まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

矢吹には建築とまちづくりを融合する伝統がある

2024-05-05 21:19:19 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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須賀川に続いて、東北本線矢吹駅で下車。

柴田さん設計ですね。建築とまちづくりの境界をなくそうとした提案です。迫力あります。これについてはまた後日・・・。

今日は、建築家太田さんたちが取り組む、街道に沿ったまちづくりの成果を見学に来ました。

街道というみち空間を、震災復興からのコミュニティづくりの中心に据えようという提案です。まちなか居住、木材利用、小さな公共空間を道に沿って作っていく・・というのが骨子のようです。

まずは小さな公園とあずまや兼トイレ。

さりげない雰囲気‥と思ったら中は刺激的、面白い。いいですね。

復興公営住宅を目指します。丘の斜面に自然な感じで配置しています。ちょっと駐車場が目立ちますが。

こちらのように、入り口廻り、階段室を通して自然な交流が生まれることを目指しているのだと思います。

 

メゾネットタイプとフラットの組み合わせのようです。

 

町の集会所。みち空間と、奥の中庭との関係を体験してみたい・・・と思っていたのですが、今日はお休み。残念です。正直なところ一番見たかった建築ですがしようがありません。

小屋組みも見たかったところです。

でも、細やかなスケール感を持つ空間と外部空間をうまく組み合わせて、変化に富む活動の場ができているのではないか‥と想像しました。

みちの反対側には、もう一つの災害公営住宅がありました。

階段室の扱いが巧みですね。

駅の方に戻るとさらにいろんな試みがあるのが分かります。西洋式の歴史的建築もいくつかありました。

また、町家や、その奥の蔵?を使っていそうな建物もあります。

途に沿って図書館もありました。

私が訪れた日は、先ほどの集会所だけでなく図書館も休みで、あまり人通りがありませんでした。でもこの道に沿って集まる共有の場所の数々はまちの暮らしを少しずつ豊かなものにしていくものだろうと思います。

小さな公共的な場所が積み重なって何が生まれるのか、今後とも注目です。

また、駅自体が、建築とまちづくりの融合を目指した先駆的なものだったんですね。実をいうとここに来るまで駅のことを忘れていました。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 


須賀川市図書館tetteは屋根のある知の広場

2024-05-05 20:04:38 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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東北本線須賀川駅で初めて下車。図書館へ向かいます。

中心部の商店街?にあるんですね。1万3000㎡ある大型施設ですが、町のスケールに溶け込んでいます。

この建物を紹介するのには、この模型が一番分かり易そうです。

ちょっと分厚いスラブが少しずつずれながら重なり、5層の内部空間と、外部テラスをつくっています。これの構成が全体を形作っています。

スラブがずれているので、上部にスラブがないところは吹き抜けになります。

その吹き抜けの中に浮かんでいるスラブ同士を、ランプや階段がつなぎます。

こんな感じで。

 

 

いろんなところで、上部と下部の吹き抜けが現れます。楽しいですね。

外部もいろんなところから顔を出します。すき間だらけの建築なのです。

図書館だけでなくイベントホール等市民活動施設も組み込まれています。

まとまったテラスもあります。

 

スラブが自由?にずれていろいろな面白い上下関係や、内外の関係をつくり出しています。その結果、従来の図書館にはない、自由な雰囲気が生まれます。また吹き抜けに十分な光が入ることで、ちょうど屋根のある広場のような雰囲気が生まれています。「広場」という感覚は、いろんなところでいろんな活動をしている様子が見えるからかもしれません。

うまくいろいろなものを複合させ、かつ窮屈ではない、気楽に滞在できる雰囲気をうまくつくっていると感心します。もちろん本の盗難防止装置BDSは目立たない位置に置いています。図書館の入り口に、BDSや係員のいるカウンターが並んでいると図書館利用になれていない人にとって、心理的なバリアー、あるいは「関所」になる可能性があります。カウンターは人の出入りをチェックするのではなく、利用者が相談したいときに訪れる場所と考えるのがよさそうです。また事務室も少し奥まった位置に置かれ、同時に開放的であるといううまい作り方をしています。決して、来館者を監視するような雰囲気にならないように配慮しているのです。

いろいろ恵まれている条件もあったのだと思います。まず床面積にゆとりがあります。本の置き場所もいろいろな場所に設定されていますが、図書館側の理解もあったのでしょう。またこれだけ吹き抜けが大きいと空調換気設備や区画関係の防火設備など、初期投資および維持管理費も大きいでしょうが、そのあたりも理解があるのだと思います。建築設計の条件、プログラムを設定した方々がきちんとしたポリシーを持っていたのでしょう。

 いずれにせよ、町の中に、非常に愉しい市民の居場所ができたように思います。屋根のある広場タイプの図書館として、きちんと記憶しておきたいものです。図書館コンサルタントであり、新しいタイプの図書館づくりに携わるアントネッラ・アンニョリが言うように「図書館が本のためというよりも人のために構想された場所に姿を変えた」※一例ではないでしょうか。

