細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『さよなら渓谷』の崩れて行く挫折の青春ノワール。

2013年06月01日 | Weblog

●5月31日(金)10−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−066『さよなら渓谷』(2013)S・D・P ステューディオスリー 新潮社
監督/大森立嗣 主演/真木よう子 <117分> 配給/ファントム・フィルム ★★★☆☆
あの「悪人」の吉田修一原作。となると、かなりエッジの効いた感性で、いまの若者の暗部に潜む感覚を抉る。
都会から見放されたような山間で起こった幼女殺害事件。
その事情聴取を受けた近所の男は、かつて甲子園での活躍からプロの道を期待されていたルーキーだった。
この現実に興味を持った雑誌記者が調べると、高校の野球部時代に、集団レイプ事件を起こして退部。そして、いまは山間の製材所労働者。
ひっそりとしたアパートで、彼は愛人と隠遁生活をしていたのだ。男の過去も悲惨だが、愛人には、もっと過酷な秘め事が明かされて行く。
かつての「砂の器」や「飢餓海峡」のように、日本のどこにでもある転落の人生だ。
フィルムノワールの本質は、このようなケースのドラマであって、善人たちの「転落の美学」と判断している。
という観点で見ると、この作品も、愛情の飢餓というよりは、まさに青春を踏み外した男女の愛憎ドラマだ。
その悲壮なテーマを、「まほろ駅前・・」の大森監督は、独自のクールな視線でハードに描いて見せる。
不思議な愛人関係には、じつはもっと深く複雑な妄執があって、しだいにその実態がフラッシュバックされていく。
難をいえば、その回想の手法が、ときに現実と混同してしまう部分がある。が、ドラマはどんどん崩れて行く。
これも彼らの、宿命の愛なのだ。と、渓谷の美しい流れを否定するように映画は、沈黙を守るのだ。

■しぶといゴロがセカンドベースをかすめて、痛烈なヒット。
●6月22日より、有楽町スバル座ほかでロードショー