はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

題詠100首2009 投稿歌

2009年11月29日 17時37分17秒 | 題詠100首blog2009
001:笑
 坂の上組んだ後ろ手白いシャツ夕陽の中できみは微笑む

002:一日
 快感を指のすき間に宿すため崩れた一日掬いつづける
 (一日=ひとひ)

003:助
 振り向かぬ(助けて)きみの体臭が(助けて)微妙に変わる(助けて)

004:ひだまり
 ひだまりのひだにまみれていっぽんのなのはながたつアスファルトみち

005:調
 網膜の震えは止まず一条のルビーレーザーからの調べに

006:水玉
 千万の水玉散らし桜木は満開のまま刮ぎたおれる
 (刮ぎ=こそぎ)

007:ランチ
 店内にあかい叫びは木霊してひび割れ伸びるランチプレート

008:飾
 寝台のサイドランプをつけたまま彼女は黒い髪飾り解く

009:ふわふわ
 箱のなか箸の千切りをふわふわと跳ね返しくる彼の出汁巻き

010:街
 街の夜ガラスのビルの紅の高空点滅灯に視線を
 (紅=くれない)

011:嫉妬
 立ち竦む腋の下から地を這って我の嫉妬は四方へのびる

012:達
 みちのりの最後に会えたあの時と同じ笑顔よ そよぐ風達

013:カタカナ
 カタカナやalphabetで聞くよりもきみの肌ざわりがする「…えっち」

014:煮
 納得を待つ間中うろうろと高野豆腐は煮含められて

015:型
 少年は艶やかに笑むまたひとつ模型の指を瓶に収めて
 (艶やか=あでやか)

016:Uターン
 万物を生んで殺して地の果てへまたUターン終える日輪

017:解
 よこたわる黒い頭を膝に抱ききみの流れを読み解いてゆく

018:格差
 春のあめ依代を眼に押し当ててきみとあなたの格差をおもう
 (依代=よりしろ)

019:ノート
 おわった日携帯ノート青色の罫に最後の星を刻んだ

020:貧
 桜から葉一まいを貰い受く貧しき影の依る護符として

021:くちばし
 さやかなる倫敦塔よくちばしの赤き鴉に餌を差し上ぐ

022:職
 足元の騒ぎも知らで風のなか職に殉ずる白桜花

023:シャツ
 彼の地では茶は水よりも濃いというカッターシャツに散るビューリーズ
 (彼の地=かのち)

024:天ぷら
 鍋のなか順に崩れて消えてゆく天ぷら油の黒き泡沫
 (泡沫=うたかた)

025:氷
 あかつきの夏の浜辺をひとりゆく氷の地図を素手に掲げて

026:コンビニ
 火曜日の桜三分の風の中コンビニエンスびとは陣とる

027:既
 登録の番号ゆびで呼び起こし既に答の出た答え聴く

028:透明
 滲み出る白い濁りが透明になるまで水を流しつづけた

029:くしゃくしゃ
 くしゃくしゃの髪ゆびで梳き さて、と言いてるてる坊主の首をちょん切る

030:牛
 色深き耐熱軍手まとう手が牛の素肌に刻印を押す

031:てっぺん
 四粒を噛んで含んでてっぺんに舌で塗り込む 黒の柘榴

032:世界
 てのひらの中のカップに浮かぶ波 ごらん 世界はこんなに丸い

033:冠
 キスチョコをつまんだ指で宝冠のごときシニョンをゆるゆる崩す

034:序
 三月の海辺の朝の暖かき缶コーヒーのごとき序詞
 (序詞=じょことば)

035:ロンドン
 古書店の軒をかすめて二代目の染井吉野がロンドンに散る

036:意図
 録音に残した声へ文字だけの答が返る 意図がほつれる

037:藤
 唐突に風は鳴りやみ藤棚の花房たちがほっとうつむく

038:→
 しろくふとく地に描かれた → の先端に立ち海を見つめる

039:広
 突っ伏せるだけの広さがあればいい個室の中はまだ午前2時

040:すみれ
 左手の甲の鱗を増やすため三色すみれの花びらを切る

041:越
 グラウンドの銀杏の蕊に誘われて金網越しにあなたを殴る

042:クリック
 逃げ出せる世界を持った幸せよクリック音を最小にして
 (音=おん)

043:係
 幾重もの光と影に立ち会った戸籍係の席にブーケを

044:わさび
 金緑に萌ゆる天城よわさび田の棚田の砂利に流れる水は

045:幕
 何度でも幕は下りるさ公園の樹齢不詳の夜桜を見て

046:常識
 常識の結界内に辛うじて収まりひらくブルーシートが

047:警
 うしろから何も言わずに抱きしめた「警笛鳴らせ」の標識の下

048:逢
 かりそめの逢瀬は夜に 滑らかな月光焼けの頬をなぞって

049:ソムリエ
 あの人のおもかげ覗くソムリエがワインの滓を揺らす角度で

050:災
 茫々と災い続く我がうしろ災いを消す我を災え

051:言い訳
 言い訳は散る花びらに約束は三面鏡の奥の楓に

052:縄
 浜降の御輿は前を通り過ぎ潮引く後に落ちる藁縄

053:妊娠
 綴じ込めたはずの( )から滴った涙で月は妊娠をする

054:首
 何故なぜにあなたは泣くの午前4時見えない指を首に絡めて

055:式
 丘の上至金の風を肌に受く儀式はこれですべて終わった
 (至金=しこん)

