まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

東京建築祭2024でリノベーション建築を見学

2024-05-26 22:05:54 | 建築・都市・あれこれ  Essay

東京建築祭2024の最終日、神田神保町駅周辺のリノベーション建築を見学しました。

どれも力作で、勉強になりました。まずは神田ポートビル。

1964築の6階建てのオフィスビル。糸井重里さんをはじめ多くのクリエーターがかかわったリノベーションのようです。1階を入るとギャラリー風のお店・・普段このようにしゃれた店に入らないので、正直置かれている商品がなんなのか把握できないまま、地下へ。

 

地下はサウナですが、ちょっと今風過ぎて、よくわからないのですが、若い人たちが気軽に訪れて自由に時間を過ごすのに、快適な場所なのだと思います。1階の床スラブに大きく穴をあけて吹き抜けにしています。上階には、糸井重里さんが関係している「ほぼ日の学校」があります。茶室もありました。

普通のオフィスビルがここまでイメージを変えることができるんですね。基本的には、リノベーションというよりは、個々のテナントやその空間デザインの面白さがあるようです。

次に向かったのが、岡田ビル。

この建物は、リノベーションの力を強く感じました。リノベーションの力というのは、構造体に手を加え、空間を新しく解釈しなおす(空間の)構成力という意味です。詳しく伝えるのは難しいですが、既存不適格建築(違法建築?)という条件からスタートして、不適格部分の撤去、耐震補強、平面の要となるコア(EV,水回り、階段)の再編など、大変巧みな改変です。外壁のちょっとぼろっとした感じもいいですね。設計された方は手慣れたベテランなのか、あるいは若い方なのか、・・・私が不勉強なだけで、見学している皆さんご存知なんでしょうが・・・。

最後は、安井建築設計事務所(の建物)。

昔大林組がいた建物だとのことです。1階から3階までの3層が安井事務所ですが、1階と2階の半分を地域に開放しています。

組織設計事務所というと、私の世代の人間にはお堅い組織というイメージがありますが、今は個々人が自由な創意を発揮できる設計集団というとらえ方が良いようです。皆さんまちの人とも触れ合いながら、楽しく設計をする場所、生き生きと滞在できる場所を創っていこうとお考えのようでした。いいですね。

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architect/urban designer

設計計画高谷時彦事務所 TAK Studio

 

 

 

 

 


京王多摩川駅前の地区計画 まちづくり 府中用水の暗渠化

2024-05-25 18:48:09 | 建築・都市・あれこれ  Essay

忘れていたのですが、先日二ケ領用水の古い写真を見て、思い出してしまいました。

京王多摩川駅前の地区計画のことです。駅前に掲示してある地区計画の看板をもう一度見て、カメラに収めました。

京王多摩川の駅前は、戦前の多摩川遊園から近年のフローラルガーデンアンジェまで、行楽地として土地利用がなされてきました。しかしアンジェは数年前に、閉鎖されて空き地になっています。多摩川に沿った行楽エリアがだんだんなくなっていくというのは残念でしたが、運営主体にもいろいろ事情があることと思います。

1,2年前でしょうか、跡地を住宅や商業施設として開発するという方針が示され、京王多摩川の駅前広場で市の説明会があったので、ぶらりと立ち寄ってみました。上の看板に書いてある内容が掲示してありました。

私は2つのことに、驚きました。一つ目は用途地域指定を第一種低層住居専用地域から近隣商業地域にかえて、容積率を80%から300%に一気に上げるということです。これは仮に100㎡の土地に対し、80㎡の住宅した建てられなかったのに、地区計画により300㎡の商業施設などが建てられるようになるということです。いわば、土地の価値が一気に3,4倍に引き上げられるということです。土地利用者に莫大な利益をもたらします。

ただ、このことは、調布市が、何らかの都市計画的理由があって行うのであれば、しようがないと言えなくもありません。ただ、それだけ土地所有者に大きなメリットを与えるのであれば、SDG’sや環境に対する配慮は当然なされるはずです・・・。しかし、2つ目に驚いたのは府中用水に蓋をかけてしまうという計画であったことです。

府中用水と鶴川街道が交差するところです。

府中用水というのは崖線からのはけ水などをうまく農業用水にしたものだと思います。自然の川ではありませんが、付近の植生を豊かにし、沿線が市街化された現在でも、自然的な環境を市民に提供しています。府中の方に行くと下写真のような場所もあります。

