細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『エンド・オブ・ウォッチ』の鮮烈でエッジのきいた切れ味にゾクッ!!!

2013年06月07日 | Weblog

●6月6日(木)13−00 築地<松竹本社3F試写室>
M−068『エンド・オブ・ウォッチ』End of Watch/EWO (2012) Sole productions / llc and hedge fund film partners
監督/デヴィッド・エアー 主演/ジェイク・ギレンホール <109分> 提供/プレシディオ ★★★★
個人的には今年になって見た新作で、いちばん感銘した。
だってあの「トレーニング・デイ」の監督の新作。しかも地元サウス・セントラルが舞台だから、入念にブラッシュ・アップされている。
タイトルは、L A の警官が、その日の業務終了のノートに記す、<業務終了>のことだ。
ロスでも、もっとも人種の坩堝で犯罪発生トラブルの多発地区のパトロール警官のジェイクは、相棒のマイケル・ペーニャといいコンビ。
というのもマイケルはメキシカンなので、地域の不良な連中のスラングや、裏流通にも詳しいのだ。
連日のように、地区のパトロールをしていると、意外な事件や不審な家屋に気がつく。これがドキュメント・タッチで鮮烈だ。
ローレンス・カスダンの「グランド・キャニオン」でも恐れられた、最悪の犯罪地区。
それでも地元に詳しい、ふたりの相棒コンビは陽気にパトカーを走らせる。
いくつかの摘発で、署内で表彰も受けたが、まだまだ刑事への昇格は遠い道だ。
しかし、このふたりを煙たがる地元のシンジケートは、彼らを罠にかけて殺害しようと計画する。
「フレンチ・コネクション」のウィリアム・フリードキンが監督した「狼たちの街/LA大捜査線」よりは遥かに鮮烈だ。
というのも、パトカーに設置してある追跡カメラや、ハンディな特殊機種で撮影されているので、抜群の迫力が見られる。
ジェイクはフィアンセに子供が出来て、同僚のマイケルも新婚。ふたりの陽気な人生はこれからだ。
しかし密輸入の麻薬カルテルの組織ギャングの待ち伏せにあって、壮絶な銃撃戦になるラストは、これまでにない臨場感だ。
計算された演出リズムと、抜群のコンビネーション。ポリス・アクションとしては最高レベルの作品。感動した。

■当たった瞬間、レフトライナーかと思ったが、そのままスタンド直撃。
●8月17日より、丸の内TOEI などでロードショー


●なぜか5月の二子玉川サンセット傑作座はノワール大会。

2013年06月05日 | Weblog

●5月の二子玉川サンセット傑作座(自宅)ベストテン

1/『飾窓の女』44(フリッツ・ラング)主演/エドワード・G・ロビンソン/VHS ★★★★
  実直な壮年紳士は友人たちと街で飲んだあと、ギャラリーのウィンドウに飾ってあった肖像画の美女にそっくりな女性に声をかけられた。

2/『異国の出来事』48(ビリー・ワイルダー)主演/ジーン・アーサー/VHS ★★★☆☆☆
  戦後のベルリンの廃墟を取材していたジャーナリストは、軍の物資をカフェの美人歌手に横流ししている不審な事実に気がついた。

3/『殺人!』30(アルフレッド・ヒッチコック)主演/ハーバード・マーシャル/LD ★★★☆☆☆
  殺人事件の裁判で有罪となったガールフレンドの無実を証明するために、真犯人を探す弁護士の活躍を描いたヒッチコック初期の傑作。

4/『大時計』48(ジョン・ファーロウ)主演/レイ・ミランド/DVD ★★★☆☆
  マンハッタンの大会社で起こった殺人事件でビルが封鎖され、容疑者となって追われた男は、タイムリミットで真相を暴くサスペンス。

5/『バーバー』01(ジョエル&イーサン・コーエン)主演/ビリー・ボブ・ソーントン/DVD ★★★☆☆
  実直な床屋の理髪師は詐欺にまきこまれて、誤ってひとを殺してしまった。古典的なノワールのタッチをモダーンに再現した秀作。 

6/『惑星ソラリス』72(アンドレイ・タルコフスキー)/DVD
7/『サイド・ストリート』50(アンソニー・マン)/DVD
8/『コンフェッション』02(ジョージ・クルーニー)/DVD
9/『ブロンドの殺人者』44(エドワード・ドミトリク)/DVD
10/『ダーク・パスト』49(ルドルフ・マテ)/VHS

★その他に見た傑作は
「星のない男」56/カーク・ダグラス
「戦略空軍命令」55/ジェームズ・スチュワート
「口紅殺人事件」56/ダナ・アンドリュース
「パリは霧にぬれて」71/フェイ・ダナウェイ
「冷たい月を抱く女」93/ニコール・キッドマン・・・などでした。