056:アドレス
 食事中きみがわらった またひとつアドレスノートの脇にダビデを
 (「ダビデ」はダビデの星の意)

057:縁
 この縁をずっと続けていたいから走ろうゴールテープは切らずに

058:魔法
 掌が触れた箇所だけあのころに還る魔法を今日もかけられ

059:済
 いつの間に別れは済んで坂の上となりを歩く人の瞳は

060:引退
 その面は引退させてもう君は悲しむことができるのだから
 (面=めん)

061:ピンク
 まなざしにつつまれあたたかすぎるからピンクのカーディガンを脱がせて

062:坂
 暁の坂 遠い坂 靴音を凛と響かせ駆けくだる坂

063:ゆらり
 剣戟に疲れてきみは座り込みゆらりと凍る靴底の泥

064:宮
 姫宮を衛る兵士に差しあぐる露で満たした天の杯
 (杯=さかづき)

065:選挙
 永遠にきみと別れる日の朝のドアに差された選挙広告

066:角
 十字路の左角では月光に犬の言葉が液化している

067:フルート
 ふくよかな桜の胸に抱くそれはばらした銀のフルートに似て

068:秋刀魚
 長皿の秋刀魚の腹の焼け焦げは刀身に浮く血脂のごと

069:隅
 硝子張り宝石箱の隅っこにちいさくちいさく畳まれてゆく

070:CD
 半生なら5回上書き可能とうCD-RW
 (CD-RW=シーディーマイナスアールダブリュー)

071:痩
 想い出は痩せてゆくもの上塗りの抱擁拒むぬいぐるみの目

072:瀬戸
 蒼天の瀬戸の響きに耐えかねて君は自分の右腕を抱く

073:マスク
 デスマスクならぶ廊下を潜りぬけ白き天使の舞う不夜城へ

074:肩
 肩越しに私も覗く 君の背に乳房の熱が染み込むように

075:おまけ
 もう一度首を間近に抱き寄せておまけの息を鼻に吹きかけ

076:住
 しあわせなひとになるため心臓に八本足の虫を住まわせ

077:屑
 宝石を磨いたあとの屑石がふわふわふわふわ肺に入り来る

078:アンコール
 アンコールに応えて袖を出る人の正中線にわずかな揺らぎ

079:恥
 新緑を怖いと思う恥ずかしさ出口がそこに見えているよな

080:午後
 歓声が駆け足になり(もう午後か)遮光カーテンから漏れる音

081:早
 早すぎるとは思わないから君の手を両掌でつつみ胸に抱いた

082:源
 あなたから流れる小源はあたたかでくるくる廻る細胞の核
 (小源=オド)

083:憂鬱
 憂鬱を壁いっぱいに蝋石で書くきみの背に集るカゲロウ
 (集る=たかる)

084:河
 滾々と流れる河よ君知るや兆の命の委ねられしを

085:クリスマス
 差し出され握った指があたたかいまだクリスマスだっていうのに

086:符
 『カルメン』の八分音符のヒゲだけを塗り潰すうちまた夜が来る

087:気分
 たわむれる気分じゃなくて膝まくら逆さの顔のきみを睨んだ

088:編
 縦横に編まれた呪詛でつつみこむメリノウールはやはり暖か

089:テスト
 いろいろといじくりまわす君の手よテスト期間はまだ終わらない

090:長
 長い長い石段はもうすぐながいながい彼女とともにもうすぐ終わる

091:冬
 黒雲は身じろぎもせず冬の木に春の花咲く 拡がってゆく

092:夕焼け
 夕焼けにおびえたようなまなざしの君を見捨てて橋を渡った

093:鼻
 小刻みに震える髪と熱い目と湿った鼻を胸に押しつけ

094:彼方
 指先が触れないのなら目の前も心の中も星の彼方も

095:卓
 手遊びの花占いの花びらのごとく欠けゆく円卓の席
 (手遊び=てすさび)

096:マイナス
 装束はすべて外した マイナスに向いて流れる風が愛しい

097:断
 朝焼けを断ち切る光野に溢れくずれるようにきみは笑った

098:電気
 本物と言えばホンモノ箱のなか電気仕掛けの恋物語

099:戻
 あの時に流せずにいた一対の涙の戻る場所を探して

100:好
 好きだった人 今も好きなひと朝の坂道雲ながれゆく

完走しました(中村成志)

2009年08月15日 07時03分44秒 | 題詠100首blog2009
「題詠100首2009」完走しました。
「題詠マラソン」から数えると、5回目の完走です。月日のたつのは早いもんだ。

今回は、物語色の強い歌が多く出来ました(ちょっとライトノベル風か?)。
歌になっているかどうかはともかく、芸風を広げるという意味では良かったんじゃないでしょうか。

さて、ちょっと一息置きつつ、皆様の走りを鑑賞させていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。