永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1146)

2012年08月21日 | Weblog
2012. 8/21    1146

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その54

「御返りごとを、心得顔に聞こえむもいとつつまし、ひがごとにてあらむもあやしければ、御文はもとのやうにして、『所違へのやうに見え侍ればなむ。あやしくなやましくて何ごとも』と書き添へてたてまつれつ」
――(浮舟は)ご返事を差し上げますのにも、この御歌の意味が分かったような顔で差し上げるのは、さすがに気がとがめ、もし何かの間違いでもあれば妙なことにもなりますので、御文を元のように結び直して、「宛先違いのように見えますのでお返事致しません。ひどく気分がすぐれませんので、何も申し上げられません」と書き添えて差し上げます――

「見給ひて、さすがにいたくもしたるかな、かけて見及ばぬ心ばえよ、と、ほほ笑まれ給ふも、にくしとはえ思し果てぬなめり」
――(薫は)お返事を御覧になって、さすがに巧いものだ、思いがけなくも機転が利いているよ、と、ついにっこりなさるのも、憎みきれないお気持だからなのでしょう――

「まほならねどほのめかし給へるけしきを、かしこにはいとど思ひ添ふ。ついにわが身は、けしからずあやしくなりぬべきなめり、といとど思ふところに、右近来て『殿の御文は、などて返したてまつらせ給ひつるぞ。ゆゆしく、忌み侍るなるものを』『ひがごとのあるやうに見えつれば、所違へかとて』とのたまふ」
――まともにではないけれど、お恨みのご様子を仄めかされて、浮舟のところでは一層不安が募るのでした。自分は、結局これで人前ににも出られなくなるに違いない、とますます胸を痛めているところに右近が来て、「殿の御文を、どうしてお返しになったのです。御文をそのままお返しするのは、不吉な忌むべき事だそうですのに」と言いますので、「間違いがあるように見えましたので、宛先が間違ったのでは、と思って」とおっしゃる――

「あやしと見ければ、道にてあけて見けるなりけり。よからずの右近がさまやな。見つとは言はで、『あないとほし。苦しき御ことどもにこそ侍れ。殿はもののけしき御覧じたるべし』といふに、おもてさとあかみて、ものものたまはず」
――(右近は)お返事をやるとき、おかしいと思ったので、実は途中で開けて見ていたのでした。よくない右近の仕業ですこと。けれども、見たことは言わずに「まあ、お気の毒ですこと。つらい事ばかりでございます(匂宮にとっても、薫にとっても)。殿は大方のことをお知りになったのでございましょう」と言いますので、浮舟は、さっとお顔を赤らめて何もおっしゃらない――

では8/23に。