また、多摩川をはさんだ川崎側にも、二ケ領用水という用水路がありますが、下のように市民に親しまれる空間になっています。親水環境を作ろうという明確な意思が感じられます。

本来私たちの望ましいくらしの環境をつくるための「地区計画」で、なぜ用水を暗渠化するという発想が出てくるのか、理解に苦しみます。もちろん開発事業者は、暗渠にすれば効率よく宅地開発あるいは商業開発できると発想するでしょう。しかし、時代は産業発展や自動車での移動、貨物輸送のために多くの川や用水を暗渠にしていた50年前ではありません。市は違う立場、すなわち市民の立場で考えるべきです。土地所有者(開発者)に、容積率の巨大なボーナスを与えているのですから、少しくらいは地域環境への貢献を求めるのが自治体が設定する「地区計画」の役割です。

1,2年前の京王多摩川駅前での説明会の時に、担当者に対して私は以上のようなことをお話ししました。しかしその後、再説明会があるわけでもなく、そのまま、地区計画が制定されてしまいました。何のために地区計画を制定するのか・・・、開発事業者に最大限の利益を与えるためなのか、あるいは地区に暮らす人たちに(一様な都市計画では達成できない)その場所に応じた優れた環境(この場合は親水環境)を生み出すために制定するのか・・・。調布市に考えて欲しいものです。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 

 

 

 


JIA日本建築家協会でお話ししました

2024-05-24 11:03:18 | 講義・レクチャー Lecture

JIA日本建築家協会再生部会の催しでお話しする機会がありました。神宮前の建築家会館です。

タイトルは「地域に今あるものを活かすー歴史的建築の再生・活用」です。鶴岡のまちづくりや建築再生で活躍されている柳沢伸也さんから声をかけていただきました。再生部会の建築再生アーカイブ(WEB)の1周年記念ということで、そういう節目に呼んでいただけたことは大変光栄でした。また、再生活用のプロの皆さんを前に話すのは、少し心配でしたが、モデレーターの大橋智子さんのアットホームな場づくりのおかげで、最後まで何とかたどり着きました(アーカイブづくりの中心を担っている桐原武志さんのご厚意で、このブログに桐原さん撮影の写真をつかっています)。

お話ししたのは私が取り組んだ2つの再生事例「鶴岡まちなかキネマ」と「日和山小幡楼」についてです。報告に入る前には、私自身が歴史的建築の再生活用に取り組むようになったきっかけとなったプロジェクトや、そもそもそういうものに私の目を向けてくれた山形県庄内の人々の暮らし、風土なども紹介しました。2つのプロジェクトでの、リノベーションの方法、考え方等の詳細は別に紹介したいと思います。

写真撮影:桐原武志 photo by Kirihara

当日はZOOM配信もあり、40数名の方々に聞いていただくことができました。上の会場写真、最前列には、私の学生時代(都市工学科)からの師、曽根幸一先生もおられます(緊張!)。

写真撮影:桐原武志 photo by Kirihara

成熟の時代、歴史的建築がつくる環境は、私たちの暮らしに歴史文化的に豊かな彩を与えてくれるだけでなく、自分よりずっと長く続く確かな存在との一体感(それが地域への誇りとなるのでしょう)をもたらしてくれます。長年取り組んでおられる再生部会の活動にほんの少しでも貢献できるレクチャーとなっていたら、大変うれしく思います。またつたない報告を最後まで会場あるいはZOOMで聞いていただいた皆様、有難うございました。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所 TAK Studio

 


広い多摩川、二ケ領用水取水堰のおかげ

2024-05-23 18:54:27 | 建築・都市・あれこれ  Essay

久々に夕方の多摩川散歩。川では大きな鯉を発見。子供が小さいころにはこの辺りに釣りに来たりしたのを思い出します。まさか自分の事務所がすぐ近くに引っ越すことになるとは思いもしませんでした。このあたりは水量が多く、川幅も広い!ちょうど二ケ領用水の取水堰があるおかげです。

下の写真のには取水堰の塔(と呼ぶのでしょうか?)も映っています。

もう20年近く前になりますが、二ケ領用水のあたりを見学したときの写真を引っ張り出します。こういう施設は実に美しいですね。「機能的なものは美しい」という教条!もこういうところでは、頷けるような気もします。

用水沿いは、遊歩道として整備されています。

おそらくこういう風景は今も変わっていないはずです。

 

