最近、ギリシア神話関連の本を立て続けに読んでいます。
まあ僕の場合、今まで全く興味の無かったものに急速にのめり込むのは、いつものことなんですが。
きっかけは高橋睦郎(詩人・俳人・歌人・小説家・随筆家・劇作家 その他その他)の著作を何冊か読んだことから。
初めは詩集・句集などから入ったんですが、この方、ギリシア神話関係の本も多いんですね。
有名なのは蜷川幸雄演出『王女メディア』『オイディプス王』の脚本(ご本人曰く「修辞」)。
ホメーロスの叙事詩『イーリアス』『オデュッセイア』の翻訳も手がけています。
阿刀田高によれば、ギリシア神話は
1.ゼウスを始めとしたオリンポス神達の四方山話
2.アルゴー船遠征(王女メディアの悲劇もこれに入る)
3.英雄ヘラクレスの伝説
4.テーバイ国の興亡(オイディプスの生涯を含む)
5.トロイア戦争
の5つに大別されるんだそうです。
ほんとに「大別」や、とも思いますが、とにかくこれに当てはめると、先に挙げた高橋氏の著作を読めば 2、4、5 のさわりが分かるわけです。
で、読みまして、こりゃあおもしろいと高橋氏以外の著作にも手を出しているうちに、こうなってしまった、と。
なにがおもしろいって、ギリシアの神々たちの、あまりにもいい加減で人間くさいこと。
どっかの学者が「これは神ではない」と怒っていたそうですが、気持ちは分かります。
ちょっと貢ぎ物が少ないくらいで天罰バシバシ当てるし、男神女神問わずイケてる人間見るとすぐちょっかい出すし(筆頭が主神ゼウスなんだから目も当てられない)、気まぐれに特定の人間をひいきしてその事情に首を突っ込んで大騒ぎしておいてヤバくなるとすぐ知らんふりするし。
例えば、カッサンドラの悲劇。
トロイアの美しい姫であるカッサンドラが、ある日、神アポローンに目を付けられます。
男女のことなどまだなんにも知らないカッサンドラですが、相手の方はなんせ神なのでそんな事情知ったこっちゃありません。
なにするかも詳しく説明しないまま
「ねえねえいいでしょ?ボクの言うとおりにしてくれれば悪いようにはしないからさあ。あ、そうだ。もしボクのお願い聴いてくれたら、キミを世界一の予言者にしてあげる。未来のことが何でも分かるよお」
純真な乙女カッサンドラは(なにしろ神の言うことなので逆らえないし)よく分からないまま頷きます。喜んだアポローンは先に約束どおり予言の力を彼女に与え、さて事に及ぼうとした時、ようやくカッサンドラの胸に不安が生まれます。
「え、これからなにするのかしら。私、どうなるのかしら」
で、もらったばかりの予言の力で未来を見てみると、まあそういうことになるわけで、しかも神のすることだからアフターケアなんか考えてもいない。
「やっぱり、いやああ!」
とか言ってカッサンドラは寸前で逃げ出すのですが、収まらないのはアポローンです(まあ同情の余地無しだけど、男としては収まらないわなあ)。
「おーいなんだおまえ、金だけもらってやることやらせずに逃げるなんて、そりゃねえよお!」
と言ったかどうかは知りませんが、大激怒。
でも、一度与えた能力というのは神といえども取り上げることは出来ないそうで(このへん、妙にリアルだ)、地団駄踏んだアポローンはどうしたか。
「いいもーん!取り上げられないなら、新しい能力をお前に与えるだけだもーん!!」
と、カッサンドラの身に呪いをかけます。
すなわち、彼女がどんな予言をしても人々はいっさいそれを信じない、という呪いを。
これって、究極に身勝手で人間的な仕業ですよね。
おかげでカッサンドラは「そんなことするとトロイアがギリシャ人に攻撃される!」と言っても「その木馬、中に入れちゃダメ!」と叫んでも誰にも信じてもらえず、悲惨な最期を遂げたんだそうです。
こんな話は神話の中にゴロゴロしていて、そもそもトロイア戦争だってゼウスが
「人間増えすぎちまってうぜえなあ。戦争でもさせて間引きすっか」
と始めさせたんだそうな。
こういうのを読んでいると、「神、いない方が世界がスムーズに流れるんじゃねえの?」とすら思ってしまいます。
こんな、人間よりも人間的な神々が巻き起こす騒動だからこそ、そこから生まれる喜悲劇を人々は何千年も語り継いだのかもしれません。自分たちの世界の鏡を見る思いで。身近に起こりうる物語として。
と綺麗にまとめてはみましたが、やっぱりとんでもないよなあ、これって。
ギリシア神話本漁り、しばらく続きそうです。
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