はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

「一日一首」終了です

2012年11月14日 19時52分06秒 | 日詠短歌

そんなわけで季節が一回りしたところで、『一日一首』終了です。

去年の11月から始めたこの企画、「3ヵ月続けば良い方だ」と考えていましたが、なんとか366首を読み終えることができました。
その名のとおり、一日に一首を作り、メールにて友達に(無理やり)送り続けたのですが、
「読んでもらっている」
という緊張感が無ければ、とてもとても持続出来なかったでしょう。1年間付き合ってくれた友人に、改めて感謝します。
本当にありがとう。

この企画の中で唯一気をつけたのは、
「その日の歌はその日のうちに」。
つまり、作り置きはしない、ということでしょうか。
こういった企画は、自分でルールを設定するゲームのようなものですから、自分からルールを破っちゃ面白くない。
おかげで、持続力が少し上がったような気がします。歌の出来不出来はともかくとして。

みなさんも、よろしければやってみて下さい。
1年はさすがに長いけれど、短期間でも色々と趣向を凝らして楽しめるんじゃないでしょうか。

それでは、お読みいただいた方々に深く頭を下げつつ。


一日一首

2012年11月14日 19時50分22秒 | 日詠短歌

2012/10/29(月)
   急いで走ってたって すぐに空は変わらない
   だからこのままいつもと同じ速さでずっと歩いてゆくだけ
   そう いつも通りの歩幅でゆくだけ
    (「あの空、Sunset Glow」 桂木千鍵)

 瘡蓋として凝りゆく夕焼けの明日天気でなければいやだ
 (瘡蓋=かさぶた)(凝り=こごり)


10/30(火)
   空気が澄み渡る。「白秋」の意味を実感。

 ま、いいかいつかは月に着くだろう傾いだ螺旋階段のぼる


10/31(水)
   引き継ぎ終了。明日より本庁に戻る。

 デザートはペパーの効いたア・ラ・モードいくつか終わる何かはじまる


11/1(木)
  『コレデオシマイ』
   (勝海舟)

 星々が楕円軌道をめぐるならこの花もまた蒼みを増そう



一日一首

2012年11月11日 15時44分10秒 | 日詠短歌

2012/10/22(月)
   あたらしくうまれたうたをひとつぶと数えて枝にのせておきます
    (「さなぎの数え方」やすたけまり 短歌研究二四年一一月号)

 ふたひらの掌と掌のなかに息吹あれあなたの性は星を孕める


10/23(火)
   ヘブンリーブルーは雑草、という意見もあるらしいが。

 廃屋を覆う蔓には十月の異国の藍のしたたりやまず


10/24(水)
   冬の大三角形を、全部言える人。
   カラマーゾフの兄弟の名を、全部言える人。

 焼尽の星という名にただようはシトラス・フローラルみどりの香


10/25(木)
   一年は長いようで、やっぱり長い。

 帰ろうを四つつぶやき戸を開ける椅子の一脚ひとつの軋み


10/26(金)
   なぜみんな平気なんだろ寒くなる十一月が死ぬほど嫌い
    (「恋する歌音」佐藤真由美)

 心から寒さを恋うるときがあるシリウスの火くらりさびしく


10/27(土)
   書くことが何もない。そんな一日が嬉しい。

 今はもう路地に沿いゆく十月の最後の風であれと月光


10/28(日)
   前の空き地に鳥が群れる。雀、鳩、烏、鶺鴒、椋鳥。
   今日は、名前の知らない鳥も。

 ディズニーのチーズのように歳月が人はなかなか空になれない
 (空=から)


一日一首

2012年11月07日 20時21分16秒 | 日詠短歌

2012/10/15(月)
   「あ、今、俺は宇宙人が出てきても、
    『それどころじゃないんだ、お客に会いに行かなきゃ』
   と言ってる状況だな」って。
     (『世界中が夕焼け』(新潮社) 穂村弘のコメントから)

