001:始
はじまりはあお星々のまたたきが散りぢり熔ける始まりは青
002:晴
月光が底にまどろむとこぶしを鋼に変えて明後日は晴れ
003:屋根
刷毛雲を見上げていると飛べそうな屋根の下地を赤く塗るとき
004:限
早すぎる河津桜の濃き桃の散るを止めよ今日限り冬
(止めよ=とどめよ)
005:しあわせ
風の中舞う黄舞う髪揺れる枝きみがしあわせだからしあわせ
006:使
つばさ持つ青き使徒なり哀しきと清きを統べる風の使徒なり
007:スプーン
朱に染まる指のくぼみをスプーンにしてすくい取る根まじりの雪
008:種
芝草に沈みつ思う空色の種の発芽をさせてはならぬ
009:週末
仕舞坂週末ごとにくだる坂角のケロヨンくんは黄みどり
(角=かど)
010:握
両掌に包んで握る縞栗鼠の蠢く脈のあたたかきかな
011:すきま
素粒子間のすきまはとても広いから紫の風だけがこぼれる
012:赤
さんかくの赤いひこうきとんでいくくもり空ならもっといいのに
013:スポーツ
「スポーツって待つことだ」って濃紺のMIZUNOマークに視線落として
014:温
シャツ越しのあなたの背なが温いから黄色いタオルケットでじゅうぶん
(温い=ぬくい)
015:一緒
あ、水玉あなたといっしょネクタイとかばんの中のペンほら一緒
016:吹
西風が潮砂つぶて吹き付けてもう自慢した褐色じゃない
017:玉ねぎ
透きとおる狐色した玉ねぎはフライ返しにまとわりついて
018:酸
きみの口小梅こりこり音がしてきっと榛色の酸っぱさ
019:男
男って君みたいって暗闇に翠緑玉の瞳きらめく
020:メトロ
梨の花散る地に迷いこみましょう緑のソウルメトロに乗って
021:競
群青のリード引いてかひかれてかペスと競ってしいちゃん歩む
022:記号
チューバ譜のヘ音記号に目とヒゲを朱色で書き加えたの誰だ
023:誰
我が世誰そ常ならむのか剣山灰の雪縞凍みて匂えど
(剣山=つるぎやま)
024:バランス
内蔵に付きすぎたのでバランスをとって萌黄の柿の葉を噛む
(噛む=はむ)
025:化
渦を巻き白蛇と化し道上に地紋を描くさくら地吹雪
026:地図
事ごとに塗りつぶす白地図はもう往けるところが少ししかない
027:給
給食を護衛してゆく白帽子つばめが渡り廊下くぐった
028:カーテン
銀色のカーテンランナーきゃらきゃらと滑るよだってもう重くない
029:国
浜に立ち国来くにこと引き寄せる綱の握りのあかぐろきかな
030:いたずら
コノアイハトウメイスギル指先で水にいたずらする黒い髪
031:雪
膝を着く雪原はるか漆黒と見まごう濃き紅を目指して
(雪原=せつげん 紅=くれない)
032:ニュース
どうでもいいニュースは浅黄取り決めの和紙便箋を買いに行かねば
033:太陽
おおあたたかな白き太陽霞立つ森林限界線にころがる
034:配
透明な水を配ろうできたてのフラスコに詰め街でくばろう
035:昭和
しいちゃんが〔ここは小声で〕昭和ってそんな茶色な季節だったの
036:湯
残り湯のあるかなきかの白濁にあの人を見て栓を引き抜く
037:片思い
『紅殻の分析結果』石壁の妃は片思いをしている
(石壁=せきへき 妃=きさき)
038:穴
擦り生姜きいろく濡れて蓮根の穴ほろほろと舌にくずれる
039:理想
バラ色の明日が理想だそうだとかいつも笑ってるとか言われて
040:ボタン
長崎のひとに似ている二番目のボタンをはずす浅黒い指
041:障
六月の緑は痛い気障りな光が庭の隅にかたまる
042:海
蔦の這う儚きあをの器から注いですこしだけ海は死ぬ
043:ためいき
「ためいきを三回吐いた」積雲の白を数えてすごす山頂
044:寺
わが寺に言の葉添えよ影法師黄味萌え出ずるうたを奏でん
045:トマト
酒井屋のトマトのへたは深緑すぎるこいつは植物じゃない
046:階段
君さては外階段の12段目にある銀のSを踏んだね
047:没
庭先のやがて水没するはずのほおずきの実はまだ色付かず
048:毛糸
編み棒へからめる前にふじ色の毛糸に軽く口づけをして
049:約
「この薔薇は橙ですか白ですか萌葱でしょうか」「約黄色です」
050:仮面
まなじりに黒き指紋のこびり付く顔となりいざ仮面歌劇へ
051:宙