●5月の試写ベストは、やっぱり『トゥ・ザ・ワンダー』でした。

2013年06月04日 | Weblog

●5月に見た新作試写ベスト3

1/『トゥ・ザ・ワンダー』(テレンス・マリック)ベン・アフレック ★★★★
   娘のいる若い女性との恋の果てに、生活環境を替えて再スタートしようとしたふたりだが、微妙な三角関係には歪みが生じはじめた。

2/『25年目の弦楽四重奏』(ヤーロン・シルバーマン)フィリップ・シーモア・ホフマン ★★★☆☆☆
   結成以来25年もの間、一緒に演奏旅行をしたグループにも、老齢のために音感のズレが生じて、メンバーの変更を迫られる宿命の厳しさ。

3/『クロワッサンで朝食を』(イルマル・ラーグ)ジャンヌ・モロー ★★★☆☆
   パリの高級アパルトマンに住む富豪の老婦人と、エストニアから出稼ぎに来た貧しい中年家政婦とのかすかな接点を描いた佳作。

■その他にも、5月は豊作で、「欲望のバージニア」「ペーパーボーイ/真夏の引力」「さよなら渓谷」「マーヴェリックス」など印象的でした。


●『ウォーム・ボディーズ』純愛ゾンビと人間のラブストーリー

2013年06月03日 | Weblog

●5月31日(金)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−067『ウォーム・ボディーズ』Warm Bodies (2013}summit entertainment / mandevile pictures
監督/ジョナサン・レヴィン 主演/ニコラス・ホルト <98分>配給/アスミック・エース ★★★☆
全米初登場1位、という触込みの新作が毎週登場する。
ま、それも猫の目のように、ころころと代わるので、大して長続きはしないが、それもご愛嬌。
これもそのナンバー1。しかもランクインされるのは、有名スター映画ではなくて、「ゾンビ映画」が多い傾向だ。
ゾンビやモンスターものは、趣向を替えればいろいろ出て来るが、これはゾンビのラブストーリーなのであった。
だいたい、顔面蒼白で目が光り、あまりラブストーリー向きではないのだが、これはそれに挑戦しているのだ。
ニコラスは最近、不覚の事故でゾンビになった青年だが、警備隊の若い女性に恋をした。
気が弱くて誠実な彼は、懸命にアプローチを繰りかえして存在感をアピールし、彼女もゾンビらしくない彼に惹かれ出す。
どうしてこうもゾンビやエイリアンやモンスターをテーマにした新作が、作られるのかは、人種問題を語らなくてすむからだろう。
名前は「R」としか記憶のない彼だが、これはあきらかに「ロミオとジュリエット」がベースにある。
たしかに死線を超えたゾンビには、よく理解できる設定だ。
ま、そんなユニークな発想のラブ・ロマンスに、興味のある若いカップルには、不思議なデート・ムービーだろう。

■ボテボテのサードゴロだが、バウンドがイレギュラーして渋いヒット。
●9月21日より、全国ロードショー


●『さよなら渓谷』の崩れて行く挫折の青春ノワール。

2013年06月01日 | Weblog

●5月31日(金)10−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−066『さよなら渓谷』(2013)S・D・P ステューディオスリー 新潮社
監督/大森立嗣 主演/真木よう子 <117分> 配給/ファントム・フィルム ★★★☆☆
あの「悪人」の吉田修一原作。となると、かなりエッジの効いた感性で、いまの若者の暗部に潜む感覚を抉る。
都会から見放されたような山間で起こった幼女殺害事件。
その事情聴取を受けた近所の男は、かつて甲子園での活躍からプロの道を期待されていたルーキーだった。
この現実に興味を持った雑誌記者が調べると、高校の野球部時代に、集団レイプ事件を起こして退部。そして、いまは山間の製材所労働者。
ひっそりとしたアパートで、彼は愛人と隠遁生活をしていたのだ。男の過去も悲惨だが、愛人には、もっと過酷な秘め事が明かされて行く。
かつての「砂の器」や「飢餓海峡」のように、日本のどこにでもある転落の人生だ。
フィルムノワールの本質は、このようなケースのドラマであって、善人たちの「転落の美学」と判断している。
という観点で見ると、この作品も、愛情の飢餓というよりは、まさに青春を踏み外した男女の愛憎ドラマだ。
その悲壮なテーマを、「まほろ駅前・・」の大森監督は、独自のクールな視線でハードに描いて見せる。
不思議な愛人関係には、じつはもっと深く複雑な妄執があって、しだいにその実態がフラッシュバックされていく。
難をいえば、その回想の手法が、ときに現実と混同してしまう部分がある。が、ドラマはどんどん崩れて行く。
これも彼らの、宿命の愛なのだ。と、渓谷の美しい流れを否定するように映画は、沈黙を守るのだ。

■しぶといゴロがセカンドベースをかすめて、痛烈なヒット。
●6月22日より、有楽町スバル座ほかでロードショー