落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

チャップリンまつり

2008年01月19日 | movie
『犬の生活』『キッド』『担え銃』『独裁者』『黄金狂時代』
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=B00012IIYW&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

これまでスクリーンで観たことがなかったチャップリン作品。
1940年につくられた『独裁者』はトーキーだが、それ以外は4本とも25年以前に製作されたサイレント映画である。今回上映された『黄金狂時代』はチャップリン自身が音楽とナレーションを加えた42年バージョン。
改めてこうして観ると、チャップリンは映像メディアの黎明期に映像における喜劇というジャンルを確立したパイオニアというだけでなく、彼の用いたテクニックが今もそのまま世界中で踏襲されていることに驚かされる。ぐりが観ていてすぐに連想したのは、『ウォレスとグルミット』シリーズで知られるアードマンスタジオやチェコの『パットとマット』シリーズ、日本では宮崎駿のアニメのアクションシーン。似ているとか雰囲気が近いとかそういうことではなく、まさにそのままなのだ。ハプニングが押出し式に連なっていくことでどんどんスリリングにコミカルになっていき、最後にはやはり偶然ながらちゃんと一件落着する。アクションコメディのひとつのフォーマットでもあるのだが、それが既にチャップリンによって確立されていたとは今まで気づかなかった。

今日観た5本のうちではトーキーの『独裁者』が現在の映画にいちばん近いのだが、正直にいってぐりはこれはさほどおもしろくなかった。チャップリン作品の中では記録的には最も商業的に成功した作品なのだそうだが、それはやっぱり公開当時の世相のせいではないだろうか。
いうまでもなくこの映画はチャップリンがヒトラーそっくりな独裁者を演じたポリティカルコメディで、ヨーロッパで迫害されるユダヤ人の苦境とナチス・ドイツの横暴を思いっきり皮肉った物語なのだが、今観ると内容のわりに話が長過ぎるし、何より、ラストの演説がどうもしらじらしく感じられてしょうがない。この映画がつくられた当時は大変感動的だったであろう見事な演説ではあるのだが、冷戦が終わりイデオロギーの時代が過ぎた今日となっては、どうしてもどこか空虚に聞こえる。

この5本のうちでいうならぐりが最も共感したのは『黄金狂時代』だ。
ストーリーそのものはたわいのない冒険譚でしかないけど、随所にチャップリン個人のとらえた孤独感が非常に生々しく表現されていて、観ていて何度も胸が苦しいような気持ちになった。
とくに哀しいのは大晦日、チャップリンが酒場で知りあった美女ジョージア(ジョージア・ヘイル)たちをもてなそうと苦労して晩餐を整え、粗末な食卓でひとり客を待つ場面。当のジョージアは酒場のどんちゃん騒ぎでチャップリンのことはすっかり忘れているのだが、待ちくたびれたチャップリンは居眠りをして、夢の中で愛する女性とその友だちを歓待している。いじらしい。泣かせる。
この映画はその名の通りゴールド・ラッシュを背景にしているのだが、一獲千金を夢みる男たちに交じったチャップリンはものの見事に浮いていて、群集の中でいつでも淋しそうだ。その侘びしげな横顔に、時代の波や流行に乗ろうとしてうまく乗りきれない不器用さの悲哀が如実に滲んでいる。
もしかするとチャップリンがこれほどまでに大衆に支持され、今なお古典の巨匠ではなく喜劇王として愛されているのは、こんな彼の人間くささ、もっとありていにいえば、とことんまでみっともないイケてなさに、いつの時代の誰もが共感するからじゃないかと、ふと思った。
貧乏でチビでダサくて風采のあがらない奇妙な男なのに、常に優しさと気品だけは失わない。武士は食わねど高楊子、じゃないけど、人ができることなら最後まで失いたくないと考えているものだけを守って、スクリーンの中で一生懸命生きているチャップリン。そんな彼の奮闘が、観るものの誰もを無条件に勇気づけるからではないだろうか。

今みるとこのころの倫理観というか道徳観が今とかなり違っていることに少々驚く点も多かった。
たとえば『犬の生活』では主人公たちは他人のカネを盗んでハッピーエンドになっているし、『黄金狂時代』はコメディなのに妙に簡単に人がバタバタ死ぬ。なにかというとスグに銃がでてくるしみんながそれを気楽にぱんぱん撃ちまくる。現在のハリウッド映画には必ずといっていいほど織りこまれる宗教観も、この5作品にはほとんどみられなかった。
女性や子どもや動物の扱いも今とは全然違っていて、ある意味では今よりも昔の方が自由だったんだなと思う部分もあった。