このカリウムは緑の海に降りそそぐ宇宙塵から抽出された
052:あこがれ
伯母たちが吐き合う「!!!!!!!!!!!!」の黒にあこがれた夜
(!!!!!!!!!!!!=エクスクラメーションマーク)
053:爪
泥岩に爪痕残し始祖鳥が羅目の鱗を光らせて飛ぶ
(泥岩=でいがん 羅目=らめ)
054:電車
差し向かうふたり泣いてるよに見えた湘南色の湘南電車
055:労
鳶色の疲労をシャムロックの花に吸われつつ聴く午後5時の鐘
056:タオル
板床にタオルを敷いて夢を見る金魚の群れに会えますように
057:空気
そらをとぶ空気枕にまたがってさあ飛び立とう翡翠の森へ
058:鐘
切髪の童の石に軒先の青銅鐘がのびやかに鳴る
059:ひらがな
黒々と濡れた花壇の土に書くしいちゃんの名の文字はひらがな
060:キス
くちびるに赤黒い傷きざむただ君を罰するためだけのキス
061:論
『すご( )ックス論』子らが集いし水炊きの鍋に特太ゴチック敷かれて
062:乾杯
乾杯の声は挙げずに白陶の磁器を砕いて終えるパーティー
063:浜
桃色の爪をうずめた砂浜があと千回の波で消え去る
064:ピアノ
黒鍵は左手薬指がすき消毒臭のするメゾピアノ
065:大阪
青空に白 赤 金の顔が浮く大阪万博で会いましょう
066:切
頭頂の切れ込みから身が裂け始めパープル・バタフライが羽化する
067:夕立
夕立のあっちに暗い紅を見る駅前長谷川書店軒先
068:杉
冷めかけた濃茶がやっと舌に乗り日なたを侵食する小杉苔
069:卒業
(東京は卒業したの)玉虫のアートネイルが這うさるすべり
070:神
緑濁の沼から這いずり出たものに光が刺さる 神よ逃げるな
071:鉄
鉄柵が揺すれてもげて汗ばんだ腕赤錆の粉にまみれて
072:リモコン
つぶされた斑のベンにリモコンを向けリプレイのボタンを押した
(斑=まだら)
073:像
杉綾に編まれた影で包みこみ半跏思惟像に口づける
074:英語
尾の鰭が半分欠けた金魚には英語が馴染むと思いませんか?
075:鳥
千世代あとに小鳥になるのだろう漆喰壁に虹蜥蜴鳴く
(千世代=せんせだい)
076:まぶた
蜻蛉には見えない色が手のひらとまぶたと液を通過してゆく
077:写真
なかよしに挟まれ僕を待っていた日光写真の青揚羽蝶
078:経
黒白をCivil-Evilとうらがえし無駄に上がってゆく経験値
079:塔
暗がりのなか笹舟が流れゆくから金色の塔を燃やして
(金色=こんじき)
080:富士
両肘を土で汚して富士山を走って登るひとたちがいる
081:露
ちらばったマトリョーシカにしがみつく夜露水銀灯に照らされ
082:サイレン
岸壁にサイレンは鳴るしらとりの風切る音の下をくぐって
083:筒
(きれいだねピンクいろの火)トラックにあおられ発煙筒はのたうつ
084:退屈
からからの蝉を真白きサンダルの底で砕いて蹴って退屈
085:きざし
葉緑体は穂の先端からぬけていく秋のきさしの色に気付いて
086:石
ちいさくてくろくてまるい石のなかには石斑魚の子ねむってるって
(石斑魚=ウグイ)
087:テープ
渇水の四万十川に沈んでるカセットテープ桃リボン付
088:暗
たまねぎを削いだみたいな三日月の下でダリアは暗く輝く
089:こころ
なくしたといってるあかいこころならみつばとたまごとじにしました
090:質問
朝まだき緑の繭のなかにいる少女にひとつ質問をする
091:命
しろいかみ「命令」という言葉の意味を初めて知った白い紙
092:ホテル
海沿いのホテルの窓は開かなくてラピスラズリのとりを見下ろす
093:祝
この夏を知るはずだった人のためあおい器で汲む祝い水
094:社会
青と黄の7系統のバスでゆく社会科見学(チョコのにおいだ)
095:裏
10円の裏はお寺か10の字か赤銅色は空に溶けない
096:模様
午後6時サンダルじゃもうさむくって京急青砥は雨模様です
097:話
貼り紙と乾いた薔薇と血のことが昔話になるときが来た
098:ベッド
歯車が折れて弾けてソファだったモカのベッドが軋んでゆれて
099:茶
(秋なのに)茶碗に残る薄青い泡でうらなう(もう秋なのに)
100:終
おしまいはあか灰の中切れぎれに息を続けるお終いは赤
