永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(142)

2016年09月10日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (142)2016.9.10

「今日は廿三日。まだ格子はあげぬほどに、ある人起き走りて妻戸おしあけて『雪こそ降りたりけれ』と言ふほどに、鶯の初音したれど、ことしもまいて心ちも老いすぎて、例のかひなきひとりごともおぼえざりけり。」
◆◆今日は一月二十三日。まだ格子を上げないうちに、側の侍女が起きはじめて妻戸をおしあけて、「まあ、雪が降ったのだわ」と言っていると、鶯の初音が聞こえてきたのでした。でもまるで気持ちが老い込んでしまったようで、いつもの何の役にも立たない独り言の歌も浮かばないのでした。◆◆



「司召、廿五日に、『大納言に』などののしれど、わがためは、ましてところせきにこそあらめと思へば、『御よろこび』など言ひおこする人も、かへりては弄ずる心ちして、ゆめ嬉しからず。」
◆◆司召しがあって、二十五日に、あの人が「大納言に昇進した」とか大騒ぎだけれど、私のためには、今まで以上に自由の利かない身になるであろうと思うと、「お祝い申し上げます」などと言ってよこす人も、かえって私をからかっているように感じられて、全く嬉しくなんぞない。◆◆



「大夫許りぞえもいはず下には思ふべかめる。又の日ばかり、『などか、いかにと言ふまじき。よろこびのかひなくなん』などあり。」
◆◆大夫(道綱)ばかりは、内心、なんともいえないほど喜んでいるようです。次の日あたりに、あの人から「なぜ、『どんなにお喜びでしょう』、などと言ってはいけない筈がないだろう。あなたが何にも言ってくれないから、昇進した喜びの甲斐がないよ」などと言ってきました。◆◆

■大納言に=兼家は右大将兼任の大納言に。