二段跳びで震える足をさすりながら、さて次はどこへ行こうか、と思案します。
何しろ地図が頭に入っていないので、位置的に自分が今どこにいるのか全く分からない。
少々疲れたし、どこかで少し休みながら考えよう。
そういえば、バスを降りる直前に川を渡りました。ずいぶん賑わっていたけれど、ひょっとして……
道を戻って北大路橋に刻まれた字を見ると、ああやっぱり。ここが、加茂川。
折からの花見シーズンでずいぶん賑わっていますが、時間的にピークを過ぎたのか、うっとうしいというほどでもない。
河原に降りて、空いているベンチに腰掛けました。
考えてみれば、ここも『京都うた紀行』に出てくる歌枕の一つなのです。
来年もかならず会はん花棟岸辺にけぶるこのうす紫に
(花棟=はなあふち)
河野裕子
エッセイに添えられたこの歌のとおりには、残念ながらいかなかったのですが。
「加茂川」と「鴨川」が、厳密に言うと違うのも、この本から教えられました。
古今東西の本、歌、ミュージック等で「京都」と言えば必ず出てくる、加茂川。
歴史小説ファンである僕にとっても、この響きは特別です。
しかし、当たり前の話ですが、現在の加茂川は日本全国どこにでもある川の一つに過ぎません。
これくらいの流れと賑わいならば、うちの近所でもおなじみの光景です。
でも、だからこそ寛げました。
市民の憩いの場。花の季節になればブルーシートの青が目立ち、そこここでミニイベントが開かれ、ジョギングや散歩の犬が行き交い、恋人同士が肩を寄せる。
雨もすっかり上がり、陽のさしてきた加茂河原で、僕はゆっくりと本の頁を捲っていました。
ふと右手を見ると、山肌に大きく「大」の字。有名な大文字焼の火床でしょうか。
北大路 春大文字 加茂川の小滝のかみに鴨一羽浮く
僕にしては珍しく、実景歌です。
いや、駄洒落じゃなくて、ほんとに加茂川に鴨がいたんです。
おそらく流れてくる餌を狙っているんでしょう、小さな落ち込みの寸前で、しきりに首を水に突っ込んでいました。
もういいかな、と思いました。
京都に来てから名所らしいところは全然回っていないし、まだまだ行きたいところもたくさんあるけれど、ここで終わりにするのも あり なんじゃないかな、と。
そう思わせるような、のどかな加茂河原の遅い午後です。
お楽しみは次の機会に取っておいて、今回は予定の新幹線に間に合う時間まで、ここに腰を落ち着けることにしました。
ちょっと風が冷たくなってきたので、インナーのフリースを着込みつつ。
さて、そうと決まれば『京都うた紀行』の続きでも読みましょうか。
次に来る時のお目当てを、探すためにも。
(おしまい)
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