はじまりはあお星々のまたたきが散りぢり熔ける始まりは青
002:晴
月光が底にまどろむとこぶしを鋼に変えて明後日は晴れ
003:屋根
刷毛雲を見上げていると飛べそうな屋根の下地を赤く塗るとき
004:限
早すぎる河津桜の濃き桃の散るを止めよ今日限り冬
(止めよ=とどめよ)
005:しあわせ
風の中舞う黄舞う髪揺れる枝きみがしあわせだからしあわせ
006:使
つばさ持つ青き使徒なり哀しきと清きを統べる風の使徒なり
007:スプーン
朱に染まる指のくぼみをスプーンにしてすくい取る根まじりの雪
008:種
芝草に沈みつ思う空色の種の発芽をさせてはならぬ
009:週末
仕舞坂週末ごとにくだる坂角のケロヨンくんは黄みどり
(角=かど)
010:握
両掌に包んで握る縞栗鼠の蠢く脈のあたたかきかな
011:すきま
素粒子間のすきまはとても広いから紫の風だけがこぼれる
012:赤
さんかくの赤いひこうきとんでいくくもり空ならもっといいのに
013:スポーツ
「スポーツって待つことだ」って濃紺のMIZUNOマークに視線落として
014:温
シャツ越しのあなたの背なが温いから黄色いタオルケットでじゅうぶん
(温い=ぬくい)
015:一緒
あ、水玉あなたといっしょネクタイとかばんの中のペンほら一緒
016:吹
西風が潮砂つぶて吹き付けてもう自慢した褐色じゃない
017:玉ねぎ
透きとおる狐色した玉ねぎはフライ返しにまとわりついて
018:酸
きみの口小梅こりこり音がしてきっと榛色の酸っぱさ
019:男
男って君みたいって暗闇に翠緑玉の瞳きらめく
020:メトロ
梨の花散る地に迷いこみましょう緑のソウルメトロに乗って
021:競
群青のリード引いてかひかれてかペスと競ってしいちゃん歩む
022:記号
チューバ譜のヘ音記号に目とヒゲを朱色で書き加えたの誰だ
023:誰
我が世誰そ常ならむのか剣山灰の雪縞凍みて匂えど
(剣山=つるぎやま)
024:バランス
内蔵に付きすぎたのでバランスをとって萌黄の柿の葉を噛む
(噛む=はむ)
025:化
渦を巻き白蛇と化し道上に地紋を描くさくら地吹雪
026:地図
事ごとに塗りつぶす白地図はもう往けるところが少ししかない
027:給
給食を護衛してゆく白帽子つばめが渡り廊下くぐった
028:カーテン
銀色のカーテンランナーきゃらきゃらと滑るよだってもう重くない
029:国
浜に立ち国来くにこと引き寄せる綱の握りのあかぐろきかな
030:いたずら
コノアイハトウメイスギル指先で水にいたずらする黒い髪
031:雪
膝を着く雪原はるか漆黒と見まごう濃き紅を目指して
(雪原=せつげん 紅=くれない)
032:ニュース
どうでもいいニュースは浅黄取り決めの和紙便箋を買いに行かねば
033:太陽
おおあたたかな白き太陽霞立つ森林限界線にころがる
034:配
透明な水を配ろうできたてのフラスコに詰め街でくばろう
035:昭和
しいちゃんが〔ここは小声で〕昭和ってそんな茶色な季節だったの
036:湯
残り湯のあるかなきかの白濁にあの人を見て栓を引き抜く
037:片思い
『紅殻の分析結果』石壁の妃は片思いをしている
(石壁=せきへき 妃=きさき)
038:穴
擦り生姜きいろく濡れて蓮根の穴ほろほろと舌にくずれる
039:理想
バラ色の明日が理想だそうだとかいつも笑ってるとか言われて
040:ボタン
長崎のひとに似ている二番目のボタンをはずす浅黒い指
041:障
六月の緑は痛い気障りな光が庭の隅にかたまる
042:海
蔦の這う儚きあをの器から注いですこしだけ海は死ぬ
043:ためいき
「ためいきを三回吐いた」積雲の白を数えてすごす山頂
044:寺
わが寺に言の葉添えよ影法師黄味萌え出ずるうたを奏でん
045:トマト
酒井屋のトマトのへたは深緑すぎるこいつは植物じゃない
046:階段
君さては外階段の12段目にある銀のSを踏んだね
047:没
庭先のやがて水没するはずのほおずきの実はまだ色付かず
048:毛糸
編み棒へからめる前にふじ色の毛糸に軽く口づけをして
049:約
「この薔薇は橙ですか白ですか萌葱でしょうか」「約黄色です」
050:仮面
まなじりに黒き指紋のこびり付く顔となりいざ仮面歌劇へ
051:宙
