まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

鶴岡まちなかキネマについて

2011-12-29 17:05:27 | 民間建築 Private Sector Building

ベルカ賞現地審査のときのまちなかキネマ発表スライドです。鶴岡まちなかキネマは木造絹織物工場を、映画館や多目的ホールにコンバージョンしたプロジェクトです。

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2006年合成繊維工場の郊外移転により、中心市街地に3000坪を超える遊休地が発生しました。

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このような工場群です。遊休地の発生をマイナスと捉えるのではなく、中心市街地を構造的に変えていく契機だと捉える地元経済界リーダーのアイデアのもとプロジェクトがスタートしました。すべてを壊すのではなく鉄骨造工場も活用しようという従来のスクラップアンドビルドタイプを超えたアイデアも示されました。

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敷地の中には古い木造工場もありました。これは当初壊される予定でした。

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雪国ということもあり外壁や柱脚が朽ちています。

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内部でも柱や梁が撤去されています。

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再生は難しいという思いの一方、私は東北公益文科大学の研究室の学生さんと共に、歴史建築を活かしたまちづくりを提唱しているということもあり、何とかこの木造のほうも使えないものかと思っていました。とりあえず調査したいと思い天井裏に入った私たちの目の前にあったのはこのような本当に立派なキングポストトラスの小屋組みでした。

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後で振り返ると、たまたま入り込んだ場所が良かったのですが、近くにそれよりも古いクイーンポストトラスの小屋組みもありました。梁間スパンは6間です。

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松文産業の方にお聞きすると、ぼろぼろだった木造の棟が昔絹を織っていた織り部に当たることがわかりました。鉄骨造のほうは準備工程を担当していたようです。

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工場全体の歴史も調査し、木造部分は昭和7年あるいはそれ以前の建築であることが分かりました。

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大正から昭和初期に地域の花形産業であった絹織物の記憶を継承するかたちで映画館をつくろうという方針が決定されました。絹は松ヶ丘の開墾から今日に至るまで鶴岡の大事な産業です。

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木造の2棟に4つの映画館を作ります。最大で165席、小さいものは40席という小振りの映画館です。鉄骨造の部分は2期工事になりました。

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まず全体の歪みを直すために壁を解体しました。順次増築された痕跡も発見されました。

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次に土間を解体して地下に客席を掘り下げます。スクリーン設置に必要な高さを確保するためです。

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木造の軸組み(壁は構造用合板で補強されています)、小屋組みを残したまま地下のコンクリートを打設します。

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こうやって、木造トラスの小屋組みが現された、大変ユニークな映画館が出来上がりました。

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このように上部構造は木造、下部は新設のRC構造です。右側が映写室、左側にスクリーンとステージがあります。

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デザインとしては、「絹」がテーマです。壁は絹の織機や布の縦糸、横糸をイメージした木製(ツガ)ルーバーです。

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一番小さな40席の映画館です。音響上自立した壁で囲まれています。排煙窓やレターンチャンバーも見えないようにしています。

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壁スピーカーも目立たないように壁に組み込んでいます。縦糸横糸のイメージが崩れていません。

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椅子もシネコンのような樹脂製ではなく絹のようなしなやかな曲線をぶなの成形合板で表現しました。

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シネコンとは違う木に包まれた映画館ができました。

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エントランスホールでは、トップライトを設置して地元杉材によるトラスフレームを光の中に浮かび上がらせました。

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エントランスホールでは、地元高校生による映画作りのワークショップや、常設のピアノを使ったジャズコンサートなどが開かれています。

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今回は映画館としての再生ということで、もともとの姿である「連続した窓のある工場」の外観を復元することはできません。しかし、80年間工場として機能できたのは、桁行き方向1間、梁間方向6間の木造架構システムのお陰です。増築や改変に対応できたのはこのシステムがあったからです。私たちが保存すべきなのはこの木造のシステムです。

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この架構のシステムこそ、目に見えるかたちで継承していかなければならないものだったのです。映画館の中に、関係者の心配にもかかわらず、小屋組みを見せようとしたのもその思いからです。

