おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ハッシュ!

2020-01-17 10:21:57 | 映画
「ハッシュ!」 2001年 日本


監督 橋口亮輔
出演 田辺誠一 高橋和也 片岡礼子
   秋野暢子 冨士眞奈美 光石研
   つぐみ 斉藤洋介 深浦加奈子
   沢木哲 岩松了 寺田農 加瀬亮

ストーリー
奔放なゲイライフを送るペットショップで働く直也ははっきりした性格だが少々怒りっぽい。
ゲイであることを周囲に悟られないように暮らしている土木研究所で働く勝裕。
良く言えば優しい性格だが実際には、日常の中で様々なことを感じていてもなかなかそれを表に出せない優柔不断な所がある。
偶然直也と勝裕は夜の街で出会い、一夜を共にしたことから付き合い始める。
ある日、二人の前に歯科技工士をしている朝子と言う女が現れる。
人と触れ合うことを諦め、愛の無いセックスを繰り返す日々を送っている彼女は、勝裕がゲイであることを知った上で、彼の子を妊娠したいと相談を持ちかけてきた。
幼くして父親を亡くしていた勝裕は、自分が父親になれるかもしれないことに興味津々。
一方、初めは激怒していた直也も彼女の真剣な態度に次第に理解を示し、やがて3人は子供を持つことに前向きに取り組んでいく。
ところが、勝裕に想いを寄せる同僚のエミの密告でそれを知った勝裕の実家の嫁が、精神科に通院歴のある朝子の血を栗田家に入れる訳にはいかない、彼女は家族を、そして子育てを軽く考えていると猛反対し大騒ぎとなってしまう。
しかし、その兄一家も兄の急死で敢えなく崩壊。
こうして従来の家族の在り方の儚さを目の当たりにした3人は、新しい家族の可能性を探って新たな一歩を踏み出していくのであった。


寸評
直也(高橋和也)と勝裕(田辺誠一)は「ゲイ」であり、朝子(片岡礼子)は結婚を望んでいないが子供だけは欲しいという女である。
特殊な人々を描いた作品のように思えるが、描かれている内容は普遍的なもので、特殊なだけにその問題が浮かび上がってくる文字通り”面白い”映画である。

前半は直也と勝裕のゲイライフが描かれる。
少しくどいと思われるが、ゲイの世界を知ってもらおうという意識が働いているのかもしれない。
橋口亮輔監督自身がゲイであることと無関係ではないような気がする。
彼らはゲイであること以外は全く普通の人間である。
直也の母(冨士眞奈美)はゲイとニュウハーフを混同していて笑わせる。
このことはゲイが普通の人間であることを示していた。
母親は離婚しているが直也がゲイであることを知っていて、息子の先々を心配している。
一方の勝裕の兄(光石研)は弟がゲイを秘密にしているのにそのことを感づいている。
「兄弟だから…」という肉親の感覚である。

血のつながっている彼等親子、兄弟の間に、赤の他人である勝裕の兄嫁(秋野暢子)が登場してくるとがぜん映画は輝きを増してくる。
兄嫁は姑にいびられた過去があり、兄との結婚生活も倦怠期を迎えているようだが、それは兄が自分たちが嫌っていた父親に似てきているせいでもある。
夫に召使のように扱われていた彼女が、勝裕の結婚をめぐって朝子に言い寄るシーンは一番盛り上がるシーンの一つとなっているのだが、それをワンカットで撮っている。
いわゆる長回しは随所で見られ、彼らが議論する場面ではその撮り方が多かったような気がする。
カットのつなぎで彼らの気持ち、ひいては作者の思いを我々に押し付けるような演出ではない。
長回しで撮ることで客観的な判断を我々自身にゆだねている。
上記の場面では亭主関白そうだった兄はオロオロするばかりで、勝子の剣幕に圧倒される。
兄嫁は朝子の過去の自殺未遂や二度の堕胎を非難して、あれほど嫌っていた栗田家に彼女の血を入れたくないという。
朝子は、手をつなぐ生活をしたい、明日への希望を持ちたいと言うのだが、彼らの家族観は全く違うのでかみ合わない。
一気の芝居で、出演者の奮闘に拍手を送りたいシーンで、特に秋野暢子の演技が素晴らしい。
家族は血のつながりによって維持されるものではない。
お互いに理解し合って触れ合うものである。
それがなかったから直也の母は離婚しており、勝裕の兄と兄嫁の間には隙間風が吹いているのだ。
特殊な関係である直也、勝裕、朝子にはそれがある。
鍋を突っつきながら、朝子がスポイトを直也と勝裕に渡すラストはその象徴なのだろうし、家族の在り方を問いかけるシーンでありながら、自分をノーマルと思っている僕には可笑しいシーンで、笑って映画を見終えた。


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