◎江藤源九郎、美濃部達吉を不敬罪で告発
成宮嘉造の論文「天皇機関説のゆくえ」(1979年3月)を紹介している。本日は、その三回目。
本日、紹介するのは、「3.天皇機関説排撃の政治」の章の「第7 機関説に対する行政処分と司法処分」の節の全文である。
第5 貴族院の建議と衆議院の決議並に国体明徴 【略】
第6 政府の国体明徴の声明 【略】
第7 機関説に対する行政処分と司法処分
(1) 行政処分
内務省は閣議を経て4月9日,美濃部博士の3著書―「逐条憲法精義」・「憲法撮要」・「日本憲法の基本主義」―を発禁,2著書を改版処分とし,美濃部博士以外の著書は特に問題にしない.文部拓務両大臣は地方長官・官公私の大学・専門学校・高校に訓令を発した.時に東京朝日新聞は,これを学説の国定と正当にも批判した(10.4.12東朝).
(2) 司法処分
2月9日江藤源九郎が美濃部達吉を不敬罪で告発したので,東京地検は4月7日美濃部を16時にわたり取調した.その結果,不敬罪は不起訴,著書は起訴・不起訴が問題となり,9月14日に美濃部の再取調となった.
美濃部は松本烝治博士の勧告に従い,上申書を提出したので,9月18日起訴猶予となった.続いて勅選議員の辞表を提出した.
金森〔徳次郎〕法制局長官,また美濃部達吉も告発されたが,金森は不起訴,12月16日美濃部は起訴猶予となった.
なお,高木正治は,10月16日に一木喜徳郎〈イチキ・キトクロウ〉を告発し,11月13日に私を含む次の15名を告発したが,12月28日いづれも不起訴となった⑴.
成宮嘉造,末弘厳太郎〈イズタロウ〉,森口繁治〈モリグチ・シゲハル〉,佐々木惣一,野村淳治〈ジュンジ〉,野村信孝〈ノブタカ〉,浅井清,市村光恵〈ミツエ〉,岡田啓介,金森徳次郎,清水澄〈トオル〉,宮沢俊義〈トシヨシ〉,美濃部達吉,副島義一〈ソエジマ・ギイチ〉,竹内雄.
(1)玉沢光三郎・前掲〔『所謂「天皇機関説」を契機とする国体明徴運動』東洋文化社、1975〕・328~9頁.宮沢俊義・前掲・422~3頁.
美濃部達吉を不敬罪で告発した江藤源九郎は、衆議院議員、陸軍少将。その父・源作は、江藤新平の弟という。
一木喜徳郎、成宮嘉造らを告発した高木正治については未詳。