 よむ時は誰もひとりでその人のために作った三百の空


10/16(火)
   琥珀エビスが店頭に並ぶと、秋だと思う。

 空間を時間単位で借りきってさて騒がしの闇が来るまで


10/17(水)
   歯科医にかかる時ほど無防備な状態も、日常にあまり無い。

 口腔が入口でなく出口なら出ていくなにを書きとめる莫迦


10/18(木)
   もっとも日本らしい季節は秋だ、と言ったのは椎名誠だったか。

 前腕を半ばさらせばしろたえの秋の冷たさ雨のやましさ


10/19(金)
   なんでもないこの瞬間が
   一生記憶に残るような気がしたんだ
    (「星が瞬くこんな夜に」 supercell)

 連環鎖継いだ一日一輪がほらこんなにも遠くへ届く


10/20(土)
   早朝。吐く息がかすかに白い。

 籾殻の煙たつ田のこの灰は誰から成ったものなのだろう


10/21(日)
   快晴。伊豆へ墓参。

 昼顔は秋の花かよ相州の海の水皺の金にたゆたう


一日一首

2012年11月04日 21時09分58秒 | 日詠短歌

2012/10/8(月)
   つっぷしてまどろむまみの手の甲に蛍光ペンの「早番」ひかる
    (『手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』穂村弘)

 あおむけに事務椅子鳴らす土曜日は分度器の弧を虹にあてがう


10/9(火)
   ほとんど眠れなかった。原因不明。

 叶うなら幹となりたい壮大な無駄を積みあげてゆく明るさ


10/10(水)
   朝晩は上着が欲しくなる。

 かこまれる笑顔がまわる暗くなる神無月からいついつ出やる


10/11(木)
   「簡単にいうと、別れてやる!というのが俳句で、
    でも別れられないって、下の句でいうのが短歌だ」
   と言います。
   俳句は決断の形式。一方短歌は未練の形式。
   (高橋睦郎の発言 「『一握の砂』から100年 啄木の現在」から)

 舐めるにはもう遠いんだ右肘の3年生のときのすり傷


10/12(金)
   腰痛再発。椅子から立つときが辛い。

 あしびきの往路復路に坂は無く通しゃせぬとの囁きもなく


10/13(土)
   食えなくなったなあ、と思う。若いときと比べるのが変なのだが。

 三口分捨てるくやしさジェノベーゼソースの他意を感じる午後は


10/14(日)
   朝の散歩。久々に、指が冷たい。

 バンザイをするだけすれば曇天の世界は白でまず出来ていた


一日一首

2012年10月31日 19時16分50秒 | 日詠短歌

2012/10/1(月)
   暑の戻り、という言葉は無かったように思うが。

 黒猫の幟がふいに北を向き夕かげはらむ台風一過
 (幟=のぼり)


10/2(火)
   夕方の市内チャイムが、4時半に鳴るようになった。

 夕焼けの童謡今はこだまする風が代わりに塔の先から


10/3(水)
   そよりともせいで秋立つことかいの
     上島鬼貫(うえしま おにつら)

 硝子戸の露に額をつけたまま洗い髪には魔力が籠もる


10/4(木)
   一日中、眠気と闘っていた。

 虫の音の染み入る夜は目を閉じて歪みのありか掌でなぞりゆく


10/5(金)
   市民の方の家へ謝罪に。笑っちまうほどの、イージーミス。

 あかねさす午睡のオフィス寝乱れの髪を鏡に映しきれない


10/6(土)
   まだ扇風機を使っている。なにか、騙されているような気がする。

 なぐったらこわれるものをためておくわたしのわたしのみがわりとして


10/7(日)
   休日に体調が悪くなるのは、幸か不幸か。

 寒くさむく体がなってゆく夜の有珠、あなたの痛みが欲しい


一日一首

2012年10月24日 18時47分33秒 | 日詠短歌

2012/9/24(月)
   慌てて、長袖を干している。

 蒼の天それは一番サントリー・モルツが元気だった真夏の


9/25(火)
   彼岸の開け。これより秋に入る。

 右肩に食い込む五指のひきつりを払えば夏に捨てられていた


9/26(水)
   実は、詞書きを考える方が難しい日もある。

 降り積もるだけならいっそ白萩の花を数えるような疲労を


9/27(木)
   溜まっている夏休みを使う。横川へ釜飯を食べに。

 見上げれば空へと落ちてゆく視界ほら屋上のほうが近いよ


9/28(金)
   そして最后の部屋はお前のためにあけてある
   寂しいばかりでない人生生きた証に
    (「博物館」 さだまさし)

