「軍旗はためく下に」 1972年 日本
監督 深作欣二
出演 丹波哲郎 左幸子 藤田弓子 三谷昇 ポール牧
市川祥之助 中原早苗 関武志 内藤武敏
中村翫右衛門 江原真二郎 夏八木勲 藤里まゆみ
寺田誠 山本耕一
ストーリー
昭和27年、「戦没者遺族援護法」が施行されたが厚生省援護局は、富樫勝男(丹波哲郎)の未亡人サキエ(左幸子)の遺族年金請求を却下した。
理由は富樫軍曹の死亡は“敵前逃亡”による処刑で援護法の対象外というもので、遺族援護法は「軍法会議により処刑された軍人の遺族は国家扶助の恩典は与えられない」とうたっているのだった。
富樫軍曹の未亡人サキエは、この厚生省の措置を不当な差別として受けとった。
富樫軍曹の処刑を裏付ける証拠、たとえば軍法会議の判決書などは何ひとつなく、また軍曹の敵前逃亡の事実さえも明確ではなかったからである。
以来、昭和46年の今日まで、毎年8月15日に提出された彼女の「不服申立書」はすでに二十通近い分量となったが、当局は「無罪を立証する積極的証拠なし」という判定をくり返すだけだった。
しかし、サキエの執拗な追求は、ある日とうとう小さな手がかりを握むことになる。
亡夫の所属していた部隊の生存者の中で当局の照会に返事をよこさかなったものに元陸軍上等兵寺島継夫(三谷昇)、元陸軍伍長秋葉友幸(関武志)、元陸軍憲兵軍曹越智信行(市川祥之助)、元陸軍少尉大橋忠彦(内藤武敏)の四人がいたという事実である。
寺島継夫は朝鮮人で養豚業を営んでおり、秋葉友幸は漫才師となって戦争ネタをやっていた。
越智信行は盲目となってマッサージ師に、大橋忠彦は高校教師となっていたが、サキエは藁にもすがる思いで、この四人を追求していくのだが、その追求の過程で、更に多くの人物が彼女の前に現われてくる。
サキエの前に明らかにされたものは、今まで彼女の想像したこともなかった恐るべき戦場の実相だった。
寸評
深作欣二は「仁義なき戦い」シリーズや、「蒲田行進曲」など娯楽性の高い作品を撮ってきた監督だが、彼には珍しくこの「軍旗はためく下に」は反戦を訴える社会派作品である。
とはいうものの、真実は一体どうだったのかを追及するサスペンス性があって、社会派作品ながらもエンタメ性も持ち合わせている。
冒頭で昭和天皇による戦没者追悼式の模様が映し出されるが、富樫は軍法会議で処刑されたことで戦没者とはみなされておらず、サキエは遺族年金を受け取ることが出来ていない。
サキエは判明した4人を訪ね歩き亡き夫に起きた真実を聞きただしていくが、最初にあった寺島は「自分は富樫さんのおかげで生き延びることが出来た」と富樫の人間的素晴らしさを話す。
この時点では富樫が軍法会議に掛けられて処刑されたのは冤罪で、軍隊内部の腐敗が描かれていくのかなという思いが浮かんでくるのだが、二人目の秋葉の証言あたりから富樫の本当の姿はどうだったのかと思わせる内容となって来て、サキエでなくても思いは混とんとしてくる。
証言が進んでいくうちに、果たしてその当事者が富樫だったのかどうかは曖昧なままだが、人肉を食べたとか上官を殺害したとかの事実が明らかにされていく。
飢えをしのぐために人肉を食べると言う話は「野火」などでも出てくるし、古参兵による新兵いじめは幾度となく描かれてきたものだが実際にもそのようなことはあったに違いない。
特に人肉を食べる場面は衝撃的で、肉の調達を疑った男も殺害して、その男の尻の肉を食べたと言うのだ。
人が人を殺してその肉を食うと言うおぞましい行為なのだが、飢えに苦しむ戦場ではそのような行為もできてしまうのかもしれない。
人間としての尊厳をなくしてしまうのが戦場なのだろう。
銃撃を受けるシーンなどはあるが砲弾が飛び交うようなシーンはない。
当時のスチール写真を使っての描き方はドキュメンタリーを意識させ、起きていることの信憑性を高めている。
心に響くのは大橋が言った「遺族の意に添うように処理してやればいいのに」という言葉、あるいは「A級戦犯が総理大臣になっているのに、後始末は我々下っ端が負わされている」という言葉である。
富樫も間違いなく戦争の犠牲者なのだ。
国家によって引き起こされた戦争の犠牲者及びその遺族は国家によって救われて当然だと思う。
本当のことを語っているように見える証言者も、どこかで自分をかばっているような所があり、そのことが次々と暴かれていく後半はサスペンスとしても盛り上がりを見せていく。
千田部隊長(中村翫右衛門)は憎まれるべき存在だが、彼がサキエに語った内容が最後の衝撃となる。
サキエはその事実を再確認するが、そのことで富樫の名誉が回復されたわけではない。
サキエが最後につぶやく言葉がむなしい。
戦場で起きる想像を絶するような行為と共に、終戦が成っているにもかかわらず処刑が行われるという軍隊組織の不条理が恐ろしい。
僕たちはそのようなことを経験しないできた戦争を知らない世代である。
それは幸せなことでもあるのだが、ひとたび戦争を引き起こせばこのような悲惨な出来事も起きてしまうのだと言うことを心に留め置かねばならない。
監督 深作欣二