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全景です。静かな城下町のまち並みに溶け込んでいます。

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外の煙突やタンクも工場の記憶を継承するものとして残すことにしました。

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絹へのこだわりは床のパターンにもあります。羽二重の織りのパターンです。

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木造絹織物工場を映画館に再生するというこのユニークな建物が、地域再生の起爆剤となろうとしています。この建物を契機にいろんな活動が生まれ、連携していくことを願っています。これで発表を終わります。

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設計計画高谷時彦事務所のHPへ

Tokihiko Takatani 

Architect/Professor

Takatani Tokihiko and Associates, Architecture/Urban Design, Tokyo

Graduate School of Tohoku Koeki university ,Tsuruoka city, Yamagata


新しくなった川﨑東口

2011-12-24 03:13:26 | 建築まち巡礼関東 Kanto

都市環境デザイン会議(JUDI)忘年会の帰りに川﨑駅前の都市環境デザイン事例を見ました。本当に短時間でしたが、なかなか上手いデザインだと思いました。

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大胆にガラスを使用していますが、「ただガラスを使いました」というのではない、洗練された巧みさを感じます。翌々日羽田空港に行く途中朝早くですがもう一度広場を通ってみました。

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DPG工法でガラス天井を、張弦梁の含む架構が更に上の大屋根から吊られている。やはり、相当な技術力デザイン力が見え隠れします。

バス停なども素直で好感が持てます。

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天井面のガラスに汚れが付いたらどうするのだろうという疑問は残っていますが、ここまで、潔くガラスを使い切るという意志には脱帽します。

やはり、箱根のガラスの美術館(ポーラ美術館)でも楽しませてもらった安田幸一さんのデザインでした。今本箱から出してみると新建築にも出ていたのですが完全に見逃していました。

やたらに駅前の作品が多い号で、パラパラッと読み飛ばしてしまったのでした。


重化学工業のど真ん中川﨑臨海部

2011-12-24 02:37:40 | 建築まち巡礼関東 Kanto

都市環境デザイン会議の見学会で川崎臨海工業地帯を訪れました。戦後の日本の重化学工業を支えてきた京浜工業地帯のど真ん中です。

テーマはライフイノベーションの特区、メガソーラー、そして震災公園を見ることでしたが、まずは素直に日本の重化学工業の中枢が今もきちんと機能している様子を目の当たりにしたことが収穫でした。

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確かに多くの企業が生産の拠点を海外にシフトしていますが、ここには最先端の技術力を集約するタイプの工場と研究所などが集まっているそうです。

やはり東京に近い、(国際空港である)羽田に近いということが地方の工業地帯とは違う立地条件なのでしょう。しかしながらこれからどのくらい特権的な地位を保持できるのか・・・・それは地域の自治体、企業などの戦略などにもかかっているのでしょうが、正直なところ厳しいところも多いでしょう。

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やはり、日本はヨーロッパの先進国のあとをずっと追いかけてきているわけで、重化学工業を国内においておくのは早晩きつくなると思います。第二次世界大戦中のドイツがロンドンの次に空爆の標的にしたいと考えた程の重化学工業の集積地帯、イギリス東北部の廃墟のような工場地帯をみた時には、日本もこうなるのだろうと漠然と納得させられました。もちろん違うシナリオもありえるでしょうが、相当の先見性を持った対応が必要となるでしょう。多摩川沿いでのライフイノベーション特区などはその先鞭を打つということでしょう。

ところで、今工場風景が人気だそうです。煙や炎を噴出す煙突と配管ジャングルジムの工場もよいですが、その前にある運河とあわせた景観もなかなか味があります。海(川)の色も青いような緑のような、そして少し赤いような深みがあります。

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ターミネーターⅡに出てくる溶けた鉄のプールがありそうだとか、ブレードランナーの未来都市みたいだなど、皆さんの会話がこの現実の風景を映画のシーンのように捉えていたことが印象的です。それくらい非日常的である種アーティスティックな感動を与える力をこの風景は持っているということでしょうか。