はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

続、Tさんのこと(3)

2008年07月30日 18時25分45秒 | たんたか雑記
(続き)

「でもあるじゃないですか、電話しかできないおじいちゃん用ケータイ。そっちにしたらどうですか?」
「そうしようかな。でもDoCoMoであるのかなあ」
「中村さん、DoCoMoですか?」
「うん」
「じゃあSoftBankに替えたらどうですか。たしかそんなケータイも出してたし、サービスもすごくいいですよ」
「ふーん、TさんSoftBankなんだ」
「いえ、わたしはauです」
「なら、なんでSoftBankを勧めるの」
「だって今入ると、しゃべる犬のお父さんのストラップがもらえるんですよ」
「しゃべる、犬のお父さん、のストラップ?どこで区切るんだ?だいたいなんだ、その犬って」
「知らないんですか?CMでいっぱいやってるじゃないですか」
「知らないよ、テレビ見ないもの」
「そうか、この間もそんなこと言ってましたね。SoftBankのCMで、連続ドラマ風なんです。お父さんが犬で、しゃべるんですよ」
「アニメじゃなくて?」
「本当の犬です。白くてかわいいんです。声を北大路欣也がやってて、奥さんや娘さんは人間で、息子はアメリカ人なんです」
「わけわからん」
「人気あるんですよ。写真集も出てるし」
「写真集?」
「ええ」
「犬の?」
「ええ。何万部も売れたんだそうですよ。中村さんも買いませんか」
「買わないよ。買ったの?」
「いいえ。もったいないじゃないですか」
「じゃあ人に買わせるなよ」
「だって見てみたいんだもの」
「あのな」
「で、今SoftBankに加入すると、そのお父さんのストラップが付いてくるんです。ほんとうにしゃべるんですよ」
「いらないよ。ストラップ付けないもの」
「わたし欲しいんです」
「ちょっと待て。じゃ、俺が加入して貰ったものをTさんにあげるのか?」
「はい」
「自分で加入すりゃいいじゃないか」
「SoftBankは電波が弱いから、いやです」
「あのなあ」

(お終い)

続、Tさんのこと(2)

2008年07月29日 18時28分24秒 | たんたか雑記
(続き)

「それにしてもダメですよ中村さん。もっと勉強しないと」
「勉強するものなのか」
「そうですよ。中村さんだって、ケータイ持ってるんでしょう」
「持ってるけど、電話とメールしか使わないもん。それ以外の機能も付いてないし」
「付いてないんですか?ゲームも、ワンセグも、ウォークマンも?」
「だから、その地球外生物を見るような目つきはやめてよ」
「だって、ふつう付いてますよ」
「付いてないのを、わざわざ買ったんだよ。電話は緊急連絡用にしか使わないし、メールも文章を打ってるうちに指が痙りそうになるから好きじゃない」
「あ、それありますよね。10回くらい往復してたら指が疲れちゃって」
「往復?」
「ええ」
「なにを」
「だからメールを」
「意味わからん」
「だ・か・ら、(子どもに説明するように)こっちからメール送るでしょう?その返事が来て、それに返事返して、それが10往復くらい続くんですよ。始めは長い文章打つけど、だんだん疲れてきて、最後は1行か2行になりますね」
「なんでまた、そんなに往復させるんだ。電話で話しゃ済むことじゃないか」
「電話だとめんどくさいじゃないですか」
「メール打つ方が、よっぽどめんどくさいよ」
「じゃあ、i モードも見ないんですか?」
「見ない。機能は付いてるけどね。本当はそれも外してもらおうと思ったんだ。でもそうすると却って加入料が高くなるんだと。まったく」
「怒ってばっかり。おじいちゃんみたいですね」
「あのな」

(続く)

続、Tさんのこと(1)

2008年07月28日 14時36分15秒 | たんたか雑記
 Tさんが、にこにこしながら携帯電話を見せた。
 以前も書いたが、Tさんはこの事務所で働く嘱託員の女の子だ。明るくて仕事も出来るので、みんなに可愛がられている。
 しかし、どこかいじめっ子気質が入っているようで(そう言うと本人はぶんぶん首を振って否定するが)、油断していると思わぬところから突っこまれる。