出演 丹波哲郎 左幸子 藤田弓子 三谷昇 ポール牧
市川祥之助 中原早苗 関武志 内藤武敏
中村翫右衛門 江原真二郎 夏八木勲 藤里まゆみ
寺田誠 山本耕一
ストーリー
昭和27年、「戦没者遺族援護法」が施行されたが厚生省援護局は、富樫勝男(丹波哲郎)の未亡人サキエ(左幸子)の遺族年金請求を却下した。
理由は富樫軍曹の死亡は“敵前逃亡”による処刑で援護法の対象外というもので、遺族援護法は「軍法会議により処刑された軍人の遺族は国家扶助の恩典は与えられない」とうたっているのだった。
富樫軍曹の未亡人サキエは、この厚生省の措置を不当な差別として受けとった。
富樫軍曹の処刑を裏付ける証拠、たとえば軍法会議の判決書などは何ひとつなく、また軍曹の敵前逃亡の事実さえも明確ではなかったからである。
以来、昭和46年の今日まで、毎年8月15日に提出された彼女の「不服申立書」はすでに二十通近い分量となったが、当局は「無罪を立証する積極的証拠なし」という判定をくり返すだけだった。
しかし、サキエの執拗な追求は、ある日とうとう小さな手がかりを握むことになる。
亡夫の所属していた部隊の生存者の中で当局の照会に返事をよこさかなったものに元陸軍上等兵寺島継夫(三谷昇)、元陸軍伍長秋葉友幸(関武志)、元陸軍憲兵軍曹越智信行(市川祥之助)、元陸軍少尉大橋忠彦(内藤武敏)の四人がいたという事実である。
寺島継夫は朝鮮人で養豚業を営んでおり、秋葉友幸は漫才師となって戦争ネタをやっていた。
越智信行は盲目となってマッサージ師に、大橋忠彦は高校教師となっていたが、サキエは藁にもすがる思いで、この四人を追求していくのだが、その追求の過程で、更に多くの人物が彼女の前に現われてくる。
サキエの前に明らかにされたものは、今まで彼女の想像したこともなかった恐るべき戦場の実相だった。
寸評
深作欣二は「仁義なき戦い」シリーズや、「蒲田行進曲」など娯楽性の高い作品を撮ってきた監督だが、彼には珍しくこの「軍旗はためく下に」は反戦を訴える社会派作品である。
とはいうものの、真実は一体どうだったのかを追及するサスペンス性があって、社会派作品ながらもエンタメ性も持ち合わせている。
冒頭で昭和天皇による戦没者追悼式の模様が映し出されるが、富樫は軍法会議で処刑されたことで戦没者とはみなされておらず、サキエは遺族年金を受け取ることが出来ていない。
サキエは判明した4人を訪ね歩き亡き夫に起きた真実を聞きただしていくが、最初にあった寺島は「自分は富樫さんのおかげで生き延びることが出来た」と富樫の人間的素晴らしさを話す。
この時点では富樫が軍法会議に掛けられて処刑されたのは冤罪で、軍隊内部の腐敗が描かれていくのかなという思いが浮かんでくるのだが、二人目の秋葉の証言あたりから富樫の本当の姿はどうだったのかと思わせる内容となって来て、サキエでなくても思いは混とんとしてくる。
証言が進んでいくうちに、果たしてその当事者が富樫だったのかどうかは曖昧なままだが、人肉を食べたとか上官を殺害したとかの事実が明らかにされていく。
飢えをしのぐために人肉を食べると言う話は「野火」などでも出てくるし、古参兵による新兵いじめは幾度となく描かれてきたものだが実際にもそのようなことはあったに違いない。
特に人肉を食べる場面は衝撃的で、肉の調達を疑った男も殺害して、その男の尻の肉を食べたと言うのだ。
人が人を殺してその肉を食うと言うおぞましい行為なのだが、飢えに苦しむ戦場ではそのような行為もできてしまうのかもしれない。
人間としての尊厳をなくしてしまうのが戦場なのだろう。
銃撃を受けるシーンなどはあるが砲弾が飛び交うようなシーンはない。
当時のスチール写真を使っての描き方はドキュメンタリーを意識させ、起きていることの信憑性を高めている。
心に響くのは大橋が言った「遺族の意に添うように処理してやればいいのに」という言葉、あるいは「A級戦犯が総理大臣になっているのに、後始末は我々下っ端が負わされている」という言葉である。
富樫も間違いなく戦争の犠牲者なのだ。
国家によって引き起こされた戦争の犠牲者及びその遺族は国家によって救われて当然だと思う。
本当のことを語っているように見える証言者も、どこかで自分をかばっているような所があり、そのことが次々と暴かれていく後半はサスペンスとしても盛り上がりを見せていく。
千田部隊長(中村翫右衛門)は憎まれるべき存在だが、彼がサキエに語った内容が最後の衝撃となる。
サキエはその事実を再確認するが、そのことで富樫の名誉が回復されたわけではない。
サキエが最後につぶやく言葉がむなしい。
戦場で起きる想像を絶するような行為と共に、終戦が成っているにもかかわらず処刑が行われるという軍隊組織の不条理が恐ろしい。
僕たちはそのようなことを経験しないできた戦争を知らない世代である。
それは幸せなことでもあるのだが、ひとたび戦争を引き起こせばこのような悲惨な出来事も起きてしまうのだと言うことを心に留め置かねばならない。
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