はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

主に「平均律クラヴィーア」第1巻に寄せる一連

2011年08月22日 20時49分02秒 | 日詠短歌

   主に「平均律クラヴィーア」第1巻に寄せる一連


ステップのきっちり切れた階段を降りていくいや、手摺りはいらない

自らの靴が奏でる響きのみ導きとして足を踏み出す

マフラーを外した首は頼りなく部品ひとつひとつが冷たい

下る 曲がる 停まる 折れる 瞬々のきらめきごとに歩むしかない

閃きが見えるのならば いや 皮膚が震えを掴んでいるのか

漆黒に塗られた壁と天井と階とわたしの眼球の裏

窓はある(気配で分かる)月もある(匂いで解る)無いものはない

石でなく木でなく草でなくスニーカーが朗々と鳴る材質は何だ

隙間から塵が蠢くどうやら向こうの方が明るいらしい

eveという2番目の名を胸に抱き最下層への最初の一歩

大気の断層過ぎりこの先は呼気が物質化する世界

西風が暖かいとは限らない雨が粘土壁に突き刺さる

黒毛の鹿が深雪の笹藪に(押し入るってことはこういうことだ)

自我のある大根の葉が土道を照らして沼の向こうへ続く

端の石くれ―もちろん黒い―を投げ入れる律動正しく飲まれるは影

鴨がいる首光らせて(デコイなら納得も行くだろうに)四羽

鴨が産むドップラー効果さざ波が(波か?)そのまま固着される

四つ這いになればなかなか沈まんさ左の掌をそよろりと置く
(掌=しょう)

中央に腹這うすでに沼面は私の背のレヴェルで凪ぎわたる

びっしりと巻かれた糸が指先からほどけてゆく…指、熱い

あるいは眼あるいは背鰭幾千のおそらく敵意を含む蒼銀

弾のような魚に総身を啄まれ体液の代わりに沼水が入る

最終の明滅も消え沼岸に放り出されたまま濡れねずみ

肺内にFog(or Mist)浸みわたり横隔膜の疲労する宵

背後から世界は揺らぎ立ちあがる振り向けば森また向けば道

土道のそこここに木の根が膨れ傷はそちらへ誘うように

明滅は無軌道 枝垂桃の珠の周囲一際闇深くあり

逆手に掌を組んで左の薬指動かせるほどには明るいが

死にかけの雛鳴きそぼる朽ち裂けの大樹の洞に一夜を憩う

洞中に震えも止まず凝り居るカフカの闇を両掌に汲む


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