 で、そのTさんが真新しい携帯電話を見せて言うのだ。
「いいでしょう。これ、このあいだ買ったんです」
「へえ、いいやつなんだ」
「デジカメが○万画素(忘れた)もあるんです。ワンセグもつながりやすいし」
「ほう」
「液晶が大きくて見やすいし、ゲームもいっぱい入ってるし」
「ほう」
「ウォークマンもこっち(と言って別の装置を見せた)を使うと、本体はカバンの中に入ってても操作できるんです」
「ほほう」
「せっかく自慢してるのに、なんですかその答え方は」
 そんなこと言われても困る。
 だいたい僕は、携帯電話関係にはほとんど興味がない。
 だから、いくら一生懸命自慢されても、たとえば火星人に
「この放射能除去装置は新型でねえ」
と言われているようなもので、どこがどうすごいのか見当が付かないのだ。
 Tさんは不甲斐ない僕を見限って、同じ嘱託員のKさんに自慢をし始めた。
 Kさんは大手コンピューター会社の重役だった人だから、さすがに機械モノに詳しい。しきりに感心している。
 Tさんも、たっぷり自慢できて満足そうだ。

(続く)

Tさんのこと(2)

2008年07月25日 18時43分57秒 | たんたか雑記
(続き)

「テレビ見ないんですか?全然?なんにも?じゃあ普段なにしてるんですか?」
「なにって、いろいろやることあるでしょう。本読んだり、音楽聴いたり、インターネットしたり」
「私なんか、朝起きてから夜寝るまで、ずっとテレビ付けてますよ。それが普通でしょう?」
「普通なのか」
「そうですよ」
「でも、そんなにテレビ見てたら疲れるだろう。俺なんか、そば屋のテレビを眺めただけで疲れる」
「ずっと見てるわけじゃないですよ。付けといて、何か他のことしながら、おもしろそうなところだけ見るんです。付けとかないと、しんとして寂しいじゃないですか」
「寂しいかなあ」
「そうですよ。さびしい人生ですよ」
「あのな」
「あれ、でも去年、WOWOWでサザン(オールスターズ)の年越しライブやったとき、録画してくれたじゃないですか。ケーブルテレビに入ってるんでしょ?」
「入ってる。けどあれは、映画とか見るためだから。でも最近、全然見てないな。もったいないから解約しようかなあ」
「ダメですよ!」
「ん?」
「WOWOWはいい番組いっぱいやってるし、貴重な映像を放映したりもするんです。絶対やめちゃダメです!」
「ずいぶんWOWOWを褒めるね」
「だって、8月にサザンの活動停止ライブをWOWOWでやるんですよ。また録画してもらわないといけないんです。今度テープ持ってきます」
「あのな。だったら自分で加入すりゃいいじゃないか」
「もったいないからいやです」
「あのなあ」

(終わり)

Tさんのこと(1)

2008年07月24日 17時57分09秒 | たんたか雑記
 テレビを見なくなって、もうずいぶんたつ。
 別に困らないからいいや、と普段は思っているのだが、ちょっとした時に一般常識を疑われることがあって、そういうときは少し後悔する。

 あるイベントの受付をしていたTさんが、突然
「マツシマナナコのナの字って、菜の花の菜ですよね?」
と聞いてきた。
 電話の向こうで、申込者が自分の名前を説明してるらしい。
 で、ぼくが
「マツシマナナコって誰だ」
と聞き返したら、Tさんが固まってしまった。
 周りにいた課長も課長補佐も嘱託員のNさんも、みんな固まっている。
 どうやらずいぶん有名なヒトらしいのだが、知らないものはしょうがない。誓って初めて聞く名前だ。
 固まりつつもなんとか受付を終わらせたTさんが、改めてこっちを向いた。
「中村さん、マツシマナナコ知らないんですか?」
「知らない。何やってるヒト?」
「女優ですよ!ずいぶん前からいろんなドラマや映画に出てます。見たことないんですか?」
「ない。テレビ見ないもん。なに、その異星人を見るような目つきは」
 Tさんは20代半ばの女の子で(ぼくから見ればこの年代は女の子だ)、仕事も出来るしいつもころころ笑っているので、みんなから可愛がられている。
しかし、ときどき笑いながら妙に辛辣な意見を言うので、けっこう油断できないのだ。

(続く)