おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

人斬り

2021-09-30 07:52:53 | 映画
「人斬り」 1969年 日本


監督 五社英雄
出演 勝新太郎 仲代達矢 石原裕次郎
   三島由紀夫 倍賞美津子 新條多久美
   仲谷昇 山本圭 伊藤孝雄 田中邦衛
   山内明 清水彰 滝田祐介 萩本欽一
   坂上二郎 辰巳柳太郎

ストーリー
時は幕末、文久年間の土佐に、剣術の才覚がありながら、藩内の厳しい身分制という壁に阻まれ立身を望めず、いまだその日暮らしに甘んじていた青年・岡田以蔵(勝新太郎)がいた。
彼は、背に腹は替えられぬ思いで、ついに家の隅で埃をかぶる先祖伝来の鎧兜を質屋に売り払うも相手にされず悲嘆に暮れる。
そんなとき、土佐随一の政治力を握るに至った武市半平太(仲代達矢)は、参政・吉田東洋(辰巳柳太郎)をクーデターによって追い落とし、自ら取って代わることを宣言。
以蔵は半平太に呼び出され、東洋暗殺の現場を視察せよと命じられる。
その夜が以蔵を変え、以蔵は次第に人斬りとしての本能を呼び醒ましてゆく。
数年後、京に上洛し、瑞山と号した武市は勤皇一派の中心人物となり、都で栄華の限りを尽くしていた。
そして以蔵もまた武市の下で多くの謀略・破壊工作の実行役として加担し、人斬りとして鳴らしていた。
人斬りの給金を得た以蔵は遊郭のおみの(倍賞美津子)に通い詰める。
土佐勤皇党はこの自分で持っているようなものだ、とまで得意の絶頂を誇示する以蔵の前に、武市とは異なる道を選んだ男・坂本龍馬(石原裕次郎)が現れる。
本間精一郎(伊吹総太朗)、井上佐一郎(清水彰)らを新たに葬った以蔵だが、龍馬は以蔵に人斬りをやめるよう忠告する。
はじめは聞き入れるつもりもなかった以蔵であったが、龍馬の「身分を誰も気にすることのない時代を切り開く」という言葉に次第に共鳴を覚えてゆく。
それは、かつて武市に随行した際に逗留した、攘夷派の急進的公卿・姉小路公知(仲谷昇)邸を訪れた際に出逢った美しい姫(新條多久美)の存在を忘れる事が出来ずにいたからであったのだが・・・。


寸評
幕末期に天誅と称して要人暗殺を行った尊王攘夷派の志士は京都の人々を震撼させたという事である。
特に4名は著名で、僕も少しぐらいの知識は持ち合わせている人たちである。
佐久間象山を暗殺したことで知られる肥後藩の河上彦斎(かわかみげんさい)。
薩摩藩には人斬り新兵衛と呼ばれた田中新兵衛、人斬り半次郎と呼ばれた中村半次郎がいる。
土佐藩には人斬り以蔵こと岡田以蔵がいる。
中村半次郎だけは明治維新後に桐野利秋と改名し大日本帝国陸軍少将を務めたのだが、河上彦斎は暗殺の嫌疑を理由に捕縛されて斬首され、田中新兵衛は暗殺の嫌疑で捕縛されて取り調べ中に自刃、岡田以蔵は京都で捕縛されて土佐で拷問の末に打ち首獄門に懸けられたなど非業の死を遂げている。
桐野利秋は下野し西南戦争で政府軍と闘い戦死したのは周知のことであろう。
この映画の主人公は人斬り以蔵と呼ばれた岡田以蔵である。
文豪三島由紀夫が田中新兵衛役で出演して異彩を放っている。
「憂国」に続き緊迫感あふれる切腹シーンを披露しているが、翌年、自身も壮絶な死を遂げることとなった。

実在の岡田以蔵が描かれたような男であったのかどうかは知らないが、演じられた岡田以蔵は勝新太郎の以蔵像なのか五社英雄の以蔵像なのかは別として、岡田以蔵のイメージを植え付ける事には成功している。
換言すれば勝新太郎は熱演、好演していたと思う。
岡田以蔵のむごい半生を描いているのだが、彼の単純さや苦悩がイマイチ伝わってこなかった。
以蔵は武市半平太に師事しているというより、いいように使われている飼い犬のような存在である。
以蔵が盲目的に武市に従うようになった理由が不明確だし、坂本龍馬との関係も不明確なことが以蔵の人物像を弱めているような気がする。
以蔵は功名心が強く、「土佐の岡田以蔵だ」と叫んで斬り込んでいくような男で、武市はその態度を苦々しく思っているが、暗殺という汚い仕事をこなすことに以蔵が長けていたから捨て去るようなことはしていない。
以蔵はテロの実行部隊の先頭にいる。
現在に於いてもテロの指導者はテロの標的を定めて殺害を指示し、時には自爆も強要している。
山本圭の宮川一郎などはまるで自爆ではないか。
彼が武市の命で持参した酒に毒が入っていることを知りながら、目的達成のために自らの命を懸けて飲み干す事が出来たのは何故なのか。
武市の宮川への指令には、彼が命を懸けるほどの説得力を持つものだったのだろうか。
以蔵は竜馬に頼まれて勝海舟の護衛を引き受けるが、実際に岡田以蔵は勝の護衛をやっていたようである。
そこで彼は刺客の一人を斬り捨てるが、これもどうやら史実にあるらしい。
しかし考えてみれば、勝海舟を襲った連中は以蔵と同じ側にいる志士だったのだから、彼は仲間を斬ったことになり、武市からもその行為を叱責されている。
以蔵は武市と竜馬の狭間で、彼らとどのような信頼関係を築いていたのだろう。
揺れ動く以蔵の心の内を見たかった。
最後には武市と決別する以蔵だが、この様な方法でしか武市と決別できなかった以蔵の半生は悲惨だ。
僕としては、五社には幕末の狂気にもう一歩斬り込んで欲しかった気持ちがある。


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