永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(831)

2010年10月05日 | Weblog
2010.10/5  831

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(8)

つづけて、

「きさいの宮はた、馴れ馴れしく、さやうに、そこはかとなき思ひのままなるくだくだしさを、きこえ触るべきにもあらず。三條の宮は、親と思ひきこゆべきにもあらぬ御若々しさなれど、かぎりあれば、たやすく馴れきこえさせずかし。その外の女は、すべていと疎くつつましく恐ろしくおぼえて、心からよるべなく心細きなり」
――后の宮(明石中宮)には、そう容易く馴れなれしく、訳もない気ままな患いごとをお耳に入れるべきでもありませんし、三條の宮(女三宮=母宮)は、母と申し上げるには似合わぬ程の若々しさであっても、親子としての分がありますから、何でもお話できるという訳にも参りません。そのほかの女は、何となく疎ましく気ずまりで、恐ろしく、自分から打ち解けて心許せる人とてもないあり様です――

「なほざりのすさびにても、懸想だちたることは、いとまばゆく、ありつかず、はしたなきこちごちしさにて、まいて心にしめたる方の事は、うち出づることも難くて、うらめしくもいぶせくも、思ひきこゆる気色をだに見え奉らぬこそ、われながら限りなくかたくなしきわざなれ。宮の御事をも、さりともあしざまにはきこえじ、と、まかせてやは見給はぬ」
――女とのちょっとした戯れ事でも、色恋沙汰はひどく恥ずかしく身に着かず、極まり悪い無骨さですから、まして真剣に思いつめている方の事は、口にするのも難しくて、これほどまでに怨めしく遣る瀬無くお慕い申しながら、その素振りさえお見せできないでいますのこそ、われながら何と言う偏屈者だろうと口惜しくてなりません。匂宮の御事も、悪いようには取り図るまいと信じて私にお任せになってご覧になりませんか――

 などと、おっしゃいます。弁の君は心の中で、

「かばかり心細きに、あらまほしげなる御ありさまを、いと切にさもあらせ奉らばや」
――(薫中納言が)このようにお心細く暮していらっしゃるよりは、この理想的な薫を大君の婿におさせ申したい――

 と思うのですが、薫も大君も御身分としてもご立派なので、何とも申し上げようがないのでした。
 薫は今夜は宇治にお泊まりになって、ゆっくりと物語などなさりたいとお思いのうちに、ぐずぐずとして日を暮らしてしまわれました。

「あざやかならず、物うらみがちなる御けしき、やうやうわりなくなりゆけば、わづらはしくて、うちとけてきこえ給はむ事も、いよいよ苦しけれど、おほかたにてはあり難くあはれなる人の御心なれば、こよなくももてなし難くて、対面し給ふ」
――(大君は)、薫がはっきりと口には出されないまま、自分を恨んでいらっしゃるらしい素振りが、次第に昂じてこられるのを迷惑に思われますが、一方では大体において情愛深い人ですので、あまり素っ気ない態度もお見せできず、それなりのお相手をなさっておられます――

◆はしたなきこちごちしさにて=端なき(体裁悪い)骨骨しさ(ごつごつしている、無骨である) 

◆うらめしくもいぶせくも=怨めしくも(残念な)いぶせく(鬱陶しい、気が晴れない)

◆限りなくかたくなしきわざなれ=限りなく頑くなしき(頑固な、強情な)わざ(業・態)であることよ。

では10/7に。