礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

白蓮家出事件は、東京朝日新聞のスクープ

2014-09-18 03:35:14 | コラムと名言

◎白蓮家出事件は、東京朝日新聞のスクープ

 一昨日、大阪朝日新聞社整理部編の『新聞記者打明け話』(世界社、一九二八)という本を紹介した。ここには、いわゆる「白蓮家出事件」について回想している文章も収録されている。原田譲二の「白蓮家出」である。本日は、これを紹介してみよう。
 白蓮家出事件(白蓮事件)については、ウィキペディア「白蓮事件」に詳細な解説がある。その冒頭は、次のようになっている。

白蓮事件(びゃくれんじけん)とは、大正時代の1921年(大正10年)10月20日、福岡の炭鉱王・伊藤伝右衛門の妻で、歌人として知られる柳沢白蓮(伊藤燁子「あきこ」)が、滞在先の東京で出奔し、社会運動家で法学士の宮崎龍介と駆け落ちした事件。新聞紙上で妻白蓮から夫への絶縁状が公開され、それに対して夫・伝右衛門から反論文が掲載されるマスコミのスクープ合戦となり、センセーショナルに報じられた。

 ウィキペディアの同項は、この事件の報道を、「大阪朝日の単独スクープ」と位置づけているが、原田譲二の文章によれば、最初に事件をキャッチしたのは、東京朝日新聞社であり、少なくとも、大阪朝日新聞社の「単独スクープ」とは言いがたい。なお、よく知られているように、NHKの連続テレビ小説『花子とアン』に登場している葉山蓮子(演ずるのは仲間由紀恵)は、柳沢白蓮がモデルである。

 白 蓮 家 出  原田譲二
 いま、切抜帖を取出してみると、白蓮夫人家出事件は、大正十年〔一九二一〕十月二十二日の新聞にのつてゐる。そして、白蓮夫人が行方をくらましたのは、二十日午前九時三十分、東京駅発の特急列車に伊藤伝右衛門氏を送りこんでおいてからのことで、さて夫人を乗せた自動車が、どこへどう突つ走しつたかは、かいもくわからぬと書いててある。
 わからぬので、全く一と苦労した、夫人たちが泊つてゐた旅館――日本橋槇町〈マキチョウ〉の島屋では、奥様も御一しよにお帰りになつたのでせうといふ。しかし、それは事実ではなかつた。白蓮夫人の妹が吉井勇にとついでゐるから、或は鎌倉の同家にゐるのではないかと、その方面へも手当〈テアタリ〉してみたが、さうでもなかつた。結局、その在所〈アリカ〉をつきとめ得たのは、二十二日の午前中であつたが、その種明しはあとでする。とにかく、自分の社の記者と写真版とがそこへ駈けつけると、間もなく他の社のものも押し寄せて来たから、独占記事にはならなかつた。
 これより先、編輯局の一隅(東京朝日新聞社の)で、近頃入つたばかりの二人の若い記者が、何か物案じ顔にひそひそ話しをしてゐた。それを偶然に見つけたのが私であつた。私は笑ひながら、君は何をひそひそとやつてゐるのだといつた。すると、脊の低い方のN君が顔色を変へて、「おい、いつてしまはうぢやないか」といつて、高い方をかへり見た。高い方は外報部の見習生であつた。
 私は打ち明けられて、実におどろいた。これは重大事件である。こんなことをこれらの人が知つてをらうとは、夢にも思はなかつた。その時私が昂奮して、『ニユースは公けのものだ、たとへそれが親友の身の上に関することであつても、秘すべき性質のものではない。巣についた牝鶏〈メンドリ〉のやうに、新聞記者がニュースを抱へ込むことは罪悪だ』といつたことを覚えてゐる。しかし、まだ職業意識の明かでない両君にとつては、事は友人の秘事であるし、知つてゐて黙つてゐることが恐ろしいやうでもあり、新聞に出すのも忍びないといふので、その始末になやんでゐるのであつた。そこへ、悪者の私が横合ひから飛び出したのだから、辻強盗にあつたやうなものである。【中略】
 それはとにかく、両君は早速老練な応援者を得て、材料の蒐集に取りかゝつた。当面の人物である宮崎龍介君は、小石川のあたりへ弁護士の事務所を出したばかりであり、その友人の赤松克麿君は、まだ総同盟が友愛会といふ頃の鉱山同盟の理事であつたが、前の両君は、これらの人々と学校時代からの友達であつたから、すべての材料は正確に、詳細に、しかしてまたたやすく手に入つた。たゞあまりに懇意であるために、困ることもないではなかつた。【以下、次回】

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