はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

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斎藤茂吉料理百首

2014年10月21日 17時52分41秒 | 斎藤茂吉料理歌集
 「赤光」(定本) 

たらちねの母の邊(べ)にゐてくろぐろと熟める桑の實を食ひにけるかな

ひとり居て卵うでつつたぎる湯にうごく卵を見ればうれしも

あなうま粥(かゆ)強飯(かたいひ)を食(を)すなべに細りし息の太りゆくかも

隣室に人は死ねどもひたぶるに帚(ははき)ぐさの實食ひたかりけり

味噌うづの田螺たうべて酒のめば我が咽喉佛(のどぼとけ)うれしがり鳴る

木のもとに梅はめば酸しをさな妻ひとにさにづらふ時たちにけり

ひとり居て朝の飯(いひ)食(は)む我が命は短かからむと思(も)ひて飯はむ

我友(わがとも)は蜜柑むきつつしみじみとはや抱(いだ)きねといひにけらずや

みちのくに病む母上にいささかの胡瓜を送る障(さは)りあらすな

天傳(あまつた)ふ日は傾きてかくろへば栗煮る家にわれいそぐなり

上野なる動物園にかささぎは肉食ひゐたりくれなゐの肉を

すり下(おろ)す山葵(わさび)おろしゆ滲(し)みいでて垂るみづのかなしかりけり

山ゆゑに笹竹の子を食ひにけりははそはの母よははそはの母よ


 「赤光」(初版) 

