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永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(74)(75)

2018年07月31日 | 枕草子を読んできて
六一  よろづよりは、牛飼童べの   (74) 2018.7.31

 よろづよりは、牛飼童べのなりあしくて持たるこそあれ。こと者どもは、されど、しりに立ちてこそ行け、先につとまもられ行く者、きたなげなるは心憂し。車のしりにことなる事なきをのこどもの連れだちたる、いと見苦し。ほそらかなるをのこ、随身など見えぬべきが、黒き袴の裾濃なる、狩衣は何もうちなればみたる、走る車の方などに、のどやかにてうち添ひたるこそ、わる者とは見えね、なほ、おほかたなりあしくて、人使ふはわろかり。
◆◆何よりもまして、牛飼い童の服装のよくないのを使っているのこそ、感心しない。他の従者たちは、しかし、牛の後についていくから良いが、牛の前に立って、人からじっと注目されて行く牛飼い童が、きたならしい感じのはいやだ。車の後ろに、これといったすぐれてもいない召使の男たちが連れだって歩いているのは、ひどく見苦しい。ほっそりした男で、隋身などと見られそうな者が、黒い袴の裾の方が濃く(汚れている)なっているのをはき、狩衣はどこも着馴れて古くなっている、そういう男が、走る車の側などにゆったりとして付き添っているのこそは、劣っている者とは見えないけれど、やはり、一般に、悪い服装をさせて人を使うのは、よくない。◆◆


■牛飼童べ(うしかひわらはべ)=牛車の牛を扱う者。老若いずれも垂れ髪にして童形をしていた。
■こそあれ=「こそわろくあれ」の意と解く。



 きやれなど時々うちしたれど、なればみて罪なきは、さるかたなりや。使人などこそはありて、童べのきたなげなるは、あるまじく見ゆれ。家にゐたる人も、そこにゐたる人とて使ひにてもまらうどなどの行きたるにも、をかしき童のあまた見ゆるは、いとをかし。
◆◆着破れなどは時々しているけれど、着馴れて難のないのは、それはそれとして見逃せるものだ。宮中から賜った召使はきれいな身なりであって、家での召使にはきたならしい感じなのは、けしからぬように見える。家の使用人も、そこにいる人ということで、使者としてでも客人が行っている場合にも、きれいな童女がたくさん見えているのは、たいへん好ましいものだ。◆◆


■きやれ=着破れ
■使人(つかひびと)=資人(しじん=宮中から位階によって賜る召使)のことか。





六二  人の家の門の前をわたるに   (75) 2018.7.31

 人の家の門の前をわたるに、侍めきたる者などして、ひめきたるをのこつちにをるものなどして、をのこ子の十ばかりなるが、髪をかしげなる、ひきはへても、こはきてたるも、また、五つ六つばかりなるが、髪は頸のもとにかいくくみて、つらいと赤うふくらかなる、あやしき弓、しもとだちたる物などささげたる、いとうつくし。車とどめて、抱き入れまほしくこそあれ。また、さて行くに、薫物の香のいみじくかかへたる、いとをかし。
◆◆牛車で人の門の前を通る時に、侍ふうの者などを使って、ヒメキタルヲノコツチニヲルモノナドシテ、男の子で十歳くらいの者で、髪のきれいに見えるのが、髪を長くたらしても、コハキテタルのも可愛らしく、また五、六歳くらいの子で、髪は頸のあたりに丸くくるんだように重なっていて、頬はたいへん赤くふっくらとしているのが、妙な弓とか、小枝めいたものをふりかざしているのも、たいへん可愛らしい。牛車を止めて、抱いて車の中に入れてしまいたい感じがする。また、そうして通って行くと、薫物の香が、門の奥からただよい香ってくるのも、たいへん風情がある。◆◆

■侍めきたる者=貴人の家に仕え雑用する者。
■つちにをるもの=地に畏まっている者の意か。
■こはきてたるも=不審。
■しもとだちたる=木の細枝。矢にするためか。

*この段は、わかりにくい部分が多く、誤脱が考えられる。

*****8月いっぱいお休みします。9月に又お会いしましょう。*****