はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

『0の四季』について

2010年10月26日 19時18分58秒 | 日詠短歌

「第56回角川短歌賞」に応募した50首です。
一年間の間に詠んだ歌の中で、季節詠っぽいのを選び、並べ直しました。

あまり読み返してなかったので、改めて目を通すとおかしな気持ちがしますね。

ご感想など、お聞かせください。

0の四季

2010年10月26日 19時17分51秒 | 日詠短歌


生誕と死を十三度繰りかえし今年も靄に透く弧月輪

蘂の字をA3用紙いっぱいに蛍光ペンで埋める少女は

酔い濡れの眼が痒くなる闇のなか伝言ランプの明滅止まず

陽光をまだ浴びたことない箇所へ吸血痕に似たキスマーク

一回も空気に触れたことがないいのちは命と呼ばないそうだ

水面に落として薄い血のようにひらく薔薇柄ロールペーパー

振り払うようにマスクを外すのであなたは朝の顔取りもどす

苛立ちの季節ではある 萌え鎧う楓の木々の青の熱さよ

ちがいます梅雨は夏ですくっきりとエッジの立ったソフトクリーム

交差点白だけ踏んで渡りゆく十年ぶりに歩幅ひろげて

ペンギンが信号待ちしている空は水で擦った画用紙のよう

成長という軛から放たれる齢となりまた浴びる蝉声

数百の閉じ込められた虫ひかる自動販売機で買うペプシ

心配なほど脱水機鳴りやまず…なにか生むのだろうか?

窓枠が切った光でみりみりと磨りつぶされてゆく脚の影

十世紀勢力図のよう大皿に焼かれる前の牛の部位たち

戦争を好きだとすれば納得がいくので今日は生たまご喰う

菱形の呆れたような口のまま堤防に立つ牛乳パック

ダブルレインボウ 沛然と降る雨のなか断ちわるごとく陽光は差す

カティサークのボトルの色だ公園に垂れる闇夜のひまわりの葉は

富士はただ土のかたまり がしがしと踵で削り坂かけくだる

「限界集落」「森林限界」上にゆくほど声高の生無用論

ねっとりと白さは影に食らいつく私とともに老いてゆけ夏

寝ころんで開けば少し歪むから表紙を取って読む処女歌集

乱れ飛ぶトンボの群れに裏声を上げて飛び込む黄帽子の群れ

しいちゃんの背丈の上を取りかこむ宇宙という名をつけられた花

夕刻の一枚窓に影映しダンス あくまもとっくにしんだ

惑星は『まいごの星』という意味か柚子が半分轢かれた路を

夕焼けがしおれて月は現れる遮光土偶の瞳のような

電柱が二十四時間電柱のまま立っている暗い坂道

背をまるめ待つ物陰よ傘の柄のカーブすっぽり腕にはまって

三時半降る雨のなか傾いて死んでしまったその信号機

音もなく赤色灯は回転すつくり笑いを剥ぎ取りながら

左から右へ連結部分鳴りのめるごとくに動く貨物車

左指だけで頁を繰る少女よ氷細工の機関車きみは

当然のように全員右に寄る阪急梅田エスカレーター

頭上には冗談のような青い空若者はみな毛糸を被る

マフラーの隙間を埋めて外に出る浅く少ない呼吸をしつつ

吐く息も十色に染めて幾千の光る毛虫のはいまわる壁

左から後ろを向いて青首の鴨は自分にくちばし埋める

元日の未明せつせつ鳴り響くスーパーカブのギアチェンジ音

裾野まで雪を被った今朝の富士しぬのがこわいしぬのがこわい

南天を目に四匹の雪うさぎ黒いお盆の木目に沿って

ひとつひとつ握って潰す参道のこおりになった紫陽花の花

流し場で折って千切って火を点ける紙の手紙を消す面倒さ

生きる価値無しと思い知らされる夜もある わたしを見るなオリオン

海からの風はぬるくて一岬一丘ごとに蹲る歌碑

青空にくろぐろ緑なす大樹 もう少し冬でいてほしかった

竹を喰ふ季節また来て病ひ得しことの他には何もなく候

鳥たちは桜蜜吸う花蘂の首をせっせと折り取りながら