永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(682)

2010年03月21日 | Weblog
2010.3/21   682回

四十一帖 【幻(まぼろし)の巻】 その(7)

 こうして、源氏はまるで性格が変わられたように、人が噂をしている時期をじっと我慢してお過ごしになって、ひと思いには出家なさらない。

「后の宮は、内裏に参らせ給ひて、三の宮をぞ、さうざうしき御なぐさめには、おはしまさせ給ひける。『ははの宣ひしかば』とて、対の御前の紅梅とりわきて後見ありき給ふを、いとあはれと見奉り給ふ」
――后の宮(明石中宮)は、内裏にお帰りになりますについて、三の宮(匂宮)を、源氏の寂しさのお慰めとして、ここ六条院にお残しになり。匂宮は「お祖母さま(紫の上)が、そうおっしゃいましたから」と、対のお庭の紅梅を、特別大切にお世話しておいでになるのを、源氏はたいそういじらしくご覧になります。――

「二月になれば、花の木どもの盛りなるも、まだしきも、梢をかしう霞み渡れるに、かの御形見の紅梅に、うぐいすのはなやかに鳴き出でたえば、立ち出でてごらんず」
――二月になりますと、梅の木の中には花盛りなのも、まだ蕾なのも、みな梢が霞に延び渡って、あの紫の上の御形見の紅梅に、鶯がはなやかに鳴き初めた声が聞こえたきましたので、源氏もお庭にお立ちになってご覧になります――

(歌)「植ゑて見し花のあるじもなき宿に知らずがほにて来ゐる鶯」
――この紅梅を植えて眺めた人は既に亡い家の庭に、それを知らぬ様子で、鶯が来て鳴いていることよ――

 と口ずさみながらお歩きになる。

「春深くなりゆくままに、御前の有様いにしへに変わらぬを、めで給ふ方にはあらねど、静心なく、何事につけても胸いたう思さるれば、(……)」
――こうして春が深まっていくにつれて、御庭前の有様は昔と変わらぬのに、特別源氏が花々を愛でられるというのではありませんが、気が落ち着かず、何事につけても紫の上の思い出と重なって、お胸が痛み、(いっそ、鳥の鳴く音も聞こえない山奥にでも行ってしまいたい気持ちになられるのでした)――

◆紫の上が匂宮に話された御庭前の梅の木は、二条院であったが、ここでは六条院になって

いる。各参考書も混同か?と表記している。

ではまた。