※「新しい社会の鏡としての図書館」、小篠隆生・小松尚2018『「地区の家」と「屋根のある広場」』鹿島出版会pp206-209

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 


請戸小学校震災遺構は何が起こったのか伝えてくれます

2024-05-05 19:10:25 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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東日本大震災伝承館を見終えて、食事の場所を探しに隣の建物に入ると、食堂はお休みでした。その様子を見ていたのでしょうか、係の方が話しかけてきてくれました。「お店はあるけど営業できていないんです。ひとがいないんですよ」。避難困難区域が解除されて「100世帯くらい暮らしていますが、元の町の人が戻ってきたのは30件くらいしかないんです」。そういう状況なんですね。ここはまだまだ被災中なのです。

係の方が親切におっしゃるには「復興支援で岐阜県から来てくれた浅野撚糸の工場に食堂があります。あの赤い屋根を目印にしてください」とのこと。行ってきました(下写真)。会社ごと支援しているんですね。

続いて、請戸小震災遺構を目指しました。

浪江町立請戸小学校は、犠牲者が一人もいなかった奇跡の小学校です。地震発生直後から近く(といっても結構遠く見えますが)の山に全員で避難したのです。本当に良かったと思います。

すさまじい出来事を彷彿させる展示ばかりです。

ものすごいエネルギーだったことが伝わります。

2階の床ギリギリ迄津波が来たようです。

アルミサッシは、障子(可動の部分)が跡形もありません。

建物の、表側も裏側も関係なく、水の力が及んだことが分かります。

この小学校から犠牲者が出なかったことは本当に幸いでした。長く伝えていかないといけないと思います。

高谷時彦

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Tokihiko TAKATANI

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東日本大震災伝承館へ

2024-05-05 18:07:35 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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東日本大震災・原子力災害伝承館は、忘れてはならない大切な事柄を受け継いでいく場所です。重い事実を伝えるわけですが、建物自体は大変軽快でさわやかなものです。地元福島出身の渡部和生さんの設計です。氏の作品は、いくつか拝見しました。分かり易い空間構成をとりながら、部分は丁寧に作り込んでいく・・というスタイルで、学ぶところの多い建築ばかりでした。朝早く訪れたのでもやの中の写真となりました。海が近いせいです。春になるといつももやが出ていた、自分の生まれ故郷、高松の海辺近くを思い出しました。

木の竪羽目板を外壁に用いており、優しい印象もありますが、ディテールがしっかりしているので、大変シャープで「きちんと整った」感じも持ちます。木を使うだけではなく、どう使うのかが大事なのだと思います。

足元も、巾木部分にレンガのような質感のものがちらりと見えます。こだわっていますね。

エントランスのラウンジです。右手方向に海があり(堤防があるのと少し距離があるので直接は見えませんが)、海まで広い芝生がひろがっています。その景色を横長の窓で切り取っています。残念なことに展示物でうまく写真が撮れません(展示のせいではありません。写真の腕ですね)。

巾木のおさまりもきれいです。この辺りは、広くないので、広報展示がなくてもいいのではないかという気がします。

とはいえ、広報を含む展示が主役です! ということで最初の展示室に入ります。らせんのランプウェイですね。青山スパイラルを皆さん思い出すと思います。曲面壁にプロジェクションするという発想がユニークです。

この展示ホールはいいと思ったのですが、この形状が、内部のほかの部分と関連性を持っていないことや、外観にほとんど表現されていないのが、残念な気がしたのですが、そのあたりは設計意図としてどうだったのでしょうか。下写真は円形の展示ホールの外観ですが、もう少しスパイラルの形態を表象することもできたのではないか・・と思ってしまいます。

展示物の一部です。水素爆発を起こした、あとの原発です。復旧にはまだまだ数十年を要するでしょう。

展示室を出ると、エントランスラウンジの上部に戻ります。分かり易いですね。

エレベーター廻り。きれいですね。

階段のおさまり。面白い。

屋上もあるんですね。見そびれました。周りは復興記念公園になるようです。公園ができた時に、また見に来たいと思います。

高谷時彦

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Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design 

設計計画高谷時彦事務所


豪農の別荘:蛇の鼻御殿

2024-05-05 16:38:23 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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本宮映画劇場を見た後、すぐ近くにある蛇の鼻公園に連れて行ってもらいました。市の公園ではなく、何と、地元の豪農の別邸だったところだそうです。池もあり絶景です(下写真)。

さらに驚くのは、贅を凝らした別荘建築、蛇の鼻御殿。

明治37(1904)年に出来上がったそうです。10年前には日清戦争での勝利。日本で、いわゆる近代和風建築が多くつくられた時期です。このころまでは、景気も良かったのだと思います。

破風玄関には多くの装飾があります。

中も贅の限りを凝らしています。残念ながら部屋の中には入れませんが、解説によると材料などはすごく高価なものだらけのようです。

私は、残念ながら贅とは縁のない人間ですが、この建物では例えば床柱は琵琶、床板は欅一枚板、落とし掛けは黒柿、そして天井は屋久杉といった具合です。

廊下、階段廻りは黒柿のように見えます。

面白いディテールもありました。雨戸のレールの敷居は、フラットバーの竪使いです。いいですね。

忘れるところでした。この豪邸を建てたのは、歌手の伊藤久男さんのお父さん。伊藤久男さんは何と言っても「イヨマンテの夜」・・・まず若い人にはわからないでしょうが。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

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