農業用水としても使われているように思います。機能的なものでありながら、町に潤いを与えるものでもあるんですね。

そういえば思い出しました。京王多摩川駅前の開発計画では、府中用水に蓋をかけることになっていました。駅前の小広場で市が計画の説明会をしていたので、これだけ環境意識が高まり、SDG’sの時代に、用水を暗渠化するというのは、時代錯誤も甚だしいという意見を申し上げ、メモも残してきたのですが、まったくスルー。残念ながら、市民の意見を聞くための説明会ではなかったようです。熊本の方でも最近ありましたが・・・。

 

 


駿河台から淡路町まち歩き

2024-05-14 11:39:09 | 建築まち巡礼関東 Kanto

Blog記事一覧 TAK Studio

建築好き、またいろいろ詳しいHさんと、御茶ノ水駅で待ち合わせ。特に決まった、コースはありません。途中どこかで生ビールを飲むことが決まっているだけです。まずは、文化学院へ。本当に久しぶりです。1989年に槇文彦先生の事務所を卒業して独立。そのあと様々な大学で非常勤講師をしましたが、一番最初に一年間だけ設計の授業を手伝ったのが文化学院です。伊藤ていじ先生が学科長(正式な名称は違うかもしれません)をしておられました。伊藤ていじ先生からは、それ以前に『見えがくれする都市』の私の記述などに、鋭く刺さるコメントをいただいたことがありましたが、若い学生を大切に育てようという思いが伝わってくる優しい先生でした。一度だけですが、講師控室で2人だけでお話しする機会がありました。ラッキーでした。文化学院は、西村伊作さんの設計ですが、西村さんは創設者の一人でもあります。辻原登さんの痛快な小説『許されざる者』にも登場します。残念なことに、玄関部分だけを残して解体されていましたが、雰囲気としてはうまく継承しているように思いました。

ここまで来たら、次はアテネフランセ。吉阪隆正。開講中でしたが、廊下などは見学可能でした。手すり、小さな開口部など、吉阪建築の手触りの良さを感じます。モダニストでありながら、人の感覚を残す細部へのこだわりは、ちょっと違うところです。写真はNGでした。

 

Hさんが山の上ホテルを見ようということで、向かいます。アールデコですね。

横に廻ると表現主義風のところもあり、優しい存在感です。仮囲いがありましたが、どうなるんでしょうか。

多くの文化人の思い出も詰まった建物です。

 

明治大学博物館に向かう途中。神田は看板建築の集中した場所です。お昼ご飯と生ビールの後、再び建築行脚。

明治大学の建物前。ちょっとした休息スペースを作ってくれています。

そしてニコライ堂。こんなところから見えていたんですね。

ビザンチン様式との解説があります。ギリシャ十字の平面形ですね。

玉ねぎ型の塔もあります。東方を感じます。

ロンバルジア帯の付いた、ロマネスク的?建築。敷地内にいろいろあったんですね。初めて知りました。

Hさんが淡路町の方に古い建物が残る一角があるから行こうと、案内してくれました。途中には巨大な再開発ビルが並んでいましたが、足元にはこんな倉が残されて(移築)いました。

 

大正6年上棟です。大規模再開発ではありますが、こういうものを大事にしようという、心もあるんですね。Hさんによると千代田区や港区などは、歴史文化環境に対する意識が高い開発が多いとのこと。

大規模再開発のすぐ横の一角が、別世界。知りませんでした。東京空襲に焼け残った一角とのこと。

歯医者さんが続きます。

 

おいしいお店の数々です。どれも有名処です・・入ったことはありませんが。

 

続いて、万世橋。高架下がアートスペースになっています。

ピエールジャンヌレの家具だそうです。

神田川沿いはテラス。当然、ここでもう一杯ビール・・ですね。

駿河台、淡路町の建築巡りお疲れ様でした。帰りは久しぶりに秋葉原の駅。鉄道が交差する駅に来るといつも大学時代の図学の授業を思い出します。そう、ねじれの関係。交差せず、同一平面上にない2直線の関係です。井の頭線と京王線が交差する明大前の駅を思い出すようにと、言われました。ねじれで交差する駅には、どこも共通するゆとり、遊びの空間が生まれています。単純に言うとホームに広くなっているところがあるということでしょうが、そこが面白い。光が落ちてきていると、「これがねじれの駅の特徴だ」などと、つまらないことを思い浮かべます。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design 

設計計画高谷時彦事務所