はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

一日一首

2012年10月31日 19時16分50秒 | 日詠短歌

2012/10/1(月)
   暑の戻り、という言葉は無かったように思うが。

 黒猫の幟がふいに北を向き夕かげはらむ台風一過
 (幟=のぼり)


10/2(火)
   夕方の市内チャイムが、4時半に鳴るようになった。

 夕焼けの童謡今はこだまする風が代わりに塔の先から


10/3(水)
   そよりともせいで秋立つことかいの
     上島鬼貫(うえしま おにつら)

 硝子戸の露に額をつけたまま洗い髪には魔力が籠もる


10/4(木)
   一日中、眠気と闘っていた。

 虫の音の染み入る夜は目を閉じて歪みのありか掌でなぞりゆく


10/5(金)
   市民の方の家へ謝罪に。笑っちまうほどの、イージーミス。

 あかねさす午睡のオフィス寝乱れの髪を鏡に映しきれない


10/6(土)
   まだ扇風機を使っている。なにか、騙されているような気がする。

 なぐったらこわれるものをためておくわたしのわたしのみがわりとして


10/7(日)
   休日に体調が悪くなるのは、幸か不幸か。

 寒くさむく体がなってゆく夜の有珠、あなたの痛みが欲しい


一日一首

2012年10月24日 18時47分33秒 | 日詠短歌

2012/9/24(月)
   慌てて、長袖を干している。

 蒼の天それは一番サントリー・モルツが元気だった真夏の


9/25(火)
   彼岸の開け。これより秋に入る。

 右肩に食い込む五指のひきつりを払えば夏に捨てられていた


9/26(水)
   実は、詞書きを考える方が難しい日もある。

 降り積もるだけならいっそ白萩の花を数えるような疲労を


9/27(木)
   溜まっている夏休みを使う。横川へ釜飯を食べに。

 見上げれば空へと落ちてゆく視界ほら屋上のほうが近いよ


9/28(金)
   そして最后の部屋はお前のためにあけてある
   寂しいばかりでない人生生きた証に
    (「博物館」 さだまさし)

 今もまだ震えたままのクロッキーブックのなかの私の指を


9/29(土)
   嵐の前の静けさ。

 うざったいくらいに飛んでちょうどよく赤とんぼ地を掻き乱すなか


9/30(日)
   今宵は仲秋名月
   初恋を偲ぶ夜
   われら万障くりあはせ
   よしの屋で独り酒をのむ
    (「逸題」井伏鱒二)

 分けるべき野も今は無く烈風が塔に裂かれてゆく音を聞く


一日一首

2012年10月19日 05時59分41秒 | 日詠短歌

2012/9/17(月)
   風呂の設定温度を、二度上げた。

 明日からたぶん秋だと言うためのコルゲンコーワ、気温予想図


9/18(火)
   にわか雨、日々恒例。

 風ごとに驟雨を置いて過ぎてゆく群雲 チャイがおいしい夜ね


9/19(水)
   夏と秋とが鍔迫り合いをしている。

 翼とは飛ぶためだけのものでなく両端が抱く金の物質


9/20(木)
   ゆりかごのうたを カナリアがうたうよ
   ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
    (北原白秋)

 古うろの深いところを降ろされてサルベージまた汚泥とともに


9/21(金)
   結局、ほめられたいだけなんだよな。

 光しか掬えないからブラインドタッチができるようになりたい


9/22(土)
   一匹だけ蝉が鳴いた。嫌だ、と言うように。

 逃げ出していいんだよってみんなみんなこちらを向いて稲の頭は
 (頭=こうべ)


9/23(日)
   雨。ひさびさに長袖を着る。

 彫像であれかし今日は「働く」が人の重みの力であれば



一日一首

2012年10月10日 18時43分41秒 | 日詠短歌

2012/9/10(月)
   今の通勤路には、花屋が四軒ある。

 十四五のつぼみの青を貯えて鉢にしずまる竜胆 風が


9/11(火)
   ビールも、味わって飲む季節になりつつあるか。

 首振りのボタンを上げて風を受け続けた夜も葉のさえずりも


9/12(水)
   今年は、夏休みを取りきれなかった。

 虚しいと指さすだろう部屋のなか返事を待ってよむ呟きを


9/13(木)
   同じセブンイレブンでも店舗が違えば、置いてあるビールの銘柄も微妙に違う不思議。

 おさな子を横抱きにゆくひと過ぎてまだ青々と苦瓜の蔦


9/14(金)
   愉しくてならぬ歌作を苦しなど書きたる日より告白憎む
    (杉山隆)

 心臓に乾いた声の引き掛かる朝はリーゼをひとつ増やせば
 (リーゼは、軽度の抗不安薬)


9/15(土)
   まだ暑いが、空の色は少しずつ薄れている。

 ひと巡りしたってことか仰いでも葉の裏だけを見せる楠木


9/16(日)
   何でかう蝉はしづかに遠く鳴くものかされど夕蝉ふいに近づく
    (『蝉声』 河野裕子)

 うた声がきみにとどいてほしいから夕蝉色のルージュをひいて


一日一首

2012年10月03日 18時54分50秒 | 日詠短歌

2012/9/3(月)
   久々に、パジャマの上下を着た。

 雷鳴が通りすぎれば窓枠の影も九月の輪郭となる


9/4(火)
   発見。虹は、水たまりにも映る。

 これならば傘を開かず行けるだろう完全体の虹を見上げる


9/5(水)
   鍵の数だけ不幸を抱いているって
   誰かが言ってたね
       (『普通の人々』 さだまさし)

 蝉が鳴く朝一番の涼風の中かなかなの音階のまま


9/6(木)
   散髪は月初めに。

 剃刀はもみあげを経て喉元へ仰向けのまま聞く遠雷が


9/7(金)
   隣の家の柱時計。0分と30分に、律儀に鳴る。

 宙吊りの男の札があけられる瞬間ひびく青銅の鐘


9/8(土)
   ビアガーデン、今年の行き納め。

 渓谷に墜ちて埋もれる蝉のためなおひと切れの桃のタルトを


9/9(日)
   蝉の合唱の中に身を置く。
   不意に、聴覚が真っ白になる。
   これもゲシュタルト崩壊だろうか。

 陽を浴びて鳥肌の立つ前腕も捨て置けどうせ舟が揺れれば