たらの芽を摘みつつ行けり寂しさはわれよりほかのものとかはしる


 「あらたま」 

きちがひの遊歩(いうほ)がへりのむらがりのひとり掌(て)を合(あは)す水に向きつつ

きのこ汁くひつつおもふ租母(おほはは)の乳房にすがりて我(あ)はねむりけむ

いささかの爲事(しごと)を終へてこころよし夕餉の蕎麥(そば)をあつらへにけり

ふる郷(さと)に入(い)らむとしつつあかときの板谷峠(いたやたうげ)にみづをのむかな

味噌汁をはこぶ男のうしろより默(もだ)してわれは病室に入(い)る


 「つゆじも」 

わが心あらしの和(な)ぎたらむがごとし寝所(ふしど)に居りて水飲みにけり

支那街(しなまち)のきたなき家に我の食ふき皮卵(ぴいだん)もかりそめならず

みすずかる信濃高原(たかはら)の朝めざめ口そそぐ水に落葉しづめり

あららぎのくれなゐの實を食(は)むときはちちはは戀(こひ)し信濃路にして


 「遠遊」 

東海(とうかい)のくにの旅びとこよひ食ふ復活祭の卵と魚を

このゆふべ數(かず)の子食ひぬ愛(かな)しくもウインナの水にほとびし數の子

貝(くろがひ)のむきみの上にしたたれる檸檬の汁は古詩(こし)にか似たる

蠅多き食店(しよくてん)にゐてどろどろに煮込みし野菜くへばうましも


 「遍歴」 

大馬(おほうま)の耳を赤布(あかぬの)にて包みなどして麥酒(ビイル)の樽を高々はこぶ

友とともに飯(めし)に生卵かけて食ひそののちき川原に默(もだ)す

イサールの谷の柳の皮むきて箸をぞつくる飯(いひ)を食ふがに

イタリアの米を炊(かし)ぎてひとり食ふこのたそがれの鹽(しほ)のいろはや

はるかなる國に居りつつ飯(いひ)たきて噛みあてし砂さびしくぞおもふ

齒をもちて割るはしばみの白き實を從ひてくる妻に食はしむ

港町(みなとまち)ひくきところを通り來て赤黄(あかき)の茸(きのこ)と章魚(たこ)を食ひたり

セイロン的ライスカレエを食ひしとき木の葉入りありこの國の香ぞ


 「ともしび」 

やけのこれる家に家族があひよりて納豆餅(もちひ)くひにけり

かへりこし家にあかつきのちやぶ臺(だい)に火○(ほのほ)の香(か)する澤庵を食(は)む
〔○=漢字〕

茂吉には何かうまきもの食はしめと言ひたまふ和尚のこゑぞきこゆる

吾つひに薯蕷汁(とろろ)をくひて滿ち足らふ外面(とのも)に雨のしぶき降るとき

ひる未(まだ)き高野(かうや)のやまに女子(をみなご)と麥酒(むぎざけ)を飲みねむけもよほす

峠路のながれがもとの午餉(ひるがれひ)梅干のたねを谿間(たにま)に落す

をさなごを遊ばせをればくりやより油いたむる音もこそすれ

をさなごは吾が病み臥せる枕べの蜜柑を持ちて逃げ行かむとす

鹽づけにしたる茸(きのこ)を友として食へばあしびきの山の香(か)ぞする

木曾やまに啼きけむ鳥をこのあしたあぶりてぞ食ふ命(いのち)延(の)ぶがに

朝あけし厠(かはや)のなかにゐておもふけふのゆふべは何を食はむか

ゆふぐれし机のまへにひとり居りて鰻(うなぎ)を食ふは樂(たぬ)しかりけり

にぎり飯(いひ)を持てこし見ればほほの葉に包まれながらにほふひととき


 「たかはら」 

はかなごとわれは思へり今までに食ひたきものは大方(おほかた)くひぬ

あたたかき飯(いひ)くふことをたのしみて今しばらくは生きざらめやも

ビステキの肉くひながら飛行士は飛行惨死のことを話(はなし)す

雨のひまに谷に入り來て胡桃(あをぐるみ)いくつも潰(つぶ)すその香なつかし

午(ひる)過ぎにはやも宿かり親しみて油揚げ餅食ひつつ居たり

わが家より持ちて來たりし胡瓜漬を互(かたみ)に食ひぬ谿の川原に

田麥俣(たむぎまた)を眼下(まなした)に見る峠にて餅(もちひ)をくひぬわが子と共に

石龜(いしがめ)の生める卵をくちなはが待ちわびながら呑むとこそ聞け


 「連山」 

饅頭(まんとう)を頬ばるときも痘痕(あばた)ある顔一面(いちめん)を笑みかたまけて

油燈(ゆとう)にて照らし出されしみ佛(ほとけ)に紅(べに)あざやけき柿の實ひとつ

わがそばに克琴(くうちん)といふ小婦(せうふ)居り西瓜の種子(たね)を舌の上(へ)に載す


 「石泉」 

むかひ居て朝飯(あさいひ)をくふ少年は聲(こゑ)がはりして來(きた)れるらしき

朝々(あさあさ)の味噌汁のあぢ苦(にが)くして蕨をひでて食ふこともなし

そこはかとなく日くれかかる山寺(やまでら)に胡桃もちひを呑みくだしけり

ゐろり火にやまべあぶりていまだ食はず見つつしをれば樂しかりけり


 「白桃」 

ただひとつ惜しみて置きし白桃(しろもも)のゆたけきを吾は食ひをはりけり

味噌汁に卵おとしてひとり食ふ朝けの山をさびしとおもふ

わがこもる部屋に來りて穉兒(をさなご)は追儺の豆を撒きて行きたり

街にいでて何をし食はば平(たひら)けき心はわれにかへり來むかも


 「曉紅」 

燠(おき)のうへにわれの棄てたる飯(いひ)つぶよりけむりは出でてく燒けゆく

朝な朝な味噌汁のこと怒(いか)るのも遠世(とほよ)ながらの罪のつながり

いま少し氣を落著(おちつ)けてもの食へと母にいはれしわれ老いにけり

朝の茶の小つぶ梅の實われひとり寂しく食ひて種子(たね)を並べぬ


 「寒雲」 

乳(ちち)の中になかば沈みしくれなゐの苺を見つつ食はむとぞする

わが側(そば)にをとめ來りてドラ燒をしみじみ食ひて去りたるかなや

通草(あけび)の實ふたつに割れてそのなかの乳色なすをわれは惜しめり

むらさきの葡萄(ぶだう)のたねはとほき世のアナクレオンの咽(のど)を塞(ふさ)ぎき

をとめ等(ら)がくちびるをもてつつましく押(お)しつつ食はむ葡萄(ぶだう)ぞこれは

餅のうへにふける黴(あをかび)の聚落(しゆうらく)を包丁をもて吾けづりけり


 「のぼり路」 

しめぢ茸(たけ)栗茸(くりたけ)むらさきしめぢ茸木の葉のつきしままに並(な)めたる


 「霜」 

いろ赤き砂もまじりて遙かなる洋(うみ)彼方ゆ來つる米(よね)はも

ためらはむことひとつなしくらきより起きて飯(いひ)くふ汝(な)が父われは


 「小園」 

どしや降りの午後になりつつものをいふことさへもなく木瓜(ぼけ)の實煮たり

このゆふべ嫁がかひがひしくわがために肉の數片(すうへん)を煮こみくれたり

これまでに吾に食はれし鰻(うなぎ)らは佛(ほとけ)となりてかがよふらむか

やうやくにれたる山のゆふまぐれからびてゐたる茄子を煮にけり

東京の弟がくれし稚鯉(をさなごひ)こよひ煮たればうまらに食はむ

久々にくひたる川の稚鯉こなれてゆけばわが現身(うつしみ)よ

のがれ來て一時間にもなりたるか壕(がう)のなかにて銀杏(ぎんなん)を食む

わが生(あ)れし村に來りて柔き韮を食むとき思ほゆるかも

握りたる飯(いひ)を食はむと山のべにわが脚を伸ぶ草鞋をぬぎて

よわき齒に噛みて味はふ鮎ふたつ山の川浪くぐりしものぞ

雪つもるけふの夕をつつましくあぶらに揚げし干柿いくつ


 「白き山」 

あまつ日の強き光にさらしたる梅干の香が臥處(ふしど)に入り來(く)

進駐兵山形縣の林檎をも好しといふこそほがらなりけれ

名殘(なごり)とはかくのごときか鹽からき魚の眼玉をねぶり居りける


 「つきかげ」 

現實(げんじつ)は孫うまれ來て乳(ちち)を呑む直接にして最上の春

三椀(さんわん)の白飯(しらいひ)をしもこひねがひこの短夜(みじかよ)の明けむとすらし

ひと老いて何のいのりぞ鰻すらあぶら濃過(こす)ぐと言はむとぞする

わが生(せい)はかくのごとけむおのがため納豆買ひて歸るゆふぐれ

われつひに六十九歳の翁にて機嫌よき日は納豆など食(は)む

冬粥を煮てゐたりけりくれなゐの鮭のはららご添へて食はむと

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