 今もまだ震えたままのクロッキーブックのなかの私の指を


9/29(土)
   嵐の前の静けさ。

 うざったいくらいに飛んでちょうどよく赤とんぼ地を掻き乱すなか


9/30(日)
   今宵は仲秋名月
   初恋を偲ぶ夜
   われら万障くりあはせ
   よしの屋で独り酒をのむ
    (「逸題」井伏鱒二)

 分けるべき野も今は無く烈風が塔に裂かれてゆく音を聞く


一日一首

2012年10月19日 05時59分41秒 | 日詠短歌

2012/9/17(月)
   風呂の設定温度を、二度上げた。

 明日からたぶん秋だと言うためのコルゲンコーワ、気温予想図


9/18(火)
   にわか雨、日々恒例。

 風ごとに驟雨を置いて過ぎてゆく群雲 チャイがおいしい夜ね


9/19(水)
   夏と秋とが鍔迫り合いをしている。

 翼とは飛ぶためだけのものでなく両端が抱く金の物質


9/20(木)
   ゆりかごのうたを カナリアがうたうよ
   ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
    (北原白秋)

 古うろの深いところを降ろされてサルベージまた汚泥とともに


9/21(金)
   結局、ほめられたいだけなんだよな。

 光しか掬えないからブラインドタッチができるようになりたい


9/22(土)
   一匹だけ蝉が鳴いた。嫌だ、と言うように。

 逃げ出していいんだよってみんなみんなこちらを向いて稲の頭は
 (頭=こうべ)


9/23(日)
   雨。ひさびさに長袖を着る。

 彫像であれかし今日は「働く」が人の重みの力であれば



一日一首

2012年10月10日 18時43分41秒 | 日詠短歌

2012/9/10(月)
   今の通勤路には、花屋が四軒ある。

 十四五のつぼみの青を貯えて鉢にしずまる竜胆 風が


9/11(火)
   ビールも、味わって飲む季節になりつつあるか。

 首振りのボタンを上げて風を受け続けた夜も葉のさえずりも


9/12(水)
   今年は、夏休みを取りきれなかった。

 虚しいと指さすだろう部屋のなか返事を待ってよむ呟きを


9/13(木)
   同じセブンイレブンでも店舗が違えば、置いてあるビールの銘柄も微妙に違う不思議。

 おさな子を横抱きにゆくひと過ぎてまだ青々と苦瓜の蔦


9/14(金)
   愉しくてならぬ歌作を苦しなど書きたる日より告白憎む
    (杉山隆)

 心臓に乾いた声の引き掛かる朝はリーゼをひとつ増やせば
 (リーゼは、軽度の抗不安薬)


9/15(土)
   まだ暑いが、空の色は少しずつ薄れている。

 ひと巡りしたってことか仰いでも葉の裏だけを見せる楠木


9/16(日)
   何でかう蝉はしづかに遠く鳴くものかされど夕蝉ふいに近づく
    (『蝉声』 河野裕子)

 うた声がきみにとどいてほしいから夕蝉色のルージュをひいて


一日一首

2012年10月03日 18時54分50秒 | 日詠短歌

2012/9/3(月)
   久々に、パジャマの上下を着た。

 雷鳴が通りすぎれば窓枠の影も九月の輪郭となる


9/4(火)
   発見。虹は、水たまりにも映る。

 これならば傘を開かず行けるだろう完全体の虹を見上げる


9/5(水)
   鍵の数だけ不幸を抱いているって
   誰かが言ってたね
       (『普通の人々』 さだまさし)

 蝉が鳴く朝一番の涼風の中かなかなの音階のまま


9/6(木)
   散髪は月初めに。

 剃刀はもみあげを経て喉元へ仰向けのまま聞く遠雷が


9/7(金)
   隣の家の柱時計。0分と30分に、律儀に鳴る。

 宙吊りの男の札があけられる瞬間ひびく青銅の鐘


9/8(土)
   ビアガーデン、今年の行き納め。

 渓谷に墜ちて埋もれる蝉のためなおひと切れの桃のタルトを


9/9(日)
   蝉の合唱の中に身を置く。
   不意に、聴覚が真っ白になる。
   これもゲシュタルト崩壊だろうか。

 陽を浴びて鳥肌の立つ前腕も捨て置けどうせ舟が揺れれば