永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(830)

2010年10月03日 | Weblog
2010.10/3  830

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(7)

 弁の君は、さらに、

「今はとざまかうざまに、こまかなる筋きこえ通ひ給ふめるに、かの御方をさやうにおもむけてきこえ給はば、となむおぼすめかめる。宮の御文など侍るめるは、さらにまめまめし御事ならじ、と侍るめる」
――今ではあれこれと細々しい点をご相談されますにつけ、大君はあなた様が中の君を奥様としてお望みのようでしたら、(そのようにと)お考えのようでございますよ。匂宮からお手紙があるようですが、それは全く真面目な筋のことではない、とお考えのようですから――

 と申し上げます。薫は、

「あはれなる御一言を聞きおき、露の世にかかづらはむかぎりは、きこえ通はむの心あれば、いづかたにも見え奉らむ、同じ事なるべきを、さまではた、おぼし寄るなる、いとうれしきことなれど、心のひく方なむ、かばかり思ひ棄つる世に、なほ留まりぬべきものなりければ、改めて、さはえ思ひなほすまじくなむ。世の常のなよびかなる筋にもあらずや」
――(亡き八の宮から)身に沁みるご遺言をお聞きしましたので、この世に生きている限りは、ご交際申そうとの所存ですから、御姉妹のどちらを頂いても同じわけのものですが、またそこまでお考えくださるのはたいそう嬉しいことですが、私の好きな方はといえば、これほど思い棄てた世にもやはり残っている気持ちのことですから、今更、中の君の方に思い替えされそうにありません。大君に寄せる私の気持ちは世間普通の浮気めいた向きのものではないのですよ――

「ただかやうに物へだてて、言残いたるさまならず、さし向ひて、とにかくに、さだめなき世の物語を、へだてなくきこえて、つつみ給ふ御心のくま残らずもてなし給はむなむ、兄弟などのさやうにむつまじき程なるもなくて、いとさうざうしくなむ、世の中の思ふ事の、あはれにも、をかしくも、憂はしくも、時につけたるありさまを、心に籠めてのみ過ぐる身なれば、さすがにたづきなく覚ゆるに、うとかるまじく頼みきこゆる」
――ただこのように物を隔ててのご対面で、申し上げたいことも言えない風ではなく、さし向いであれこれと、この定めなき世のお話を十分に申し上げ、あちらも、お心に包み隠されることなくお接しくださることこそ、(と、お頼り申しているのです)。私には兄弟というような睦まじい人もなくて淋しくもの足りなく、世の中にあって思うこと、もののあわれ、風流なことも、憂いも、その時々のありさまを自分だけで過ごしている身としては、実に頼り所なく思われましてね――

 と、まだ、薫はお話を続けられます。

では10/5に。