そんなこんなで、奈良から京都に上京(でいいんだよな?)できたのは、正午も大きく回った頃でした。
適当な店で腹を満たしてから、さてお目当ての第三弾は、あの「三月書房」です。
いつ来ても光も音もひそかなり寺町二条三月書房
辻善夫
歌人の中でも知る人ぞ知るというこの書店。あちこちから噂を聞くたび、どうしても行きたい場所となりました。
実はここだけは、行き方をインターネットで調べておいたのです。
京都市役所前から歩いて五分、そのお店は本当にこぢんまりとそこにありました。
すでに何人か先客が居ましたが、妙に靜か。それぞれ書棚を眺めたり、気になる本の頁を捲ったりと、思い思いの時を過ごしています。
僕もとりあえず、右側の棚から眺め始めましたが、すぐにその品揃えに圧倒されました。
小説の他に思想書がある、哲学書がある、宗教、ノンフィクション、マニアックなチョイスのマンガがある、俳句がある、詩がある、それらの論考書がある。
ちょっと待て、全部ツボに入りすぎる品揃えだぞ。
あ、こんな写真集出てたんだ。このマンガ、噂には聞いてたけど。この作者、こんな本も出してたんだ。
そして、聞いていたとおりに店の奥に店主とおぼしき年配の男性が座し、その右と上には歌集歌書が。
おおおおお。
これは、長い間探していたけど手に入らなかった、あの。これは高いのを承知でネット古書で買おうかと思っていた。このシリーズでこの歌人のも出してたんだ。え、こんな復刻版出てたのかよ!
――あとから思い返してみると、不気味な客だったでしょう。
店番が途中で、店主からおばさんに代わったのは、僕のせいではない、と信じたい……
結局、欲しい本すべてを買うと、金額もさることながら物理的に持ち歩けないことが判明したので、泣く泣く八点に止めました。
おばさんが紙袋の手提げを二重にしてくれたのが嬉しかった。
「おおきに」
という、店を出る時の言葉は、関東モンにとっては旅情をくすぐる最高のプレゼントでしたが、この旅の中、初めてこの言葉を聞いたなあ、と、ふと思ったことでした。
「おおきに」の抑揚真似る店のそと三月書房雨あがるころ
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