このカリウムは緑の海に降りそそぐ宇宙塵から抽出された
052:あこがれ
伯母たちが吐き合う「!!!!!!!!!!!!」の黒にあこがれた夜
(!!!!!!!!!!!!=エクスクラメーションマーク)
053:爪
泥岩に爪痕残し始祖鳥が羅目の鱗を光らせて飛ぶ
(泥岩=でいがん 羅目=らめ)
054:電車
差し向かうふたり泣いてるよに見えた湘南色の湘南電車
055:労
鳶色の疲労をシャムロックの花に吸われつつ聴く午後5時の鐘
056:タオル
板床にタオルを敷いて夢を見る金魚の群れに会えますように
057:空気
そらをとぶ空気枕にまたがってさあ飛び立とう翡翠の森へ
058:鐘
切髪の童の石に軒先の青銅鐘がのびやかに鳴る
059:ひらがな
黒々と濡れた花壇の土に書くしいちゃんの名の文字はひらがな
060:キス
くちびるに赤黒い傷きざむただ君を罰するためだけのキス
061:論
『すご( )ックス論』子らが集いし水炊きの鍋に特太ゴチック敷かれて
062:乾杯
乾杯の声は挙げずに白陶の磁器を砕いて終えるパーティー
063:浜
桃色の爪をうずめた砂浜があと千回の波で消え去る
064:ピアノ
黒鍵は左手薬指がすき消毒臭のするメゾピアノ
065:大阪
青空に白 赤 金の顔が浮く大阪万博で会いましょう
066:切
頭頂の切れ込みから身が裂け始めパープル・バタフライが羽化する
067:夕立
夕立のあっちに暗い紅を見る駅前長谷川書店軒先
068:杉
冷めかけた濃茶がやっと舌に乗り日なたを侵食する小杉苔
069:卒業
(東京は卒業したの)玉虫のアートネイルが這うさるすべり
070:神
緑濁の沼から這いずり出たものに光が刺さる 神よ逃げるな
071:鉄
鉄柵が揺すれてもげて汗ばんだ腕赤錆の粉にまみれて
072:リモコン
つぶされた斑のベンにリモコンを向けリプレイのボタンを押した
(斑=まだら)
073:像
杉綾に編まれた影で包みこみ半跏思惟像に口づける
074:英語
尾の鰭が半分欠けた金魚には英語が馴染むと思いませんか?
075:鳥
千世代あとに小鳥になるのだろう漆喰壁に虹蜥蜴鳴く
(千世代=せんせだい)
076:まぶた
蜻蛉には見えない色が手のひらとまぶたと液を通過してゆく
077:写真
なかよしに挟まれ僕を待っていた日光写真の青揚羽蝶
078:経
黒白をCivil-Evilとうらがえし無駄に上がってゆく経験値
079:塔
暗がりのなか笹舟が流れゆくから金色の塔を燃やして
(金色=こんじき)
080:富士
両肘を土で汚して富士山を走って登るひとたちがいる
081:露
ちらばったマトリョーシカにしがみつく夜露水銀灯に照らされ
082:サイレン
岸壁にサイレンは鳴るしらとりの風切る音の下をくぐって
083:筒
(きれいだねピンクいろの火)トラックにあおられ発煙筒はのたうつ
084:退屈
からからの蝉を真白きサンダルの底で砕いて蹴って退屈
085:きざし
葉緑体は穂の先端からぬけていく秋のきさしの色に気付いて
086:石
ちいさくてくろくてまるい石のなかには石斑魚の子ねむってるって
(石斑魚=ウグイ)
087:テープ
渇水の四万十川に沈んでるカセットテープ桃リボン付
088:暗
たまねぎを削いだみたいな三日月の下でダリアは暗く輝く
089:こころ
なくしたといってるあかいこころならみつばとたまごとじにしました
090:質問
朝まだき緑の繭のなかにいる少女にひとつ質問をする
091:命
しろいかみ「命令」という言葉の意味を初めて知った白い紙
092:ホテル
海沿いのホテルの窓は開かなくてラピスラズリのとりを見下ろす
093:祝
この夏を知るはずだった人のためあおい器で汲む祝い水
094:社会
青と黄の7系統のバスでゆく社会科見学(チョコのにおいだ)
095:裏
10円の裏はお寺か10の字か赤銅色は空に溶けない
096:模様
午後6時サンダルじゃもうさむくって京急青砥は雨模様です
097:話
貼り紙と乾いた薔薇と血のことが昔話になるときが来た
098:ベッド
歯車が折れて弾けてソファだったモカのベッドが軋んでゆれて
099:茶
(秋なのに)茶碗に残る薄青い泡でうらなう(もう秋なのに)
100:終
おしまいはあか灰の中切れぎれに息を続けるお終いは赤