りとなり、町を楽しく歩く人の姿はわずかになっています。卯月先生たちの提案が楽しみです。

 

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高谷時彦記 Tokihiko Takatani


青梅・のこぎり屋根・鉄道員

2009-04-25 19:31:35 | 建築まち巡礼東京 Tokyo

Oume02 Nokogiriyane

青梅に住むKさんのお宅を設計しています。Kさんのお宅での打ち合わせの後近所においしいパン屋さんがあるのでよってみたらと勧められました。車で数分走っただけで深い山中にに入り込みます。左の写真、入り口脇に本格的なパン工房を持った建物が「木の葉」というパン屋さん。そして沢をはさんで反対側にはのこぎり屋根の建物があります。

Kさんに後日お聞きすると、夜具に使う青梅縞の織物工場だそうです。まだ稼動しているのかどうか確かめませんでしたが、自然光を取り入れる工夫が特徴的な外観を生み出しています。のこぎり屋根はありませんが、Kさんのお宅の内部も上方からの明るい光で満たされるはずです。

 

 

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帰りに青梅駅の地下道を通ると懐かしい映画看板に出会いました。ピエトロジェルミの鉄道員です。高校のときに見て以来ほとんど思い出すこともありませんでしたが、いつもは陽気に聞こえるイタリア語のハギレよいリズムがこの映画では悲しく響きます。テーマ音楽とともによみがえってきました。

青梅ではいろんなものとの出会いがありそうです。

 

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高谷時彦記 Tokihiko Takatani


世田谷文学館

2009-04-22 00:42:51 | 建築まち巡礼東京 Tokyo

Mon 松本清張展が開かれているときき久しぶりに世田谷文学館に足を運びました。

世田谷文学館の魅力は展示だけでなくその周辺にもあります。巨木にに覆われた緑陰の歩道や、蘆花の居宅のある芦花公園など緑多い環境に囲まれた文学館です。

しかし今回訪れて驚いたことに、文学館前にあった化粧品会社ウテナの創業者(?)のお屋敷が老人ホームの建設用地となっていました。

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Kanban 幸い、門や蔵、屋敷周りの池は残されるようで、文学館に面した部分ではロビーの中から相変わらず伝統的なお屋敷の風情は楽しめるものと推察されます。もともと文学館に面した部分は区の所有となっていたのかもしれませんが世田谷風景資産にも推薦されていたこの付近のたたずまいが継承されていくことを祈るばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清張展はなかなか楽しいものでした。何より自筆の手紙や原稿がまじかで見れることがうれしいものです。また会場構成も主催者に順路を指定されるのではなく(実篤記念館などと同じように)自由に好きなところから見れるようになっており、清張をめぐる気ままな散歩が楽しめました。ミュージアムショップも大盛況で私も小説を買い込んでしまいました。

Danchi 帰りに、駅前の蘆花団地を歩いてみました。ここは古い公団の団地でしたがこの10年余りで建て替えを進めています。電車から見る限り以前の団地にあった巨木を残したりしながらきめ細かく建て替えているように見えましたが、中に入ってみると、谷筋にそって形成されていた緑の背骨が見当たりません。工事中で仮囲いが多くうまく見つけられなかったのかもしれませんが、地形の文脈が保存継承されていることを願い、また後日みにいきたいと思います。

 

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高谷時彦記 Tokihiko Takatani


藤沢周平記念館と桜

2009-04-18 20:15:30 | 建築・都市・あれこれ  Essay

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左:植木市

中:荘内神社前の桜

右:桜で記念館は見えない

 

 

藤沢周平記念館は5月末の竣工に向けて最後の仕上げ工程に入っています。12,13,14日と鶴岡にいましたがちょうど桜が満開となりました。

記念館の敷地の周りも、暖かい春の陽気を楽しむ大勢の人で賑わい、建物の中からも楽しげな雰囲気を伺うことができます。仮囲いの外にも植木市の露天が並び北国にも春が来たことを感じさせてくれます。冬の間は県道羽黒加茂線(大山街道)からも現場が見えていましたが今はすっかり桜の陰に隠れました。

 

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高谷時彦記 Tokihiko Takatani


映画「おくりびと」に思う

2009-04-18 19:27:18 | 建築・都市・あれこれ  Essay

Photo_2 Photo Photo_5 左:鳥海山

中:月山

右:主人公が通う銭湯、鶴の湯

 

 

映画「おくりびと」が外国語映画部門アカデミー賞に輝き、撮影地である庄内に注目が集まっている。映画の主人公はプロ奏者として生きる夢が破れ失意の内に帰郷したチェロ奏者。主人公が、故郷の代わらぬ風景や人々の暮らしのなかで、納棺師という職業に意味を見出し、前向きに生きる気持ちを取り戻すという一種の魂の癒し、再生の物語である。

庄内の厳しく美しい自然や、独自の死生観に裏付けられた精神風土がこの映画の重要な背景をなしている。しかし、もうひとつ忘れてならない要素がある。それは主人公が帰ってきたときに、自然環境だけでなく生まれ育ったふるさとの暮らしの環境(Built Environment)がそのまま残っていたということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公は自分が育った家で再び暮らす。彼は生家の空間を再体験することやそこにあるモノを通して昔の自分の夢や家族の思いと再会する。また、旧友は温かく受け入れてくれなかったが友の実家の銭湯の空間は変わっていない。そこはまちの人々が疲れを癒す場であり、昔通りの生活のリズムがあり、主人公はそのリズムに再び同期(シンクロナイズ)する。主人公は自己形成期の彼を定位するよりどころであった環境に抱かれ、本来自分が帰属するべき環境・風景を再発見することで再生を果たしたのである。

 

 

 

美しい自然環境だけではなく、人々が暮らしの中でつくってきた環境とその表れとしての風景が残っていることが、撮影地として庄内が選ばれた理由でもあろう。この風景が文化を超えた理解と共感を呼ぶことは、今回のアカデミー賞が証明している。しかし、主人公の幼馴染みが前述の銭湯を壊して建て替えようとしていることに象徴されるようにこの風景はいまや失われようとしている。残念な逆説ではあるが、そのことがさらに多くの人々の共感を誘ったともいえよう。

映画に描かれたような「自然風土の中で人々の暮らしが営々と創りあげてきた固有の環境・風景」が変わらずそこにあることで、私たちは自分や自分たちのまちのよってきたるところを確認できる。自分のアイデンティティのよりどころとなる環境や風景に、ひとは帰属意識を持つことが出来る。変わらないふるさとの風景には安心して帰属感を抱く。反対に、自分のいる場所が常に変わり続け、落ち着いたイメージとして像を結ばない場合には、わたしたちは知らない町にいるのと同じで道に迷い(be lost)、自己を定位するよりどころを失う。

グローバルな世界になればなるほど人々はローカルな自分たちの場所への帰属を必要とする。その場所を、自分たちが安心して帰属できるものとするためには、受け継がれてきた固有の環境・風景を尊重・継承しなければならない。建築家や都市環境デザイナーの創造活動もその延長上に位置づけていくことが求められている。またその様な創造活動こそがまち固有の魅力形成につながっていくであろう。

 

 

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