永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1142)

2012年08月13日 | Weblog
2012. 8/13    1142

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その50

「引きあけて見給ふ。くれなゐの薄様に、こまやかに書きたるべし、と見ゆ。文に心入れて、とみにも向き給はぬに、大臣も立ちて外ざまにおはすれば、この君は、障子より出で給ふとて、『大臣出で給ふ』と、うちしはぶきて、おどろかいたてまつり給ふ。引き隠し給へるにぞ、大臣さしのぞき給へる」
――匂宮は開けて御覧になります。紅の薄い紙に細々と書いてあるらしい、と、その手紙に気を取られて、薫の方に急にはお向きになろうとはなさらない、丁度そのとき、左大臣(夕霧)も御前を立って外に出て来られましたので、薫は障子口からお出になろうとして、
『大臣がお通りになります』と、咳払いをして匂宮にご注意申されます。匂宮が御文をお隠しになったところへ大臣(夕霧)が顔をお出しになりました――

「おどろきて御紐さし給ふ。殿つひ居給ひて、『まかで侍りぬべし。御邪気の久しくおこらせ給はざりつるを、おそろしきわざなりや。山の座主ただ今請じにつかはさむ』と、いそがしげにて立ち給ひぬ」
――匂宮は驚かれて、直衣の襟の紐をお結びになります。大臣もひざまづかれて、『私も失礼いたしましょう。中宮は例の物の怪が久しく起こりませんでしたのに、恐ろしいことです。すぐ山の座主をお招きするように、人を遣わしましょう』と忙しそうに、お立ちになりました――

「夜更けて皆出で給ひぬ。大臣は、宮をさきに立てたてまつり給ひて、あまたの御子どもの上達部君達ひき続けて、あなたにわたり給へひぬ。この殿はおくれて出で給ふ」
――夜更けてみな中宮の御殿を退出されました。夕霧大臣は匂宮を御先にお立て申されて、その夕霧はご子息の上達部を大勢お連れになって、ご自身の御殿の方へ(同じ六条院内)お渡りになりました。薫は少し後からご退出になります――

「随身けしきばみつる、あやし、と思しければ、御前など下りて火ともす程に、随身召し寄す。『申しつるはなにごとぞ』と問ひ給ふ」
――(薫は心の中で)出掛けに随身が何やら仔細ありげな様子であったのを、不審におもわれたので、御先駆の者が下りて松明を灯している間に、お呼び寄せになって、「先刻申したのは何ごとか」とお問いになります――

「『今朝、かの宇治に、出雲の権の守時方の朝臣のもとに侍る男の、紫の薄様にて、桜につけたる文を、西の妻戸によりて、女房にとらせ侍りつる、見給へつけて、しかじか問ひ侍りつれば、言たがへつつ、そらごとのやうに申し侍りつるを、いかに申すぞ、とて、童べして見せ侍りつれば、兵部卿の宮に参り侍りて、式部の少輔道定の朝臣になむ、この返りごとはとらせ侍りける』と申す」
――(随身は)「今朝、あの宇治に、出雲の権の守時方の朝臣の許に仕える男が、紫の薄様で、桜の枝につけた文を、西の妻戸に寄って女房に渡しているのを見つけまして、仔細を訊ねましたところ、言葉を濁して、どうも嘘らしいことを申します。どうしてそう申すのかと、童をやって跡をつけさせましたところ、その男は匂宮の御邸へ参りまして、式部の少輔道定の朝臣(大内記のこと)にその返事をお渡ししました」と申し上げます――

では8/15に。